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治療開始


 意気込んでいたが、その日エリオットが視界に入ることはなかった。


 騎士科で1週間の遠征に行っているらしい。興味が無いので私は全く知らなかったが、新しく友だちになった3人が教えてくれた。


 聖女様はというと、クラスメートがちやほやしてくれないと分かるやいなや、他のクラスの男子に声をかけその可憐な見た目から何人かの男子が新しい取り巻きとして側に侍るようになった。


 小説ではエリオットとライオネルとの間で揺れ動く女心がか描かれ、間違っても逆ハーレムを築く描写は無かったはずだが、私がメイリアになったせいか、はたまたそもそもこの世界が小説と異なるせいか、聖女は別人のようになってしまった。純愛ものだったはずなのに、ドロドロの愛憎劇が繰り広げられそうである。


 ということで、ここ数日たまに聖女とその取り巻きから睨まれる以外は意外と平穏な日々を送っていた。新しく友だちになった3人とも出かけることまではしていないけど、教室では気軽に話せるようになったし。


 そして、今日はいよいよライオネルとミシェルちゃんが我が家の別邸にやって来る日である。私も学園をお休みし、朝から別邸の最終確認を行っていた。新しくメイドに任命したベティも張り切って準備をしてくれている。 


 昼前、豪華な馬車が本宅の前に止まり、ミシェルちゃんを抱き上げたライオネルが降りてきた。その後をメイドが続く。


 執事が侍従に馬車から荷物を下ろし、別邸に運ぶ指示を出し、私は新しく新しく別邸のメイドに任命した、ベティと共に3人を出迎えた。


「ようこそおいでくださいました」

「すまない。本来なら、侯爵様に挨拶をするのが筋なのだが、何分妹が馬車で体力を消耗しており先に休ませたいのだが」

 申し訳なさそうにライオネルが告げる。確かにミシェルちゃんの顔色があまり良くない。

「……お義姉様ごめんなさい」

 ミシェルちゃんも申し訳なさそうにこちらを見る。

「ミシェルちゃん大丈夫よ。準備は整えております。こちらへどうぞ」

 

 私はあらかじめ整えていた、別邸のミシェルちゃんの部屋に案内した。薄ピンクのパステルカラーを基調とした部屋で、大きな窓からは庭の花が楽しめるようになっている。もともと曾祖母の療養のために建てられた建物でこじんまりしているが、キッチンやダイニング、団らんできる広めの部屋、そして個室が四つとこの別邸で不自由なく暮らせられる仕様になっていた。


「……可愛い」

 ミシェルちゃんが呟く。どうやら気に入ってもらえたらしい。ライオネルはそのまま、ベッドにミシェルちゃんを下ろす。


「ベティ、昼食の準備を」

「かしこまりました」

 あらかじめ用意してもらっていた、料理を温めてもらう。


「これからしばらく世話になる。……せっかく昼食を用意してくれているがミシェルはあまり食べられないかもしれない」

 

 もちろん今まではそうだろう。食べたら吐くと思うとなかなか食は進まないだろうし、その結果体力は落ちるだろうし……。でもここに来たからには食べるのも治療の一環になる。少しずつでも安全に食べられると知ってもらい、食べる量を増やさなくては。


「はい。分かっております。ただ、治療として少しでも料理を食べていただく必要があります」

「だが……食べると吐くかもしれないし、呼吸が苦しくなるかもしれない。果物なら安心して食べられるのだが……」

「もちろん果物も用意しています。でも、その前にこちらが指定した食べ物を食べてもらいます」

「だが……」

 ライオネルはかなりためらっている。馬車で体力が落ちている所に万が一症状がでたらと気が気でないのだろう。


「お兄様、私お義姉様を信じて食べてみますわ」

 ミシェルちゃんが私とライオネルのやり取りを聞いて言葉を挟む。

「ミシェル、だが……」

「食べてみたいんです」

 ミシェルちゃんのその言葉にしぶしぶライオネルも頷いた。

「分かった。ちなみにその昼食は俺も食べても大丈夫か?」

「はい、どうせなら皆で食べようと思い用意しております。ライオネル様もテーブルの椅子にお座りください」


 そんなやり取りをしているとベティが昼食を持ってきた。


「……初めて見る食べ物だな」

 そうでしょう!私もこちらでは食べたことがなく、探すのに苦労したもの。


「東国で採れる米という材料を使った『雑炊』という食べ物です。野菜も入っているため、栄養もバッチリ取れます」

 私とベティも味見をしたので、味も口に合うはず。


「とりあえず食べてみよう」

 ライオネルがスプーンで雑炊を口に運ぶ。


「……美味しい。初めて食べる味だが、柔らかくて食べやすい」 

 よし。ライオネルの反応は上々だ。次はいよいよミシェルちゃんである。


 ミシェルちゃんはベッドのまま、体だけ起こしてもらいメイドのサラさんにスプーンで雑炊を口に運んでもらう。


 ドキドキの瞬間である。……恐らく大丈夫のはず。大丈夫であってほしい。


「……美味しい。優しい味がします」

 よし。一口はいけた。とりあえずサラさんに頼み、最初は無理せず、食べられるだけ食べすすめてもらうようにする。恐らく胃が小さくなっているから、たくさんは食べられないはず。

 ミシェルちゃんは一口、また一口と順調に食べすすめていく。じっとその様子を見守るが、今のところ症状は出ない。半分ほど口に運び終えると、ストップがかかった。


「……もう、お腹いっぱいです。でも、いつもよりたくさん食べられた気がします。症状も出ないですし……」 

 ミシェルちゃんが笑顔で答えてくれる。


「はい、いつもよりも多く召し上がっておられます。良かったですねお嬢様」

 メイドのサラさんもニコニコ笑顔を浮かべている。


 どうやら私の読みは当たっていたらしい。良かった。ほっと私も胸をなでおろした。


 



 


 

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