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第51話 彼女たちのエピローグ②

 天満はSNSに独断でアップした動画でソフィアさんの告発が事実だとぶちまけていた。

 詳しくは未だに分かっていないが、何らかの目的で事務所と協会、それと管理省()の一部が結託し、強引な手段で開拓者をかき集めていたらしい。


 そしてあいつはそれだけの悪事を防げなかった責任はリーダーの自分にあると言い、今後万が一にもクランが悪用されないよう……ストラトスの解散を宣言した。


 その動画は何十万人といるファンに大きな衝撃を与え、アンチ共には最高のサンドバッグを提供することになった。

 今のあいつの叩かれっぷりは全盛期の俺にも迫るだろう。


 けど、その意味は俺の時とはまったく違う。

 天満はストラトスのどのメンバーよりも早く事実を発信した、全てのヘイトを自分へと向けさせるために。

 そうすることで仲間達を、世間の攻撃から守った(・・・)のだ。



「あれで協会も理事を突き出す気になった」


「姉さんは浅倉くんへの忖度もあるかもしれないって」


「うん? ……ああ、俺の事件の方と一緒にってことか」


あんなもの(・・・・・)今更出すなんて理解できないけど」



 一連の情報が世間に浸透した頃、協会が突然公表した”フェンリル事件”の報告書のことだ。

 それは俺の人生にも大きく影響するもので……端的にまとめると、”浅倉玄人は事件に関わっていない”という内容だったのだ。



 直接俺の名前が出たわけじゃない。

 ただ半年近くかけた調査の結果、あの事件に人間が介入した形跡は認められなかったという結論が科学的・魔法的なエビデンスと共に書かれていた。


 はっきり言ってうさんくさい文書だ。

 それでも、今回の一件を上級職員と連携して解決したこともあり、野放しの犯罪者扱いだった俺のイメージは徐々に変わりつつある。

 完全に元に戻ることはないだろうけど。



「”最初から準備してたみたいだ”と店長は言ってたな」


「だとしても、もっと早く出していれば……」


「どのみち信じないやつもいる。世の中の面倒くささは水住だってよく分かっただろ」



 俺は笑った。

 対して水住は真剣な顔になって、今度こそ俺と目を合わせた。



「浅倉くん」


「おう」


「改めてお礼を言わせて。――本当に、ありがとうございました」



 きちんと下げられた頭が、数秒の間を置いて上げられる。



「こんな話ができるようになるなんて思ってもみなかった。全部あなたのおかげ」


「貸しにしておく。……聞いていいのか分からんけど、結局あいつら何を企んでたんだ?」



 ソフィアさんをクビにできるような材料があるような話だったが未だによく分かっていない。

 が、問われた水住は困った顔をした。



「ごめんなさい。話していいか判断がつかない」


「じゃあいい。ただの興味本位だ」


「もしかしたら姉さんから話があるかも」


「ならソフィアさんに任せる。聞いておいてあれだけど、お前はもう難しい話から離れとけよ。それよりもこれから何するかだろ」



 俺はさりげなく本題(・・)を切り出した。

 この困った女が抱えている最後の問題について、まずは相手の出方を見る。



「これから……」



 水住はまっすぐ俺を見た。



「浅倉くん。私と正式にパーティーを組んでほしい」


「なんでそうなった?」


「恩は一生返しきれないと思うけど、少しでも力になりたい。戦闘はともかく……その、他にもできることはあると思うし」



 言いながら何故かまた挙動不審になっている。

 ……しかしそうか、俺が原因だったのか。


 なら話が早い。

 直接引導を渡してやるとしよう。



「ダメだ。水住、お前はアステリズムに戻れ」


「うっ――!?」



 意表を突かれ、ちょっと気まずそうな顔をしている……つまりそういうことだった。

 水住のパーティー脱退から始まったこの一件は、ストラトスの空中分解により元の鞘に収まって一件落着、と思いきや。

 朱莉のラブコールを蹴ったこいつの所為で延長戦に突入していたのだ。


 いわく、戻らない理由は。



「私は応援してくれた人達を裏切った。メンバーにも事務所にも、想像もつかないくらい迷惑がかかったと思う。戻れるはずないでしょ」



 とのことだ。

 しかしその回答は予習済み(・・・・)よ。



「決めるのは相手だ。少なくともちゃんと顔出して謝るのがけじめのはずだ」


「うっ……!」



 おらっ正論パンチ!



「それとも本当は戻りたくないのか? 朱莉は違うって言ってたけどやっぱ不仲なんじゃ」


「違うから!」



 初めからこいつは俺の手のひらの上。俺っていうか店長だけど。

 ”水住紗良を説得してこい”という今回のミッション、既にシミュレーションは済ませてある。

 何を言ってこようが打ち返してやろう……。



「……浅倉くんこそ、そんなに私と組むのが嫌なの?」


「…………」



 そういうのは店長も想定していなかった。

 どうやら俺がパーティーを断る口実にしているように見えたらしく、水住は少しいじけた目をしている。

 ”口で言い負かしても紗良ちゃんは頑固だから、最後はあんたのハート次第よ”とは店長の言葉だが……。



 心のこもった言葉なんて予め用意しちゃいなかった。

 それでも、いや、だからこそなのか。



「俺はお前に、全部取り戻してほしいんだよ」



 何を考えることもなく口が動いていた。

 自覚していたかも曖昧な本心が声に乗る。



「捨てさせられたものがたくさんあるだろ。諦めたって良いことないぞ」


「……自分がそうだったから?」


「いいや。ただ普通に幸せになってほしい、お前に。それだけ」



 俺の人生史上最も恥ずかしいはずの言葉が転がり出たが、何故か照れくさくはなかった。

 逆に聞いた方の顔が赤くなっている。



「え、っと、それって、その」


「パーティー内のことは朱莉がなんとかする。外のことはお前がなんとかしろ」


「なんとかって」


「俺に借りがあるよな?」


「うっ……」


「一生返せない借りをそれで無しにしてやる。”はい”か”分かった”で答えろ。――アステリズムに戻れ。いいな?」



 店長は水住を頑固だと言っていたが……所詮この程度よ。

 俺なら逆ギレしてうやむやにするところをまじめに受け止めてしまうこいつは、本質的に良いやつなのだ。

 一緒には連れていけない。



 最終宣告を突きつけられた水住は逃げ場を探すように視点をさまよわせた後。

 今度は追い詰められた獣のようにこっちを睨んで手を伸ばしてきた。

 そして俺の胸のあたりを、指先でガリガリと引っかき始める。



「痛い」


「なんなの、浅倉くんは……」


「返事は?」


「~~っ、分かった!!」


「それでいい」



 俺が笑うと、水住はまた顔を赤くした。




 ようやく本当に一件落着か……これで朱莉の泣き言を聞かずに済む。

 アステリズム自体にはあんまり興味ないが、水住がまた意味分からない無茶ぶりされるのは楽しみだ。

 バンジージャンプとかやってくんねえかな――、



「そっ……それで、本題(・・)は?」


「…………ん?」



 頭の中で空中落下して悲鳴を上げている想像上の水住が、未だに顔の赤い現実の水住に置き換えられた。

 本題は今終わったところなんだが……?



「私だってここ(・・)がどういう場所なのかは知ってる。他の人に呼び出されたこともあるし」



 校舎裏(ここ)……?



「その、途中で茶化したりしないから。ちゃんと聞くから……言ってみて」



 茶化す……?



 水住はこれまで見せたことのない大層可愛らしい表情で催促してくるが、俺の頭には”?”マークが浮かんでいた。

 それを見た水住の方も話の流れに疑問を持ち始めたようだ。

 互いに困惑しながらお互いを見つめ合っている……。



 ……最近の騒動のせいで、俺と水住はそれぞれ週刊誌やらにマークされている。

 一緒にいる程度なら問題はないだろうが、さっきみたいな話を立ち話でするのは難しい。


 だから部外者は入ってこれない校内を指定した。

 とはいえ空き教室とかだと誰か通りがかる可能性もあるから、のぞき厳禁のこの告白スポットで……



 ――――あっ、まさかこいつ!?

 俺が告白に呼び出したと思ったのか!?



 俺と同時に水住も気づいた。

 一旦落ち着いていた顔色がリンゴを通り越してトマト並みに赤くなっていく。



「あっ……ぇっと……」



 その口が何かを絞り出そうとして――俺の思考に稲妻が奔る。

 ここまでの話の流れ、水住の態度、告白の件の切り出し方。

 ラブコメプロトコルに従ってその全てが恋愛的に分析され、まばたきほどの時間もかからず演算が完了する。

 頭の中で悪魔がささやいた。



いけます(・・・・)


「水住――好きだ。付き合ってくれ」



 俺は告白した。

 いけるかいけないかの2つで、いけると判断したから告白した。

 それ以外のことは考えている時間がなかった。水住は自分の勘違いに気づいた、と思っていて、引っくり返せるとしたら”元からそのつもりでした”という体裁を作るしかなかったからだ。

 その為に動くことを最優先した。



 そして…………数秒の間を置いて、ようやく他の思考が追い付いてくる。

 他にも考えておいた方がよかったはずのあれこれが。


 自分の中だから誰にもバレないと思って言うんだが……俺、水住のこと好きかどうかわかんねえッ!!!!

 顔と身体と性格は好きだ!!

 けどそれって、それはエロなの!? 恋愛なの!? 本当に区別がつかねえ!!

 ただ一つだけはっきりしていることがある!!



 告白を受けた水住はびくっと身体を震わせ、目を閉じて、気のせいでなければ一瞬嬉しそうな顔をして、それから目を開けて”うん?”という表情になった。


 頭に浮かんだ疑問を基点にして冷静さを取り戻していくのが分かる。

 その下がっていく温度が一定のラインを下回った辺りで……俺を見る目がゴミを見るものに変わり始めた!

 見抜かれた! とってつけた告白であるということをッ!!


 だがそれは予測済みだ。

 初動が遅れた自覚はあった……アークでそれなりに場数を踏んできた俺が、打開策を考えていないわけがない。

 結局本気度を疑ってるんだろ?

 見せてやるよ、俺の全部賭け(オールイン)を!!



 一歩前に踏み出し、ぶら下がっている水住の手を両手でぎゅっと握る。

 そして目を合わせ、究極の一言をぶちかました!



「結婚してくれ」



 人生で初めてのプロポーズ。

 本気も本気だった。

 水住のことを好きかどうかは分からない、分からないがッ! 一つだけはっきりしていることは!!

 俺にこんな美人の彼女ができるチャンスは二度と無いということだッッ!!



 だから俺は賭けた。

 失敗すれば水住との信頼関係は消滅し、報告が飛ぶであろう店長には半殺しにされ、その後ソフィアさんに全殺しされるだろう。

 そして朱莉と陽太が墓を掘る。

 それだけのリスクがあるチャレンジに頭から突っ込んだ結果は――!?



「……………………」



 駄目だったらしい。

 水住さんのお顔が再び赤くなっていくが、それは照れとか好意とかいうふわふわしたものではなかった。

 もしも殺意に色があったとしたらこんな色だろうなと思う。



 すうっと息を吸い込む音が聞こえた。

 俺が握っていた両手が振り払われる。

 その勢いのまま振りかぶられた手が強烈に加速して――!



「死ねっっ!!!!」


「べぅっ!!」



 身体ごと俺の頬を張り飛ばした!


 そのまま吹っ飛んで地べたに転がる俺を捨て置き、水住は怒りをあらわに去っていく。

 変な角度で喰らった所為で脳が揺れていた俺は、その足音が聞こえなくなってもまだ動けなかった……。



『くすくすくす……』



 誰かが笑う幻聴まで聞こえてくる始末だ。

 ここは旧校舎裏、のぞき厳禁、誰もいるはずがない。



『ぷっ――ぶふっっっ!! ギャハハハハハハハッ!!』



 誰もいな、誰だ!?

 この下品な笑い声、幻聴じゃねえな!?


 バッと身体を起こして上を見る。

 旧校舎の上の方の窓から何人もの顔が突き出して、俺を見下ろし笑っていた。



『アッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!』



 最初はバカにする感じだったのにもはやガチ笑いになっている。

 何人かは当たり前のようにスマホをこっちに向けていて、ああやっぱ俺の人生って終わってんだなと思った。



 再び地面に寝転んだ。

 青い空に向けて中指を立てる。

 …………なんだか無性に、アークの空が恋しくなった。

ここまで読んでいただきありがとうございます、楽しんでいただけた方は★評価してくださると励みになります。

次回から最終章に入りますが、その前に書き溜めの期間を設ける予定です(週1ぐらいで更新するかもしれませんが)。

最後までよろしくお願いします。

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