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1話 『兄と弟』

「魔法とは、自分の精神のレベル、空間認識レベル、そしてイメージングレベルが大きく因果する」


ガキッ、ガキッという金属のぶつかり合う音が校舎の中庭に響いている

この学園の中庭は広く、よくトレーニングに使っている人が多い

その中庭に、ルーハとリョウがいた

リョウとルーハはそれぞれ模擬剣を持ち、構えている


「西の人間が通常魔法を使えない根本的な起因として、精神レベルが絶望的に低いことが挙げられる。これは流れている血の影響というわけではなく、西の人間と東の人間の脳の形が微妙に違うからといわれている」


さっきから魔法の基礎的なことを説明しているのはルーハだ

剣を握り、リョウと戦いながらリョウの補講の予習として、言い続けているのだ

元々机に座っての勉強が出来ないリョウには、この方法が一番頭に入るのだ


「しかしながら、ごくわずかに東の人間の中にも魔法が使えない人間がいる。それは―――」


「空間認識レベルと、イメージングレベルの総合能力が低い、だろ!?」


飛び上がり、模擬剣を振り下ろしてくるリョウの太刀筋をルーハはしっかりと自分の模擬剣で受け止める

ルーハは少し嬉しそうに笑うと、「正解」と答えた


「じゃあ次に進むぞ。視認、活性、通信の三つに魔法は大きく分かれる」


リョウの剣を捌き、ルーハは剣を持っていない左手に炎を作り出す

リョウはそれを見て一瞬ムッという顔をしたが、直ぐにもどす


「これが視認。左手に炎を『イメージ』して、認識できるレベルまで高める。ただ、視認によって作り出せる物はエネルギーの集まりしか出来ない。石や動物などといった物質や生き物は視認によって作り出せないんだ」


ルーハが左手を握ると、炎はボゥッと音を立てて消えた

それを確認してリョウは再びルーハに切りかかる

ルーハはそれを先ほどのように受け止めると、捌かずにそのままはじき返した

リョウがしっかりと剣を握っているためだが、リョウはそのまま錐揉み回転をして弾き飛ばされる

どさ、とリョウが地面に落ちるのを確認してルーハは解説を始める


「これが活性。自分の体を一時的に強化、活性化する。今のは俺の腕と足の筋肉の力を強化した。これ以外にも、軽症程度の傷ならば直ぐに回復できる」


リョウは打った頭をこすりながら立ち上がった


「兄貴ずるいぞ!俺は魔法無しで戦っているのに!」


「お前は実践しないと体が覚えないからな」


「なんだと!俺はちゃんと頭で覚えられるぞ!」


「補講を受ける人間が言っても信憑性は無いぞ」


「ぬぬぬ」


言い返せなくなったリョウにルーハは楽しそうに笑うと、模擬剣を自分の前にふわりと浮かせた


≪これが通信。一定の距離の間で自分の意思を表現し、操作する≫


「うぅ…この頭に響く感じ嫌いなんだよ」


リョウの頭の中にルーハの声が直接響く


≪相手にこのようにメッセージを送れたり、ある物質を操作したり出来る。もちろん、人間や動物を操作することも出来るが、それはかなり高いレベルの話だ。物質には精神レベルはないが、生き物には精神レベルはあるからな≫


「じゃ・・・じゃあなんでメッセージを送ることは出来るんだよ・・・」


頭に響いたのがこらえたのか、リョウはふらふらになりながらも聞く

リョウが堪えたのを見て、ルーハは普通に話し始める


「相手にメッセージを送ることは比較的簡単だからだ。精神レベルは一種の壁と思ってくれれば良い。壁越しの相手に声を出して聞かせるのは容易だが、壁越しの相手を操作するには壁を突破しなければならないだろ?」


「じゃあ精神レベルが低いと簡単に操作されちまうのか?」


リョウの質問に、ルーハは首を横に振った


「仮にその壁を突破したところで、次は相手の体全体を操作する必要がある。それは魔法の要素を最大限に使う必要がある」


首をかしげるリョウに、ルーハは言葉を続ける


「操作というものがそもそも面倒なものでな、例えばだ」


ルーハは浮かせた模擬剣を自分の少し上でくるくると回転させた


「この操作だが、一見ただ回しているように見えるが、これだけでもどこを軸にして、どのくらいの速さで、どの向きで、どのくらいの高度で回すのか、頭のなかのイメージして、空間認識しなければならない」


黙って聞くリョウにルーハは言葉を続ける


「これが人間や動物になるだけで、イメージしなければならないものが一気に増える。それはもう万や億の単位になるほどにな」


「そ、そりゃあムリだ・・・」


「それに、通信には距離の限定がある。メッセージを送る程度なら1キロくらいなら出来るかも知れないが、操作となると数メートルが限度だな。これでは操作する前に叩かれて終わりだろう」


「なるほど!」


リョウは解説が終わったのを見計らい、ルーハに模擬剣で切りかかる!

空中に模擬剣を持つルーハは、その剣をリョウに向かって突き刺すように操作する


「ジャマだ!!」


しかしリョウはそれを模擬剣の腹で受け止め、持っている模擬剣の角度を変えて自分の真横へ受け流した

リョウはそのままがら空きとなったルーハに切りかかる!


「貰った!!」


「甘いね」


嬉しそうにリョウが切りかかるが、ルーハは楽しそうに笑った


ガン!という鈍い音が響く

リョウの後頭部にルーハの模擬剣の柄がめりこんでいた

先ほど受け流した模擬剣がそのまま戻ってきたのだ

リョウはその場でずさ、と前のめりなる

その反動を元に戻した時、リョウの顔面に、ルーハの綺麗な右ストレートが決まっていた


「ま、また負けた・・・」


倒れたリョウの声が聞こえて、ルーハはけらけらと笑う


「なにも模擬剣はぶん投げたわけじゃないんだ。通信の魔法とそこを間違えたのが悪かったな」


ルーハは自分の模擬剣を手元に戻すと、リョウの手を握って立ち上がらせる


「けど、また剣の腕は上げたみたいだな」


「あンだよ、兄貴のほうが強いじゃんか」


ぶす、とひねくれるリョウにルーハはまた笑った


「いや、俺も魔法を使わなかったらどうなってたか解らなかった。特に、最後の剣の捌き方は素人には出来ない動きだったはずだぞ」


「そ、そうか?」


「そうさ」


照れくさそうに笑うリョウに、ルーハはまた笑った

リョウは褒められる事が好きなのだ

そのことをルーハは誰よりも知っていた


「今日はここまでにしよう。また今度みっちり鍛えてやるよ」


「おう!あ、兄貴!」


模擬剣を返そうと踵を返したルーハに、リョウは呼び止めた


「どうかしたか?」


「あ、あのさ・・・俺、兄貴から魔法を使えるように教えて欲しいんだけど・・・」


「・・・リョウ」


ルーハは残念そうに首を横に振った

それを見たリョウは肩を下げる


「お前は生まれつき魔法の3つを使いこなせない。努力とか、才能とか、西の人間とか、東の人間とかを別にしてお前は体が魔法を受け入れられないんだ」


西の人間が努力の賜物で魔法を使えることが出来るようになったことは、ごく僅かな例だがありえないことではなかった。

しかし、リョウの場合どう努力しても何も変わらないのだ。


「そ、そうだよな・・・ごめん」


「いや、お前がそう思う気持ちもわかる。お前が悪いというわけではないんだ」


ルーハの言葉にリョウは頷いた


「さ、寮に帰るぞ。メシに遅れるしな」


「あぁ!」


またにこりと笑うリョウの顔に安心し、ルーハは模擬剣を返却しに歩き始めたのだった

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