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第8話 ガーディアン

 来い、《ゴースト》。


 発動した魔法が半透明の(けむり)を呼び出した。

 煙は俺の意思でその形を変えていき、死霊(しりょう)()――灰褐色(はいかっしょく)の肌に鋭く(とが)った爪を持つ姿に変化する。


 それが一瞬でハウンドの体の中(・・・)に突き込まれた。

 目には見えないその体の中で、モンスターの根源である魔法式を掴んだ感覚。


"壊せ"。


 《ゴースト》がその命令に従い手を握る。

 その瞬間ハウンドは消滅し――遅れて振り向いた水住が、敵が消えていることに驚いた。

 余計なお世話だったか。


「浅倉くん。今、何を?」


「《魔力の矢》です」


 俺は嘘をついた。

 何故なら今使った魔法は、どちらかというと反社会的な方々がご愛用のカテゴリに(ぞく)するからだ。

 あまりおおっぴらにしてしまうと無実のはずの俺のテロリスト指数が上がるので、バレないに越したことはなかった。


「絶対に嘘」


「本当だが? 見ろ」


 その辺の魔力で《魔力の矢》を作り出す。

 それを近くの木に目がけて発射――勢いよく飛翔した矢が、その脇をすり抜けていった。

 しばしの沈黙。


「おい、さっさと拾って先に行こう」


「……はあ」


 なんとなくうやむやにできたぜ。

 チョロい女よ。問題があるとすれば、真剣に狙ってあの結果(ノーコン)だということぐらいだ。




 ハウンドの残した魔石を拾い集める。

 俺が倒した2匹はさらに魔法式をドロップしていた。

 スマホのカメラを向けてみたところ、スキャン結果はどちらも《魔力付与》。

 Eランク産なので当然どちらも最低値(レベル1)


 まあ半端に《地属性魔法》とか出られても困る。

 属性魔法はレベルが上がると《岩の球》が《岩の矢》になったり、《岩の槍》になったりと規模をデカくできるが、レベル1をプラスしても経験値量が少ないのだ。


 そしてレベル2までは下位のモンスターにしか通用しない。

 俺は大体の属性がレベル2になっているが、槍を作れるレベル3にしようとしたら、レベル1が何百個必要になるのか?

 エンチャントを強化する《魔力付与》も似たようなものだが、近接役なら腐ることはない分まだマシである。



 そんな感じで移動を続けて1時間、タワーの近くまでやってきた。

 といっても奴を刺激したくない(・・・・・・・・・)から、これ以上は近づかないつもりだ。

 この森のタワーは切り立った崖に囲まれているので、その上に偵察スポットを設定している。


 片膝をついた水住さんは真剣な表情で周辺をご観察中。

 魔法の気配がするから、《望遠(ぼうえん)》あたりを使ってるかもしれない。

 俺も同じように身を低くした。




 タワーを間近で見るのは久しぶりだ。

 数万はくだらない量の魔石で作られた塔は、この距離だと首を完全に上に向けないと先っぽが見えないぐらい高い。

 そして大量の魔力を自然放出しているから、それを目当てにやってくるモンスターも存在する。


 崖の上からそっとタワーの根元を覗いた。

 木にさえぎられて見えないが……いるな、ガーディアン。

 といっても勝手に来て居座ってるだけのモンスターだが。


 今いるのは、超感覚的には恐らくCランク。

 ガーディアンのランクはそのゲートに残っているタワーの本数に影響される。

 たくさん壊されて少なくなるほど1本のタワーが放つ魔力は多くなり、より高ランクのモンスターが集まってくるようになる。


 この第3ゲートは最近2本目が壊されたから残りは3本、そろそろBランクがやってきてもおかしくない時期だ。

 今回の依頼もその関係かもしれないが、詳しくは聞くなと言われている。

 とはいえ、


「水住。新しい"領主"ってどうなったのか知ってるか?」


 世間話レベルなら問題ないだろう。

 入口にたくさんあったトラックのことも気になるし。


「どうって言われても。……1ヶ月前にレイドクランが正式結成されて、もう2本のタワーが攻略された。あと2ヶ月ぐらいで最後のタワー、つまりAランクに挑戦するらしいし……順調でしょ」


 思ったより詳しいな?

 それともボスとの訓練で世間から離れてた俺が情弱なだけなのか。


「レイドクランっていうのはタワー攻略専用のクランか」


 レイドはいわば大規模パーティーだ。

 そしてクランはパーティーやレイドと違うサークルのような団体で、それなりの人数を集めて協会に登録することで結成される。


「そうだけど、今回だけのものじゃない。タワーは全部壊してもそのうち復活するのに、その時"領主"のクランが無くなってたら意味がないから」


「ん? なら"領主"のクランは抜けられないのか?」


「……ある程度の期間は拘束される。見返りもあるけど」


「それはそうだろうけどなあ」


 クソ面倒くさそう。

 とはいえ"領主"が守るドームは国の超重要な経済拠点、金や名誉に不満が出るようなら誰もやらないだろう。

 実際"領主"に関する宣伝広告(プロモーション)はネットやテレビでガンガン行われていた。


 ただ……あのトラックの数。

 他のタワーにも偵察が出ているとすればクランの規模は相当なものだ。

 結成1ヵ月でここまで動かせるという事実からは、"大人"の臭いがする。

 以前協会にハメられかけた身としては警戒せざるを得ない。



 水住はタワー周辺の観察を続けている。

 たまに取り出したスマホとにらめっこしたりして、何かを考えているようだ。

 ところで。


「ガーディアン、俺達に気づいてるぞ」


「えっ?」


 ここに来た時から奴の魔力がこっちに向いていた。

 トラックの連中が見当たらないのは、奴を刺激しないように下がったのかもしれない。


「敵視ってほどじゃない。近づいたりしなければ大丈夫だ」


「それってどういう感覚なの? 魔法がどこを狙ってるとか、その程度なら分かることもあるけど」


「どうって言われても」


 俺は首をひねった。

 マジのガチで万能エネルギーである魔力は、魔法式さえ間に挟んでいれば本当に何にでも(・・・・)変化する。

 それは動く魔法であるモンスターも例外ではなく、奴らは常に"今何を考えているか"という脳内情報を魔力に乗せて垂れ流しているのだ。

 ただその情報の掴み方は説明が難しい。


「分かるようになったら分かる」


「はあ……私の友達も似たようなことを言ってた。その子も契約者だから、あなたと感覚が似てるのかもしれないけど」


 実はその契約者とかいうのが何なのか分からないが、聞いたらやぶへびになりそうだからやめておこう。

 あ、そうだ。


「そういえば水住の動画を見たんだが、たまに銀色の《魔力の槍》とか撃ってなかったか? ハウンドには使ってなかった……悪い、やっぱなしで」


 めちゃくちゃ聞いてほしくなさそうな顔をされた。

 普通の魔力は蛍に近い光なので気になっただけなんだが、地雷はどこにあるか分からないものだ。


「別に。あれは私の"ユニークスキル"ってだけ」


「はい」


 もちろん深掘りはしない。

 魔法のカテゴリは"属性魔法(ぞくせいまほう)"、"操作魔法(そうさまほう)"、"生物魔法(せいぶつまほう)"、"概念魔法(がいねんまほう)"とかに分けてデータベース化されている。

 けどユニークスキルは、特定の人が魔法式なしで使えるものなので魔法かどうかも怪しい扱いだ。


 人間がアークに来てしばらく経つが、まだまだ謎は多く残されていた。


「浅倉くんこそ……てっきり()を使うと思ったけど」


 チラッと流し目を使われた。

 小賢(こざか)しい真似(まね)を。ちょっと可愛いぐらいでボロを出すと思うなよ。


「使わない。"フェンリル事件"のことは店長が説明しただろ」


「言ってみただけ」


 そう言って水住はタワー観察に意識を戻した。

 普通に会話できるようになったのは良いことだが、人を疑うのは良くないと思います。




 崖の上で過ごすこと数十分。

 急にガーディアンの気配が変わったのでお帰りを提案しようとした時、超感覚に反応があった。


「水住、何か来た。少し大きい」


「方向と距離は?」


「帰り道の方だ。距離は……もう音が聞こえる」


 耳をすませば、遠くからバキバキと木がへし折れている音がする。

 たまに静かになったと思うと、うなり声と共にそれまでよりも大きな破壊音が響く。

 ……木や岩に引っかかった何かを無理やり引き抜くような。


 その音を聞いて水住が立ち上がった。


「こっちから前に出た方がいい。ガーディアンから距離を取らないと」


「そうだな」


 戦うにせよ逃げるにせよ、だ。

 俺達は少しでも有利を得るため、自らその圧力へと進んでいった。

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