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第63話 突入《後》

※最後の方に数行ですが自傷行為の描写があります。苦手な方はご注意ください。

 正門を越えた俺達はそのままゲート管理所の中に入り込む。

 後ろに続く開拓者の数は留まることを知らず、もはや引き返すのは物理的に不可能なほどだ。

 管理所の中、エントランスを守る機動隊の第二陣もさすがに圧倒されている。



 先頭を歩く俺は少しうつむきながら”この世の終わりだ”と言いたげな表情を保つように努力している。

 努力しているのにも関わらず、リアリティを高めるためか田中くんに追加で2、3発殴られた。

 バレるわけにはいかないといっても容赦がなさすぎる。


 けどその甲斐あってか?


 それほど間を置かずに第二陣も道を開けた。

 警察の中で俺の重要度が上がっているという話は本当なのかもしれない。いくら内通者がいるとはいえこんな暴徒の集団をあっさり通したら普通は問題になる。


 ……じゃなきゃ、この人達の知り合いもアーク(向こう)にいるとかだ。


 いずれにせよ血も涙もあったらしい機動隊に人質作戦は功を奏す。

 エントランスを抜けた俺達は受付エリアを越え、改札機じみた入場口も通過する。

 直線距離で言えばゲートまでもう100メートルも残ってないはず。


 油断、とまではいかないが。想像していたほどのトラブルもなく辿りつけてしまうのだろうかと思った。




 ―――そんな考えはゲートの直前、最後の大扉を前にしてかき消される。


 そびえ立つ分厚い金属の扉を守るのは、同じぐらい分厚いと錯覚させられるぐらい重武装で固めた部隊。

 警官というより外国の軍隊と言われた方が信じられる。

 人数は機動隊の半分もいないのに、怒号を上げて押し寄せる開拓者の波に対してまったく怯んだ様子がない。



 むしろ距離が近づくにつれて開拓者の方が気勢を削がれてきた。

 モンスターとやり合う連中がびびることはないだろうが、気持ちは分かる。

 相手の装備、例えば盾というより壁のような大きさのシールドや、明らかに人に向けちゃいけないサイズの……ショットガン? とかが目に入ってくるのだ。

 人数差が覆されかねないという警戒心が俺達には湧いてきていた。



 その部隊は、先頭を歩かされる俺が何か物理的な(ライン)を踏み越えた瞬間。

 号令もなしに隊列を変えて迎撃態勢を整えた。


 巨大な銃がためらいなくこっちに向けられ、田中くんが俺の襟首を掴んで足を止めさせる。

 自然と開拓者達の行進もストップした。




 確か田中くんの話では、俺達は時間を稼がなければならないということだった。

 大扉の開閉システムを別動隊が乗っ取るとかなんとか。

 まあ言われるまでもなくこの金属の壁を物理的に突破するのは不可能だ。


 けどもし何らかの理由でそれが失敗した場合も諦めるつもりはないらしい。

 となると不可能を可能にする手段があるということになる。


 ぱっと思いつくのは……”爆弾”だよな。

 極論、建物まるごと崩してしまえば大扉を迂回してゲートに接触できる。



 実際のところは分からないが、ともかく本人が言っていた通り相当な血が流れる手段なのは察せられた。

 使わせたくはない。

 その為にも何とかしてこの鋼鉄の擬人化のような部隊の注意を引きつけておく必要がある。




 部隊は隊列を組み替えてから微動だにしていない。

 声も発しない。

 隊長と思われるペイントが入った奴もいるが、こっちに交渉を仕掛けてくるような様子も見られない。


 ……嫌な感じの均衡状態だ。


 時間稼ぎには望ましいはずなのに良い予感がしない。

 同じように感じ、その均衡を破ろうとしたのか?


 田中くんじゃない方の公安の男がしびれを切らしたかのように肩を怒らせ、前に出て、拳銃を握る手を天井に振り上げた。



「おいッ、そこを――」



”ズガンッッ!!”



 その男が後ろに吹っ飛んだ。


 一歩遅れて、一瞬前に響いた轟音とその発生源を脳が理解する――撃たれたのだ。



 俺はゆっくりと顔だけで後ろを振り向いた。

 喰らった男は床で身を縮めながらうめき声を上げている。

 血は出ていない。

 死んでない。



「ふん」



 前の方から忌々しげな鼻息が聞こえた。



「防弾ベスト。やはり茶番か」



 視線を大扉の方に戻す。

 しゃべったのは、どうやら部隊の隊長らしき男のようだった。





 俺は判断が遅れた。……いや、できなかった。

 この状況で何をすべきかのアイデアがなかったのだ。



「ふざけてんじゃねェ!!」



 その結果田中くんの判断に流された。

 後ろから首を絞められ、こめかみに銃が突き刺さる。

 周りからは盾にされたように見えているだろう。



「てめえらよくも……俺らが浅倉を撃たないと思ってんだな!? 上等だよ!! こいつに開いた穴ァ見て後悔しろや!!」


「茶番だと言った」



 激昂する田中くんの演技を隊長は軽く流す。

 そして軽く手を振ると――なんと隣にいた隊員が、俺達に向けて銃を向けた。

 ”茶番”。つまりこいつは、いや、どこまで?



「なんっ――!?」


「ある組織では」



 隊長が田中くんの動揺を押し潰す。



「偽の人質作戦を実行する場合、人質に直接接触する銃には弾を込めない(・・・・・・)。どれだけ注意しようと誤射のリスクは消せないからだ」



 全部だ。

 全部バレてる!



「お前の銃は……どうだろうな」



 沈黙が流れた。




 その間、田中くんが突きつけている銃口は一切ブレなかった。

 隊長の雰囲気が変わった。



「人質ごと撃て」


「了解」



 瞬間、俺は田中くんに突き飛ばされた。


 突き飛ばされて、とっさに受け身をとろうと身体を回しながら。

 俺は彼が弾を喰らって後ろに吹っ飛ぶのを見ていた。


 人間1人が床に落ちる鈍い音を聞いた時には、既に体勢を立て直していた。

 音の発生源では田中くんが気を失っている。



「非殺傷弾だ」



 隊長が俺に向けて言った。



「同僚だろうと市民には変わらん。行動の責任は取るべきだが、死なせるつもりもない」



 ―――俺は冷静であろうとした。

 俺は冷静だ。

 俺は冷静になった。



 ブラフだった。

 はっきり見た。隊員が撃ったのは、田中くんが俺から離れた()

 俺ごと撃つ気なんて初めからない、茶番を暴くための罠だったのだ。


 田中くんもその可能性には気づいていただろう。

 それでもリスクは取れなかった。防弾ベストなんて着てない俺があれを喰らえば軽い怪我では済まない。

 そうなれば作戦は失敗だ。

 怪我人をアークに連れていったところで―――?



 ―――違和感(・・・)。 



「制御室に向かっていた連中も制圧済みだ。この扉はもうたとえ我々を全滅させたとしても開くことはない」



 最後の希望も今消えた。

 なのに俺は、ついさっき覚えた違和感が頭から離れない。



「終わりだ、浅倉玄人。諦めて家に帰れ」


「……俺を知ってるのか」



 両手に力を込めて手錠を外しながら、時間稼ぎに適当な質問をする。

 違和感の正体は脳の言語化できない部分で突き止められつつある。



「斎藤龍ノ介とは付き合いが長くてな。君の話も聞いている」


「最後に話したのは?」


「一昨日だ」


「何か言ってたか? 俺のこと」


「君の仕事は未来にあると。だから今、自分が行くのだと言っていた」


「他には? それだけじゃないだろ」


「君は必ずここに来るだろうとも」



 だよな。

 龍ノ介さんは分かってたはずだ。

 ”やる”と決めた時、俺がどこまでやろうとするのかを。



「彼の遺志を継げ」


「嫌だね。あの人はまだ死んでない」



 何をしてでも先に進む。



 俺は後ろに手を回してシャツの中に突っ込み、背中に貼り付けておいたナイフを鞘から引き抜いた。

 モンスターの牽制に使う程度の小さなものだ。



「動くな」



 部隊の反応は劇的だった。

 いくつもの銃口が容赦なく、一斉に俺へと向けられる。



「非殺傷弾でもリスクはある。……お前達がいては医者も通れまい。地球(ここ)での怪我は取り返しがつかんぞ」



 本当にそうか?(・・・・・・・)



 少し前までアークで死んだ人間は地球で生き返っていた。

 怪我も完全に治った状態で。


 死なない程度に負った傷も《回復》を使えば治る。

 それらは魔法の力によるもので、ゲートに入った時の身体が基準になると言われている。

 そのシステムがあるから地球で負った怪我は治らない。



 なら、どこからがゲートなのか。



 目を閉じる。

 建物の外からずっと感じていた”魔力の匂い”は、意識した途端に嗅覚から視覚にシフトした。

 暗闇の少し先、大扉を越えた位置にある光の渦。

 俺にはその姿がはっきりと捉えられていた。



 こんなことは一度もなかった。

 唯一地球に存在できる魔法(ゲート)でさえ、その魔力はコンマ1秒もかからず大気の中に霧散している。

 けど今その霧粒すら捉えられるようになったということは、俺の超感覚に何かが起きたのだ。



 超感覚は人間が魔力と意思疎通を図る上での唯一の感覚器。

 他の五感は、言ってみれば単なる出入口に過ぎない――だから。



 俺は既にゲートに触れている(・・・・・)



 ナイフを逆手に持ち替え、両手で掴んで振り上げた。

 狙うのは自分の腹(・・・・)!!



「――!? 待てッ」



 隊長の制止とほぼ同時に切っ先がシャツごと皮膚と筋肉をぶち抜いた。

 全身に痛みの稲妻が走る――が、その程度では止まらない。

 俺は開拓者だ。

 ”片腕が取れてからが本番だ”と尊敬する人も言っていた。



 赤い血がしたたるナイフの柄を握りしめ、引き抜く。

 血が爆ぜた。



「ぶっ、ゲホッ!!」



 口からも溢れた。

 もはや絶句している部隊に向けて、死ぬ気で笑う。



「向こうで……《回復》、頼む。じゃなきゃ、死んじまうぞ。”最後の希望”が……」



 それだけ言うと俺は意識を手放した。












 魔力が匂う。

 超感覚が活性化して意識が叩き起こされる。

 目を開けるとテントの中。

 重装備で固めたさっきの部隊の隊員が、寝転んでいる俺に点滴を行おうとしていた。



 ここは?

 ……アークだ!



「うわっ!?」



 跳ね起きた俺は、驚いてのけぞったその人の腕を掴む。



「状況は!?」


「はっ、いや……」


「どうなってる? ――もう始まってる(・・・・・)か!」



 魔力が荒れている。

 耳を澄ますまでもなくあちこちから戦闘音が聞こえてきた。

 たくさんの人と、それをはるかに上回る数のモンスターの気配!



 立ち上がる俺を隊員が引き留める。



「まだ無理だ! 《回復》じゃ傷は治せても体力までは戻せません!」


「……大丈夫です。むしろ調子が良いぐらいなので」



 やせ我慢ではなかった。

 異様な活力に満ちた身体を動かし、俺は戦いに向かっていく。

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