やり返しポイント貯まる
あの後中庭で大急ぎで昼食を食べ教室に戻った。
聖女様の取り巻き連中が私を見てクスクス笑っていたことから、昼休みの婚約者との話がもう知れ渡っているのだろう。
いや、本当に感じが悪い。
どんどん彼女たちへのやり返しポイントが貯まっていく。
恐らくメイリアは人が良いから、何を言われても耐え忍んでいたのだろう。でも残念ながら私は違う。
彼女たちはメイリアが既に別人になっていると気づかない時点で詰んでいるのだが……いつそれに気づくだろう。
クズな婚約者も全く気づかなかったし。小説のメイリアはあんなに饒舌に語るシーンなど無かったはずだが……。
ま、とりあえず自分の悪役令嬢という立ち位置は理解できた。
昼からの授業も真面目に受ける。淑女科と聞くと、「オホホホ」と言いながら紅茶を美味しく飲むイメージを勝手にしていたが、今朝は普通に学力面の勉強、昼からは領地経営学と結構難しい勉強をしている。また、メイリアだからかすぐ内容が理解できて面白い。これであの聖女御一行が私をそっとしておいてくれたら言うこと無しなのに。
下校時間となり、荷物をカバンに片付けていると、また聖女が話しかけてきた。
「……あの、お昼の話を聞きました。……私がエリオット様と親しいばかりに誤解させてすみません」
すみませんと言いながら、「エリオットと親しい」などワードのチョイスがいちいち癇に障る。
「婚約破棄の話も出てるんですって?」
「当然よね。エリオット様を怪我を理由に縛りつけただけの婚約なんて真実の愛には勝てないわ」
いや煽る煽る。
「……およしになって、まだ破棄されたわけじゃないんですから」
まだ……ね。
いや、ご心配していただかなくても破棄してみせますわ。
もちろんエリオット有責で。
しかし、貴族の女子ってこんなに馬鹿で大丈夫?聖女はいざとなれば教会があるけど、貴方達後がないと思うんですが……。
「……あの、婚約については私の一存では決められませんので、また相談してみます」
「早くしなさいよね」
「本当、お二人の姿を見ていたら潔く身を引きなさいよ。政略結婚なんて紙切れ1枚の価値でしかないのに……」
「……あの、それ本気で言われてます?」
いやいやいや。……本気?
メイリアになったばかりのにわかメイリアの私でさえ、その言葉がまずいと分かるのに。
「当たり前でしょ!」
「早く身の程をわきまえることね」
身の程をわきまえる?
プチッ。
自分の中で何かが切れる音がする。
「分かりました、すぐに父に相談させていただきます。失礼します」
よし、言葉通りすぐに相談しよう。
貴方達のご希望通り。
私は、家に帰ると執事に頼んで貴族名鑑を持って来てもらう。ふむ、ふむ。聖女の取り巻きは二人とも男爵家令嬢なのね。しかも所属する派閥の長はなんと我が家?
いや、確かにあの父が長では先行き真っ暗だけど。裏で暗躍するなら分かるけど堂々と長の娘を批難するのって本当に……。
私は、呼び鈴を鳴らす。
すぐさまメイドが部屋にやって来て頭を下げる。
「御用でしょうか?」
「あなたの家名を教えてちょうだい」
「キトン男爵家でございます」
丁寧に私に対応する。事務的だが、仕事に関してはしっかり行ってくれているので全く問題はない。
普通の男爵令嬢の立ち位置はこれよね。ま、結婚したら変わるんでしょうけど。普通は侯爵令嬢に楯突こうとは思わない。
「執事を呼んで」
「かしこまりました」
あの二人も家のメイドくらい賢かったら良かったのに。
「お呼びでしょうか?」
「この貴族名鑑だと現在の婚約状況が分からないんだけど、別に何かあるの?」
「結婚して籍を入れるまではこちらには記載がありません。婚約発表したものの一覧表はございますが、それでもよろしいでしょうか?」
「構わないわ。持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
執事が持って来た一覧表を確認する。
二人とも我が家の派閥の男爵家令息と婚約している。
これで決まりね。
「お父様のところに行くわ」
控えていた執事に告げ、そのまま父の執務室に直行する。
「失礼します」
「なんだ。忙しいから手短にしろ」
あれ、仕事してる?
父の手元には複数枚の束になった書類が置いてある。
最初の印象だと、仕事もせずに偉そうにするだけかと思ってだけど、良い意味で裏切られた感じ。
「実はご相談があって参りました。学園で我が家の派閥の男爵令嬢から婚約破棄を勧められていまして……しかも何もしていない私有責で。エリオット様と聖女様は真実の愛で結ばれているからだそうです。おまけに政略結婚は紙切れ1枚の物だともおっしゃられていて、たとえ学生といえども看過できないと思いご相談させていただきました」
「家名をクリスに伝えておけ。後は私の方で処罰する」
こちらは全く見ずに書類をさばきながら話をする。
「ありがとうございます」
いや、我が家を馬鹿にされたらもっと怒り狂うかと思ったのにあっさり処罰を申し出てくれて正直拍子抜けした。
「……少しは、まともなことを言うようになったな。用が終わったなら出て行け。明日に備えて早く寝ろ」
えっと、もしや心配してくれている?
それにメイリアのこともよく見てくれてた感じ?
父をじっと見つめるが、私とは全く目を合わせない。でも、心なしか表情が明るくなった気がする。
家族に恵まれてないと思ってたけど、父は不器用なだけかも。まだ分からないけど。また、何かあったら相談してみるのもありかもしれない。