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対峙


 いよいよエリオットが遠征から戻ってくる日になった。

 

「……今日だな。行くんだろう?」


 いつもと様子の違う私に気づいたライオネルが、気遣って声をかけてくれる。

 

 婚約してほんの数日しか経っていないのに、そんな風に何気ない変化に気付いてくれる関係を築けていることが嬉しい。やはり主人公。できる男である。

 

「ええ、嫌なことは早く済ませたいの」

 

 私も今日で小説の世界とは縁を切る気持ちである。ミシェルちゃんを助けられたのだから、私の未来だって助けてみせる。


「……そうか。一緒に行きたいが……1人が良いんだろう?」

 本当に私のことをよく分かってくれている。万が一が怖いから、今回は私1人で行きたい。変にライオネルを連れて行って、ライオネルが聖女になびいたらそれこそ立ち直れないかもしれない。


「ええ、自分の手で終わらせたいの」

 

「……分かった。良かったらこれを持って行ってくれないか?」

 そう言うとライオネルは首にかけていたチェーンを外した。チェーンの先には赤い宝石のついた指輪が揺れていた。そして私の首にかける。


 私の首にライオネルの指が触れ、思わず赤面してしまう。誤魔化すように指輪を見つめ口早に尋ねた。


「……これは?」

 どこかで見たことがある気がするのだけど……

 

「辺境伯家に代々伝わる指輪なんだ。一度だけ持ち主を助けてくれると言われている。迷信かもしれないけれど、身に付けていてほしい」

 

 思い出した。

 身代わりの指輪だ。

 小説の中では聖女に渡し、ラスボスになった私の攻撃をこれで防いで打ち倒すのである。


「こんな大切な物、私が持っていて良いの?」

「ああ、君だからこそ持っていてほしい」

 赤面するような台詞を真顔で言うから、私の顔は真っ赤なままである。


「……ありがとう」

 私は指輪を握りしめて、小さな声で呟いた。


 何事もなく、持ち主であるライオネルに返せますように……。


「あら、お兄様、お義姉様、今日はお早いですわね」

 毎日見送りに来るのが習慣になったミシェルちゃんとサラさんが現れる。そして、目敏く指輪を見つける。


「お兄様、遂にお義姉様に渡したのですね」

「……ああ」

「おめでとうございます」

 ミシェルちゃんとサラさんはにこにこと笑顔でライオネルに話しかけている。

 

 二人の間のやりとりはよく分からないけれど、そろそろ出発の時間である。


「いってらっしゃい」


 二人に見送られ出発する。いよいよである。


 学園に着いても初日のように騒がれることもなくなった。毎日のことなので、皆私とライオネルのことについては見慣れたようである。


「それじゃあ……放課後。何かあれば領地経営科に来てくれ」

 そう言うと靴箱でいつものように別れる。


 教室に入ると一瞬視線があつまるが、特にこちらを見続けることなく、それぞれの友人との会話に戻る。私も座って、荷物の整理をしているとここ最近話かけてくれる3人にいつものように声をかけられた。


「メイリア様、エリオット様とは今日?」

「ええ、そのつもりですわ」

「……そうですか、きっとまたクレア様が呼びに行って教室にいらっしゃると思いますから念のためお側で控えておりますね」

「ピンチの時は大声で叫んでください」

「すぐに間に入りますわ」

「……皆さん、ありがとう」

「いえ、今日が無事に終われば明日から昼食をご一緒できますから、そちらの方が楽しみで」

「私はライオネル様とのこともお聞きしたいです」

「いつも仲良さそうに登校されていて……とてもお似合いで憧れますわ」

 

 4人で仲良く話をしていると、教室の扉がカラッと音を立て開き、聖女とエリオットが教室に現れた。


「……メイリア、どういうことだ?」

 藪から棒になんでしょう。

 

「あの、何のご用でしょうか?」

 私はできるだけ、冷静に話をする。

 

「クレアから聞いたぞ!俺が遠征に行っている間に浮気していたらしいな。登下校をライオネルとしているとか……いったい何を考えているんだ!!」

「本当に!!エリオット様というものがありながら!」

 いや、名前を呼び合うお二人に言われても、説得力がないのですが……。

 

「家で妹さんが療養している関係で一緒に登下校しているのですが、そのことやこれからのことについて一度ゆっくりお話ししたいので、今日の放課後お時間をいただけますか?」

「なぜわざわざお前のために時間を取らなければならないんだ。今日の放課後はクレアと約束しているからな、お前がライオネルと登下校しなければよいだけの話だ」 

 いや、自分は放課後別の女性と会うのは良くて、私はだめってどういう理屈?しかも婚約者より(実はもう違うけど)優先するってどういうこと?


 あまりにも言動に筋が通っていないから、周囲も訝しげにエリオットを見ている。いや、そろそろ本気で周囲の人間から見放されるのも時間の問題じゃない?


「……では、婚約者の私よりクレア様を優先されるということでよろしいですね。それでは私も貴方よりライオネル様とのことを優先させていただきます」

「何を言っている!クレアは聖女だぞ!優先されるに決まっているだろう!!それと、お前の不道徳な関係の相手を一緒にするな!!」

「あの、聖女の意見は婚約者より優先されると……そういうことですか?」

「当たり前だろう。しかも愛してもいない政略結婚の相手より優先するのが普通だ」

 いや、普通はしないから。

 しかも、こんな大勢の前でこんな大口叩いて。

 どんどんヤバいヤツに進化していっている気がする。


 ……もともとこうだったのか……それとも。


 

 

 

 

 

 

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