婚約解消成立
侯爵邸に帰ると、執事が出迎えてくれた。
「侯爵様がお呼びです」
「すぐに行くわ」
私は帰ってきたその足で父の執務室へ向かった。
トン トン トン
「メイリアです」
「入れ」
父は相変わらず、書類仕事をしているようである。
「婚約が解消されたぞ」
こちらを見ずに淡々と告げてくる。
「本当ですか!?」
私は喜びのあまり満面の笑みを浮かべた。
やったー!!
これであのクズ男に関わらなくて済む。それに婚約者じゃなければ、私の魔王化もないだろうし、一石二鳥!!
「……それで、お前の方はどうだったんだ?」
そうだ!これでライオネルと婚約ができる!!できるだけはやく成立させて、ミシェルちゃんの治療に当たらないと。
「はい。私の婚約が解消され次第、辺境伯家嫡男のライオネル=キルシュ様と婚約を結ぶ話がついております。すぐに、ライオネル様に婚約解消をお伝えしようと思います」
速達を送らないと。
すぐに部屋を出て行こうとした私を珍しく、父が呼び止めた。
「メイリア」
「はい」
父は顔を上げ、私の顔を見ながら少しためらいつつ言葉を発した。
「……ライオネルは妹にべったりと聞いている。エリオットの聖女のようにならないか?」
どうやらライオネルのシスコン具合を心配してくれているらしい。いや、本当に父よ。どうしてその感情をもっと早くメイリアに伝えなかった。
正直父のことも不憫でならないが、今はそれどころではない。
「おそらく大丈夫だと思います。それとお父様、近いうちにライオネルと妹君をしばらくの間別邸に招こうと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「かまわない。ま、何にせよまた何かあればすぐに対応するから伝えに来い。……あと、婚約解消はエリオットにはまだ伝わっておらん。お前の良いタイミングで伝えろ。……話は以上だ」
話は終わったとばかりに父は書類の方を向く。
いやいや、ツンデレか。
ライオネルが駄目だった場合、今度はすぐに父に言いに来よう。大丈夫だとは思うけど、万が一魅了魔法にかかって私を蔑ろにする可能性は0ではない。
「では、失礼します」
今度は父に呼び止められなかった。
自室に戻り、さっそくライオネルに速達を送る。またもすぐに青い鳥が飛んできた。手紙を受け取ると光の粒になって消えていった。
「了解した。こちらもすぐに父に婚約の申し込みを送るよう伝えた。そちらに届き、許可が出たらまた連絡してくれ」
後は、辺境伯からの連絡待ちね。
さて、休日も終わり明日から学校だけど、いつエリオットに婚約解消を伝えるのが良いかしら。
やはり、ライオネルと婚約が決まって学園でイチャイチャする姿を見せつけてからが良いわよね。しばらく様子をみよう。限界が来たらすぐに言うようにしたら良いし。
今日も怒涛の1日だった。
私はベッドに寝転がるといつの間にか寝てしまった。
……久しぶりに懐かしい夢を見た。
日本の学校だ。
芽衣が出てきて、いつもと同じように学校生活を送っている。いや、いつもと同じというと語弊がある。
芽衣は私が片思いしていた、佐川くんと仲良さそうに寄り添って歩いていた。私は恋愛には臆病で、声すらなかなかかけられなかったのに。唯一の接点である図書委員で会えるのが1週間の楽しみだった。でも、夢の2人は委員会ではなく昼休みを一緒に過ごしており、周囲も違和感なく2人を受け入れている。
私が芽衣だったとき以上に楽しそうに学校生活をエンジョイしていた。私はそんな芽衣を上からぼんやりと眺めている。
不意に芽衣が上を見上げた。
「私は幸せだから、芽衣も頑張りなさいよ」
メイリア?
幸せになれたのなら良かった。もちろん私も幸せになってみせる。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか朝になって目が覚めた。
夢、それとも……
どちらかは分からないけど、なんとなくメイリアな気がする。
私が幸せになるためには早くあの二人にやり返してから、メイリアの魔王化を防がないと。
そして、ライオネルと婚約して妹ちゃんの治療。
やることは山積みだけど、芽衣だった時のように時間に追われることはない。それにしても、メイリアはどうやって佐川くんと仲良くなり、2人で過ごす時間を捻出したのだろう。
私がメイリアになって自由にやってるように、メイリアもきっと自由にやってるのかもしれない。私が気にしていたしがらみも全てメイリアにとっては関係ないのだから。
同じようにメイリアのしがらみは私には全く関係がない。早く断ち切って、私なりの幸せを掴みたい。




