対峙 2
「何をしている!授業が始まるぞ。関係のない奴は出ていけ!!」
先生が教室に現れ、エリオットを指導する。
「すみません。メイリアまた昼休みに」
エリオットは私を一瞥し、そう言い残すと教室を出ていった。
「……クレア=リヒテン。部外者を教室に連れてくるな!!」
「お言葉ですが、エリオット様はここにいるメイリア様を叱責されるためにいらっしゃったので、私は関係ありませんわ」
どの口が言う。
お前がわざわざエリオットに話をして火に油を注ぎ連れて来たんだろうが。いや、まぁ私もそうなるだろうと予想はしていましたが。
「関係ないやつが婚約者でもない男性を呼び捨てにし、放課後を共に過ごすのか?大概にしておかないといつか大きなしっぺ返しを食らうぞ」
先生、もっと言ってください。
「あら、学園内は身分は関係なく互いに平等に過ごすとお聞きしていたのですが、違うのかしら?」
聖女は先生の苦言にも平然と言い返す。周囲はドン引きである。
「お前は平等の意味をはき違えている。ま、良いだろう。警告はしたからな。それでは授業に入るぞ……」
さすが先生。聖女の嫌味も華麗にスルーされて、授業へとうつる。
はぁ、とにかく早く終わらせてしまいたいのに昼休みまで延びてしまった。授業が終わり聖女が教室を出て行くといつもの3人が駆け寄ってくれた。他のクラスメートも今日は足早に教室の外に出ていく。
「あの……メイリア様。エリオット様は大丈夫でしょうか?」
いや、やっぱりそう思いますよね。
「おっしゃっていることが支離滅裂で……傍から聞いていたら心配になり……」
「……分かりません」
正直以前のエリオットについてが分からないので何とも言えない。ただ今のエリオットは貴族社会の考え方からかなり逸脱している。
「以前はもう少しお話の分かる方だったような……恋は人を変えてしまうんでしょうか?」
それも分からない。恋に狂ったのかそれとも魅了魔法で狂っているのか……。
「それにしてもクレア様も、あんな方だとは思いませんでした」
いや、そっちは本質は変わっていないと思う。ただ、被っていた猫を脱ぎ捨てて、本性を現しただけで。
「ええ、せっかくの先生の苦言もあんな風に言い返すなんて……もってあと少しですわね……」
そして私たち以外いなくなった教室で小声で囁く。
「気づかれました?もともと皆様少し距離を置いていましたが先程の言動を聞き、多くの人が要注意人物としてクレア様を認識したことを。おそらく早晩噂が回りますわ」
でしょうね。私もモブAなら絶対に関わり合いたくない。
「クレア様、やはり貴族社会での経験が浅いことが仇になったんでしょうが……聖女としてどこまで保てるか……」
腐っても聖女。後は教会が責任を取ってくれるだろう。
「……ただ、今のエリオット様と話しても堂々巡りのような気がします。メイリア様、直接ではなくお家を通されるほうがよろしいのでは?」
「私もそう思います。今のエリオット様には正論は通じなさそうですし……」
……確かに。でも、長引かせたくはないしな……。自分で終いもつけたい。
「もう一度昼休みに話をしてみて無理なら、父に相談しますわ」
「分かりました。何かあってはいけないのでこっそり後をついて行きますから、危険を感じたら遠慮なく大声を上げてください」
「ええ。本当に。今のエリオット様は何をしでかすか分からないので心配です。メイリア様、くれぐれもお気をつけください」
3人ともが本気で心配してくれているのが伝わってくる。
「ありがとうございます。心強いですわ」
さぁ、昼休みに第2ラウンド!!
今度こそエリオットに話を聞いてもらえますように……。
私は残りの授業も真面目に受ける。
いや、本当に結構ためになる勉強を教えてくれている。
聖女はというと……
心ここにあらずという風にぼーっとしている。
いや、知識は武器だと思うのだが、大丈夫か聖女?
勉強しなければおそらくこれから起こるかもしれない様々な困難に太刀打ちできないと思うけど……。
ただ、私が言っても逆効果だろうし、敵に塩は送らない主義である。
私は目線を黒板に戻すと、ノートを書き上げた。




