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記憶喪失?いえ、別人です



「……頭を強く打ったことによる後遺症でしょう」

 

 お爺ちゃん先生が説明してくれたことをまとめると、どうやらメイリアは学園の階段から落ち、頭を強く打って3日ほど意識不明の状態だったらしい。


 生きるか死ぬかの状態なのに1人きりで部屋に放置するなんて、本当にメイリアは家族に恵まれていない。血縁関係にあるからこそ次は……と期待しそうだし。


 ま、私はメイリアじゃないから何とも思わないけど。と言うか、むしろ早く縁を切りたい。


「記憶は戻らんのか?」

「分かりません。きっかけがあれば戻る場合もありますが……」


 残念。恐らく私がメイリアでいる限り、二度と記憶が戻ることはないでしょう。


「それじゃあ困る!!なんとかしろ!!」


 いやいや、お爺ちゃん先生に怒鳴ってもどうにもならないでしょう。しかも病み上がりの人間がいるのにそれすら気遣いできないなんて、父親としても終わってるけど人間としても終わってるな。


「……幸いなことに日常生活に関しては問題なさそうですので、気長に待つしかないですな」


 お爺ちゃん先生は父親の圧に屈することもなく、飄々と答える。


「貴様、誰に向かって言ってるんだ!」


「無論侯爵様にです。……しかし、一つ手がないわけでも……少しお嬢様と二人きりにしていただき、施術を施しても良いですか?」


「ふん!……早くしろよ」


 捨て台詞をはいて、荒々しく部屋から出ていく。本当に小物感満載の人物である。これで侯爵……本当に早く縁を切らないとろくでもないことに巻き込まれそうだ。


 バタンとドアが閉まると、お爺ちゃん先生は笑顔でこちらを向いた。


「それにしても、気が付かれて本当に良かった」

「ありがとうございます」

 この先生だけがメイリアの回復を本当に喜んでくれているのが分かる。

 

「日常生活に問題は無さそうですか?」

 日本には無かった物でも、見たら名前や使い方が分かるから、恐らくは大丈夫だろう。

 

「はい……恐らく」

「そうですか。……記憶の問題は人に関することだけですな……でしたら、侯爵様とのトラブルを避けるために提案なのですが、記憶を取り戻した風を装われたらどうでしょう?」

「……大丈夫ですか」

 さすがにバレそうな気がするけれど、どうだろう。


「恐らく……記憶を失う前のメイリア様と私は定期的に診察させていただいておりましたが、正直ご家族とはあまり関わられている様子がありませんでしたから大丈夫ではないかと。学園では様子をみたらよろしいのではないでしょうか」


 なるほど、いらぬ波風を立てないために、とりあえずやってみるか。


「分かりました。先生いろいろありがとうございます」

「いえ……実は私の孫が学園に通っておりまして、孫の話からは学園でもあまり上手くいってないご様子で心配しておったんです。また、何か有りましたらご相談ください」

 

 本当に良い先生である。

 

「父が偉そうですみません」

「いやいや、メイリア様が気になされることではありません。それにこれでも歳をとるまでは陛下の主治医を務めておりましてな。伝手もありますのでご心配なく。後、メイリア様は、ご両親はお父様、お母様と、メイドなどは名前も呼ばずに指示をされておりましたのでご参考まで」


「分かりました。また困ったことがあったらご相談させてください」


「もちろんです。記憶に関しても戻る前は頭痛が酷くなることもありますので、遠慮なく私を呼んでください……あと都合が悪くなったら頭痛のふりをするのも手ですな」

「いろいろ本当にありがとうございます」

「いやいや、それでは侯爵様を呼んでまいります」


 そう言うと、お爺ちゃん先生は父を呼びに部屋を出た。さすが年の功。アドバイスが参考になる。


 ふむ。とりあえずの方針は決まったな。

 記憶が戻ったふりをしながら、家や学園でのメイリアの立ち位置を確認する。



 ガチャ


 ノックもせずに父が入ってくる。

 

「記憶が戻ったらしいな」


「……はい。ご心配をおかけしました」

 しおらしく頭を下げる。

 

「明日からは学園にも通うように」

「分かりました」

 

「それでは、侯爵様私はこれで失礼します。メイリア様お大事になさってください」


 お爺ちゃん先生も帰り、父も退室し部屋には私一人になった。


「メイリアななれるなんて!!」

 

 ドレッサーの前でポーズをとる。

 小説で読むよりも実物の方が100倍美人である。


 ……私の推し。


 その推しに私がなったのだ。これは、絶対に断罪を回避して、幸せになるしかないでしょう。


 幸いなことに私には小説の知識があるからこれから起こる出来事はある程度予測できる。そのアドバンテージを生かして、メイリアを私が幸せにしてみせる。


「メイリア、見ていて!」


 グ――


 決意を新たにしていると、急にお腹が減ってきた。


 メイリアでもお腹が鳴るのか。……当然だけど。

 

 私はベルでメイドを呼び、軽食を運ぶように指示を出す。


 こういう「どうすればメイドが来るのか」などは、すぐに頭に浮かんでくる。


 どうして私とメイリアが入れ替わったのか含め、今の私の状況を確認するすべがないかもまた探してみないとね。メイリアのことだから何か私宛の手紙でも残してるかも。


 トン トン トン


「失礼します」


 メイドが入ってきたので、表情を無に戻す。

 

 さ、しっかり食べて明日からの学園生活に備えなくては。


 腹が減っては戦はできぬよね。


 明日が楽しみである。


 


  


 


 

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