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第54話 彼が得たもの、そして

 暗闇と、ゲート特有の浮遊感。

 それが無くなると俺は森の中に立っていた。

 即座に幻視で周囲を確認する――すぐ近くにモンスターはいない。


 ただし、たまたまだ。

 少し離れたところでは、モンスターの群れ同士が戦っている様子が映っている。

 さらには幻視の距離外に大きな魔力がいくつかあるのを超感覚が捉えていた。

 恐らくBランク。できればかち合いたくない相手だ。



 ゲートから朱莉と陽太が遅れて現れた。



「玄、どんな感じよ?」


「良くも悪くもない、ただ行き先がデカいのと被らなきゃスピード重視でいい。朱莉、生徒の位置分かるか」


「ちょっと待って」



 朱莉が魔石を割って目を閉じた。

 魔力を吸収したガルムが、朱莉を通じて聴覚と嗅覚を広げているのが伝わってくる……魔力を持たない人間相手に幻視は機能しづらい。

 そしてこういう探索は大ざっぱなフェンリルよりガルムの方が向いている。



「……こっち!」



 槍をかついだ朱莉が森を走り、俺達は後を追う。

 学校に向かった時と違い今度はペースを合わせている。


 生徒達は無事なのか――怪我はないか、はぐれていないか、襲われていないか。

 俺達の介入により状況が動くとしたら、対処するためには全員が揃っている必要があった。



 そして目印もない木々の間をしばらく駆け抜けて、



「もう近い……でも、襲われてる!」



 朱莉が焦った声で叫んだ。

 この距離までくればモンスターの方は俺にも視える。

 数は3、魔力は大きくない。


 魔石を割った。

 噴き出した魔力を使い、フェンリルが自身の気配を周囲へ放つ。

 モンスター達の意識が一気にこちらへと向いて警戒が高まる――これで少し目を逸らせた。



 木々の隙間からそいつらの姿が見え隠れする。



《Dランク:リザードマン(半獣型)》



 二足歩行のトカゲ共は、それぞれが《土属性》で作り出した石の剣や矛を持っている。

 3人の生徒がひと際大きな木を背にしてそいつらに追い詰められていた。

 女子2人をかばうように前に出ていた男子が、リザードマンの動きを見て俺達に気づく。



「こっ――こっちだ! 助けてくれ!!」



 しかしリザードマンがその声に反応した。

 このままだと前後で挟まれると思ったのか? すぐに片をつけようと身を低くして生徒に突っ込んでいく。


 朱莉がグンとスピードを上げたが間に合わない――《影縛り》。

 思わず目を閉じた男子の前でリザードマン達が固まった。



「《護法(ごほう)ッ!》」



 陽太が式神を使う――3人の生徒が、地面から生えた檻のようなものに全方位を囲われる。

 《影縛り》の効果が切れ、再び動き出したリザードマンの()を朱莉が跳ねた。


 軽く薙ぐように振られた槍が石剣に弾かれる。

 続いて他の個体にも槍が向けられ、同じように防がれる……朱莉の狙い通りに。



 即席の槍が稼いだ時間で、俺がエリアに突入する。

 左手に握り込んだのはもらった薄緑の魔石。

 砕くと同時に《フェンリルの爪》が現れる。


《3体のリザードマンが一斉に振り返る》


 予幻に映る警戒行動は、しかしもう手遅れだった。


 振るわれる石剣、突き出される矛。

 全て紙一重でかわしながら叩き込む剛爪が一撃ごとにリザードマンを塵にする。

 接近を許した代償は、そのわずか数秒で支払われることになったのだった。




 陽太が魔法を解除し、生徒達を囲う檻が消滅する。



「あーっと、大丈夫? 怪我とかねえ? 俺ら、学校の依頼で来た開拓者ね」


「うっ……」



 緊張から脱したのか、一気に力が抜けた様子の男子が返事もできずにうなだれた。

 しばらく呼吸を整えてからようやく顔を上げ――、



「――っ!?」



 俺と目が合って固まった。

 後ろの女子2人も同じ反応だ。



「クロ、目! 目!」



 朱莉が言いながら自分の目を指さした……ああ、なるほど。

 《フェンリルの目》を解除する。もはや自動で発動するようになったこの蒼眼は、慣れてない人が直視するには物騒すぎたようだ。


 そして朱莉の反応を見た感じ、案の定こいつの知り合いではなかったらしい。

 そりゃそうだよな母数が大きすぎるし。



 男子が慌てて立ち上がる。



「ごっ、ごめんっ……! 助けてくれたのに」


「気にしなくていい。で、怪我は?」


「僕は大丈夫、かすり傷ぐらいだから。2人は……?」



 遅れて立ち上がった女子2人も、お互いの様子を確認してからうなずいた。



「大丈夫……もう痛みも治まったから」


「僕達、ゲートに巻き込まれた後に地面に投げ出されたみたいでさ。モンスターにも追いかけられて散々だったよ」


「さっきのリザードマンか?」


「別のやつだった、けどリザードマンが倒したよ」



 正直それは良い情報じゃなかった。

 やっぱり色々うろうろしてるんだな。俺と顔を見合わせた陽太が眉をひそめる。



「んじゃ、さっさとずらかろうぜ。ゲートからそんなに離れてねーから。歩けるか?」



 3人とも問題ないようだ。

 俺達は生徒を隊列の間に挟んで帰り道を歩き始めた。



 ――――その後、気配は感じるものの再びモンスターと接触することはなく。

 そのまま無事にゲートへと全員で帰還したのだった。




 再びゲートの浮遊感をくぐり抜けると、目の前にはさっき助けた男子の肩を叩きながら、感極まってボロ泣きしている教師がいた。



「ありがとう……ッ! 浅倉さん、本当にありがとうございます……ッ!!」



 俺は俺で、両手を掴まれてブンブン振られながら何度も頭を下げられた。

 廊下を埋め尽くしていた他の生徒達はいなくなっている。

 さすがに下校させられたのか。


 若干とまどいつつも、俺達の後に入った人がいないことを確認して、依頼は終了だ。

 店長に報告の電話を入れながら校舎の外に出る。



 ――――ちょうど校門から自衛隊の車両が入ってきた。

 救助はなくなったものの、彼らは通常の任務としてゲートが開いた場所の封鎖を行わなければならない。



 その後は……公開ゲートとして扱われるなら、ここにも協会の管理所が作られることになる。

 高校としての機能は失われるだろう。

 ガラにもなく生徒達の心情をおもんばかりながら、校門を出ると――、



”おおおおーーーっ!!”



 道の両端に並んだ、たくさんの生徒達。

 その歓声と拍手に出迎えられることになった。



「なっ、なんだ!?」


「えっ!? えっ!?」



 陽太と朱莉が派手にパニクっている。

 校舎から追い出された生徒達がみんなここで待っていたみたいだ。

 巻き込まれた3人が一緒に戻ってきたのを見て、救出に成功したのが伝わったらしい。



 良いことをしてたくさんの人達に称賛される。

 そういう経験が俺には薄すぎて、その日は妙に疲れた気分で家に帰ったのだった。



 向かいに座る水住が、テーブルの上のカフェオレをゆすってカラカラと氷を鳴らした。



「……そう。それで一昨日は、私をのけ者にして大活躍してきたと」


「良いことしたのにこれだよ。逆に安心するわ、その調子でたくさん難癖つけてくれ――いてっ」



 足を軽く蹴られた。



「SNSで見かけたのは学校に押し入ったって話だったから、少し心配してたの」


「朱莉は? 何も言ってなかったのか?」


「浅倉くんが掃除用具を壊したとか」



 俺はそっと目を逸らした。


 水住がカフェオレを飲み終わったのを見て、席を立つ。

 このお嬢様が開拓者のくせに”足が疲れた”などとおっしゃるから立ち寄ったカフェだが……もう休憩は十分だろう。



「ほら、行くぞ。いや来なくてもいいんだが。やっぱり解散して俺1人で……アッスイマセン」



 も、ものすごく冷たい目で見られた。

 今日の水住はなんだか”圧”がある。




『近接でも使える銃ってあるのか?』



 そんな話を振ったのが数日前、たまたま水住と下校が被った時のことだ。



『次の土曜日は空いてる?』


『うん? 空いてる』


『私がお世話になってるお店に行くから。時間と場所は後で連絡する』


『……はい?』


『後で』


『アッハイ』



 なんかそういうことになったのだった。


 そして今日、駅前で待ち合わせしてからガンショップを見学し終わったところで、



『じゃあ俺行くところあるから』



 とお別れしようとしたら……ひどくじっとりとした目で見られてしまい。

 結局水住の圧に負けて、こいつは俺の用事、天満にへし折られた剣の修復確認についてくることになったのだ。



 並んで街を歩きながら、着ているジャケットの襟を直す。

 ……これもなあ。

 事前に”デートではない”と何度も強調されていたので、いつもの開拓者ジャケットで駅前に行ったところ殺されそうな勢いで剥ぎ取られ、その後代わりに買わされたものだ。



 まあ水住は明らかにおしゃれしてきているし、あのジャケットで隣を歩くのは良くなかったかもしれない。

 この女はさっきからすれ違う男女の目を()き尽くすような輝きを放っている。



「水住、あんまり離れるなよ。目立ちすぎてる」


「…………はあ」



 それどういうため息?


 今日は30分で解散する予定だったのに……集合してからなんやかんやでもう3時間近くが経っていた。

 長い一日になりそうだ。

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