新たな婚約
次の日朝起きて朝食を食べていると、執事から父が呼んでいると伝えられた。今まではあまり関わっていなさそうだったのに、ここ最近は父と毎日話をしている。と言っても私に関わることばかりなので文句は言えないけど。
朝一番だけど、もしかしたら申し込みが来たのかも。
少しドキドキしながら執務室のドアをノックする。
トン トン トン
「メイリアです」
「入れ」
今日は珍しく机上に書類の山がなく、窓際に父は立っていた。
「辺境伯家から朝一番に婚約の申し込みが来た。受け入れて大丈夫だな?」
「はい。よろしくお願いします」
……良かった。
これで、とりあえずはライオネルと妹ちゃんを呼べる。
なんだかんだ、ライオネルと婚約できるのは素直に嬉しい。形だけの婚約とはいえ、ライオネルは男前だし。好みの顔立ちだし。性格もエリオットと比べたら百倍は良さそうだし。
「分かった。返事を出しておく。以上だ」
「失礼します」
相変わらず父はそっけないが、私が望むようにすぐ行動してくれるので本当にありがたい。実の両親の顔も見たことがない私にとってはメイリアの父が初めてできた父親である。
小説を読んでなんとなく想像していたメイリアの父より、実物の方が何倍も良い。
今度クッキーでも焼いて持っていこうかな……。
ということで、少しウキウキした気持ちで学園に登校する。そして教室の席に座っていると、先日声をかけてくれた3人に声をかけられた。
「おはようございます。先日の腕は大丈夫ですか?」
どうやら怪我の心配をしてくれたらしい。
「はい、先日は付き添いありがとうございました」
「いえ、ただ付き添うことしかできず……あの、よろしかったら今日からお昼と放課後ご一緒しませんか。もしエリオット様が来られたら複数で対応するほうが良いと思ったのですが……」
遠慮がちに誘ってくれる。
今までボッチ飯の私にしたら、思いがけない嬉しい提案であるが、彼女たちを万が一トラブルに巻き込んでしまうといけないし……
「ありがたいのですが、ご迷惑では……」
いや、本当はご一緒したいのですが……
「いえ、実はエリオット様のことがなくてもお誘いしようと3人にで話していたんです。せっかく同じクラスなんですから、いろいろお話できたらと……あの、失礼だったでしょうか?」
3人は心配そうな顔をする。
いや、違うんです。
「いえ、むしろ本当に嬉しくてぜひご一緒したいのですが……実はもう少しでエリオット様とのトラブルが落ち着きそうなんです。ご迷惑をかけてもいけないので、落ち着いたら私から誘ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんです!ぜひ!」
学園に来る楽しみが一つ増えた。ただ、私の取り巻きA、B、Cとして小説の様に断罪に巻き込まれたらいけないから、エリオットとの関係を清算してから誘おう。
……女子会か……芽衣もしたことがないから本当に楽しみである。となると、エリオットのことがどうでもよくなってくる。早めに婚約解消を伝えよう。
聖女はというと、今日は1人で席に座っていた。周囲の人間も話しかけられたら話をしているが、積極的に話しかけに行く生徒がいない。昨日聖女にべったりだった2人も離れたところで2人で話をしている。
そして急に聖女は私の方を向くとギロリと睨んできた。
どうせまた、私のせいでクラスで孤立したと思っていそうだが、自分が蒔いた種なのに……。
昨日の聖女の言葉を聞けば、自分も切り捨てられそうで普通の人間は関わりたくないと思うだろう。おまけに私に無礼だった2人は退学しているし……。
という常識はおそらく聖女には伝わらなさそうだから、きっとエリオットに伝えて、エリオットがまた怒鳴り込んでくるだろう。
そこで婚約解消を伝えよう。
そして、小説から脱却するのだ。
早く来い!エリオット!
今日は迎え撃ってやる!




