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夕食会


「ようこそおいでくださいました」

 ミシェルちゃん主催の夕食会に父のエスコートで参加する。

 

「うむ……これを」

 父が手に持っていた花束をミシェルちゃんに渡す。


 ミシェルちゃんの夕食会に招かれたと知った父は意外にも、すぐに承諾の返事をくれた。そして、手土産は何が良いかといそいそと執事に聞いていた。若干いつもの無表情が崩れ嬉しそうに準備をする姿を見て、私も思わず笑みがこぼれる。


 どうやら父は子ども好きらしい。

 

 その割にいざミシェルちゃんと対面すると、小さな子相手でいつもと勝手が違うからか、どことなくぎこちない様子の父の姿にこっそり笑いながら助け船を出す。


「この花はラベンダーといって安眠に効果がある花なんです。ドライフラワーにもなりますので枕元に飾ってください」

「そうなんですね!侯爵様、ありがとうございます」

「……うむ」

 ミシェルちゃんの満面の笑みに、父もすぐに陥落し、かすかに微笑みを浮かべる。


 やはり可愛いは正義ね。


 そしてそのまま案内された席に腰を下ろす。


「侯爵様、いつもお世話になっております」

 ライオネル様も現れて丁寧に礼を伝えられる。

「いや、気にするな。……将来家族になるのだからな」

「ありがとうございます」

 仮初めでも、家族には違いない。


 そんなこんなで食事会は和やかな雰囲気で始まった。


「……この、サラダのソース。さっぱりしていて食べやすいな」


 ふふん。ミシェルちゃんのためにメイドに頼んで様々な食材を集めてもらった中になんとありました!醤油が!!醤油とオリーブオイルのソースは味見して美味しかったので即採用しました。こちらの世界は洋食メインなので和食はやはりあっさり食べられて美味しい気がする。


「良かった!私が混ぜて作ったんです!」

 ミシェルちゃんが嬉しそうに話す。


「……そうか、良ければレシピを教えてくれ。本邸でも食べたい」

「はい!もちろんです」

「……本当にミシェルが作ったのか?」

「お兄様、疑うなんて酷いです!!」

「はい、確かにお嬢様が作られました……混ぜただけですが」

「こんなに美味しいソースがそんなに簡単にできるのか?」

「はい。メイリア様が書物から着想を得て作ったらしいのですが、こちらでいただく食事はどれも大変美味しゅうございます」


 皆の視線が一気に私に集まる。

「いえ、私が想像で考えたものをメイドが再現してくれているので、私というよりメイドの功績が大きいです。料理上手なメイドを紹介してもらえて本当に良かったです」 

「それでも、少し前まではミシェルとこんな風に食事ができるなんて考えられなかった」

「私も、こんなにたくさん苦しまずに食べられるなんて……本当に嬉しいです」

「ふむ。……メイリアには料理や医学の才能もあるのかもしれんな……」


 いやいやいや。すみません芽衣の知識でズルしているだけで、これ以上は出てきません。


 その後の魚の煮付けやステーキ、雑炊も、皆に大好評だった。ミシェルちゃんの発作も出ず、無事に夕食会は終了した。ただ、同じ料理ばかりだと飽きるから、別邸では和食のレパートリーを増やさないといけないわね。


 こういう時、芽衣が一人暮らしで自炊していた知識が役に立つ。また、メイドと今度はミシェルちゃんとサラさんも誘って新しいメニューを開発しよう。


 和食は健康にも良いから、父が気に入ったのなら本邸でも取り入れてもらっても良いし。


 何にしろ今日の夕食会は楽しかった。皆で語らいながら、美味しい物を食べるのってやっぱり幸せなことである。以前は分からないけれど、今後は定期的に行えたら良いと思う。


 私は自室でぼんやり外の景色を眺める。


 こんな風に何気ない幸せな日々が続きますように。

 そう心から思う。


 ミシェルちゃんが元気で、私も魔王化しない。小説とは全く違うハッピーエンド。


 でも、聖女はきっとそれを望んでいない。

 今日聖女と話をしてはっきりそれが分かった。


 聖女の望む世界には悪役令嬢が必要なのだろう。でも、私は聖女が望む悪役令嬢になるつもりはない。


 小説の強制力はあるのだろうか?

 今のところは、回避できているけど。


 とにかく、小説の世界に抗えるだけ抗ってみせる。


 その結果を聖女が望まなくても。


 ……そして私が聖女にとっての悪役令嬢になるかもしれないけど。

 

 


 

 

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