聖女は転生者
学園に着きライオネルのエスコートで馬車を降りると、やはりたくさんの好奇な視線を感じた。
「あれは……メイリア様?」
「なぜ、ライオネル様と?」
ざわざわとした噂話が耳に入らてくるが、隣を歩くライオネルが全く気にしていないようなので、私も無視して歩く。
「では、また帰りに」
「はい。よろしくお願いします」
靴箱で別れるとそのまま教室へと向かった。
教室の扉を開けると、やはり噂になっているのか視線が集まる。だが皆わきまえているのか、そのことを私に話しかけてくる生徒はいなかった。下手に関わって二人の二の舞になるのを避けているらしい。ま、貴族なら当然の対処法である。
……ただ、1人を除いて。
「ちょっと、どういうこと?」
聖女が私に話かけてくる。
「どういうこととは?」
「どうして、あんたとライオネル様が一緒に来るのよ!」
「家で妹さんが療養しているからですが……」
「なんで、あんたの家で療養しているのよ……そんな場面無かったはず……まさかあんたも転生者?」
「あの……転生者とは?」
「しらばっくれないで!!通りでおかしいと思ったのよ。エリオットまでは上手くいってたのに、ライオネルには図書館に行っても会えないし……」
「あの……何のことでしょう?」
「あんたは悪役令嬢なんだからこれ以上私の邪魔はしないで……じゃないとどうなるか分からないんだから」
一方的に告げると、自分の席に戻る。
かなりなりふり構わなくなってきたな。
聖女のあまりな姿に周囲はどん引いている。
しかも「小説」に「転生者」。
間違いなく聖女も転生者ね。
私は転生者ではなく、成り代わりだけど。
ま、それを気取らせはしないけどね。頭のおかしい者扱いは御免である。後は魅了魔法が使えるかどうかね……。
「……メイリア様、大丈夫ですか」
心配していつもの3人が駆け寄ってきてくれた。
「聖女様、だんだん化けの皮が剥がれてきてますわね」
「ええ、しかも訳の分からないことをメイリア様におっしゃって、最後は脅してらしたわよ」
「メイリア様、何をされるか分かりませんから、お父上にご相談なさったほうがよろしいかと」
「……ありがとう。もう少し様子を見てそうするわ」
「念のために私も父に相談しておきますね」
「私も」
「私もそうしますわ」
3人が力になってくれるのはありがたい。
「本当にありがとう」
「いえ、また何かあれば遠慮なくおっしゃってください」
そう言うと3人は自分の席へ戻った。
授業は特筆すべきこともなく、無事に全てが終わった。朝の聖女の絡みが無ければ、何ということもない1日である。
「聖女に強く非難されたんだって?」
帰りの馬車の中でライオネルに話しかけられる。
「あら、よくご存知ですわね」
「聖女が大声で取り巻きに話してたよ。意味はよく分からなかったけど、メイリアを悪く言っているように感じた」
「そうでしたの」
聖女よ。周りに訳の分からないことを言っていると、どんどん人は離れていくのに……。
「彼女はなんだか危ないな。……何かあればすぐに言ってくれ」
朝の3人と同じようにライオネルも心配してくれたらしい。
「ありがとうございます」
味方は多いにこしたことはないし、やはり心配してくれているのはありがたい。
馬車が自宅につくと、朝と同様にミシェルちゃんとサラさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「おかえりなさいませ」
「ミシェル調子はどうだい?」
「とても良いわ!!」
「今日は昨日の倍量食べられました。デザートの果物まで完食されて」
良かった。やはりアレルギー物質を除けば元気になりそうね。
「……そうか、良かった」
ライオネルも嬉しそうに微笑んでいる。
「お兄様の結婚式では、私がリングガールを務めますからね」
「それはそれは、じゃあ、もっともっと元気にならなければいけないな」
「はい!たくさん食べて元気になりますわ」
そっくりな美形二人を見るだけでも眼福である。
「お義姉様、今日は夕食をご一緒しませんか?」
食べることに抵抗が無くなっているようで何よりである。
「もちろん、ぜひ」
「やったわ。実はメイドに頼んで今日は料理を手伝うつもりなんです!上手くできるかわかりませんが……楽しみにしておいてくださいね」
「ええ、良かったら父を呼んでも良いかしら」
「もちろんです!サラ、さっそく準備しないと」
「はい、お嬢様。それでは、失礼します」
「……あんなに楽しそうな妹を久しぶりに見たよ」
ミシェルちゃんの去った方を見つめてライオネルがぽつりと呟く。
「……良かった」
私のついでとはいえ、やはり小さな命が助かるのは嬉しい。このまま順調に回復してくれますように……。
「ありがとう。本当にありがとう」
ライオネルは私の方を振り向き何度もお礼を言った。




