表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

プロローグ


「……腹立つ……」

 

 私はベッドに寝そべりながらもう何度読んだか分からない恋愛ファンタジー小説を携帯で眺めていた。


『全ては愛のために』


 通称「すべ愛」は携帯小説から人気を博し、書籍化を経てアニメ化された作品だ。ヒロインは伯爵家の庶子として不遇の幼少期を送るが、成長して聖女の能力が発現する。聖女として学園に通う中で、ヒーローとなる公爵家嫡男や辺境伯家嫡男との恋愛がらみのイベントを経て自分の能力を高め、最終的に魔王となった公爵家嫡男の婚約者を討ち滅ぼすという話だ。


 この話が秀逸なのは登場人物1人1人の過去話が細く書き込まれており、どの登場人物にも感情移入しやすくなっている点だ。


 特に悪役令嬢のメイリアは自分に名前も似ているせいか、何度読んでもどうしてそこまで公爵家嫡男に執着するのかが理解できなかった。容姿にも才能にも恵まれた彼女は、ただ愛だけが誰からも与えられず成長していく。そんな中、事故をきっかけに婚約者となった公爵家嫡男に愛を傾けるのだが、想いは一方通行で最後は魔王化し、聖女と婚約者に討ち滅ぼされてしまう。涙無くしては語れない役どころなのである。


「……何で、ダメ男を選ぶかな……」


 そう、ぶっちゃけメインヒーローの婚約者は現実にいたらクズ男だ。婚約者をないがしろにし、どんなに尽くしても愛を返してはくれない。おまけに好きじゃなければ婚約を解消すれば良いのにそれもせず、ヒロインの聖女と愛を育むなんて、浮気男そのものである。


「……私なら……」


 私なら絶対にそんな男は選ばないのに……


 いや、私も愛とか言われても正直よく分からない。幼い頃に乳児院へと預けられ、それから一度も両親に会うことなくここまで成長した。頼れるのは自分だけ。そんな世界で生きてきたからこそ、愛を求め続けるメイリアが歯がゆくて仕方がないのかもしれない。


 じゃあ、変わってくれる?


「……えっ」


 どこかで声が聞こえる。


 しがらみを全て捨てて一からやり直したいの。でも、ここにいたら捨てきれない。


「……私は何も持ってないわよ」


 両親も恋人もいない、バイトと学校と家の往復で親しい友人もいない。


 だから良いの。


 魔法が使える世界なんて、私にとっては夢のようである。


 私がメイリアなら、そんなクズ男とは早めにバイバイし、ハイスペックな能力を駆使してお金を稼ぎ、のんびり暮らすのだ。


「私で良ければ……」


 せっかく推しのメイリアと会話できているので、夢の中くらいメイリアの頼みを聞いてあげたい。


 メイリアと会話できるなんて良い夢を見てるな……。


 忙しい日々が続いたから、いつの間にか寝てしまったのだろう。夢にしてはずいぶん鮮明な夢だなと思いながら私はその夢の中で眠りについた。


「……ありがとう、芽衣」


 最後に私の声が聞こえた気がした。


 



 目を開けると、見慣れない天井が目に飛び込んできた。

 

「……ここ、何処?」


 古くて狭い自宅のアパートのベッドで寝ていたはずだが……。


 体を起こして確認するが、中世のヨーロッパのような内装に見える。ベッドもふかふか、サイズもかなり大きく私の部屋とは似ても似つかない場所である。


「……本当に、何処?」


 着ている服も、寝間着代わりのTシャツと短パンではなく、ネグリジェを着ている。寝間着からのぞく腕の色も透けるような白さである。毎日の通学やバイトのための自転車の往復で色が真っ黒に焼けてしまった私とは似ても似つかない色である。


「……というか、誰?」


 私は思い切って、床に足をつけるとドレッサーの鏡を恐る恐る覗いた。


「メイリア?」


 小説で描かれたメイリアとそっくりの姿がそこには映っていた。燃えるような赤髪、少しつり目気味の金色に輝く瞳、スタイル抜群な体。


 まだ夢を見ているのかと思って、頬をつねる。


 ……痛い。


「ええ――――――――!!」


 思わず、大声で叫んでしまう。


 昨日のメイリアとの会話はもしや夢じゃなかった?


 私、悪役令嬢のメイリアになってる!?


 ガチャ


「……やっと、起きたのか。馬鹿な真似をしおって」


 誰?

 

 小説の中の描写では似た人物は思いあたらないけど……


「お前には散々金をかけてきたんだ、次同じような真似をしたら許さんからな」


 入ってそうそう、メイリアに激怒する男性。

 誰だコイツ……。


「……あの、あなた誰ですか?」


「何を馬鹿なことを言ってるんだ。……本当に分からんのか?」

 私が怪訝そうな顔を続けているのを見て、少し心配になったのか私に尋ねてくる。


 私は思い切っきり頷いた。


「クリス、医者を呼べ。医者を。大至急だ!!」


 そう言いながら、バタバタと慌ただしく部屋を出て行った。


 小説の中でクリスは執事。そしてメイリアに偉そうに話をする相手と言えば父親か。


 確か妻とは政略結婚で、互いに愛人がおり、娘のことは政略の駒の一つとしか考えていない人物だったはず。


 小説で読む以上に実物はろくでもないことを実感した。


 それにしても思った以上に冷静な自分に驚く。人間本当に信じられないことがあると意外と冷静になれるのかもしれない。それともまだ夢心地なのかも……。

 


 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ