表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/74

第27話 予期せぬ関係

「水住ソフィア?」


「どうして上級職員が……」


 委員達から戸惑いの声が漏れる。

 俺は何人かが都合の悪そうな顔をしたのを見逃さなかった。

 ソフィアさんに何かあるのか?


「水住職員、勝手に入られては困ります!」


 ドアの向こうから案内の女性が非難するが、ソフィアさんはまったく気にしていない。

 まず俺と目を合わせ、次に石山理事とその周り、最後に部屋全体を見回して、


「なるほど」


 納得したように頷いた。

 その声色には俺と初めて会った時と同じ、刃のような鋭さがにじんでいる――戦闘モードだ。


 石山理事が少しだけイラついた態度を見せる。


「水住さん、見ての通り今は調停委員会の進行中なんだ。時間を改めていただけないかな」


「石山理事。私は――」


「ソフィアさんは俺の付添いです」


 何かを喋りかけたソフィアさんをさえぎった。


「ご連絡を忘れてすみませんが、遅れて出席してもらう予定でした。保護者の友人という関係でお願いしています」


「……なるほど、浅倉さんは未成年ですからね。承知しました、それでは彼の隣へお願いします」


「ありがとうございます」


 一礼したソフィアさんが俺の隣に立つ。

 目でお礼をされた。


「ただ水住さん、せっかくご足労いただいたところですが議事はほとんど終了しているんですよ。調停事項なし、あとは形式的な質疑応答のみです」


「調停事項なしとは、どのような経緯で?」


「申立人である大鋼株式会社が全面的に非を認めましたので。少なくとも浅倉さんがこの件で不利益を(こうむ)ることはないということです」


「不利益……」


「ええ。ですからご心配いただくようなことは何もありません、何ならお帰りになられても問題ないと考えますよ」


 理事は野太い声に冗談めいた響きを含ませているが、ソフィアさんの表情に変化はない。

 それどころか少し考えるような間を置いてさらに険しくなったかと思うと、


「一つ確認します」


 斬りつけるような勢いでそう言った。


「委員会は原則として2人以上理事の出席が求められますが、今回はいらっしゃっていないように見受けられます。……浅倉さん、他の理事は皆、"領主"の企業から出向している方々です」


 ソフィアさんは俺を気にしていた。

 石山理事の隣にある、3つの空席の主のことを教えてくれているらしい。


「"領主"の代表的な事業はタワーの管理。現状この国でそれができるのは彼らと自衛隊のみになります。そして今ここにいらっしゃるのは――」


 周りの委員への冷ややかな視線が放たれる。


「この国でそれなりに名の知れた企業の方々ですが、開拓事業では彼らに大きく後れを取っている。……これだけ頭数が揃っていても、実質的な発言力は皆無に近い」


「なっ……!?」


「いきなり来て失礼じゃないか、その言い草は!!」


 突然の格下呼ばわりに会議室は一気に荒れた。

 確実にわざとだ。

 長く話したわけじゃないが、ソフィアさんは意味もなく他人を攻撃する人ではない。


 ……もう何か道筋が見えていて、彼らからその先を引き出そうとしている。

 そんな印象を受けた。


「手厳しい評価だ」


 さすがと言うべきか?

 他の連中と比べて石山理事の態度は変わっていない。


「ただ委任状を預かっていますから、進行に問題はありませんよ」


「3名もの理事が欠席したのは、今回の招集が通常よりも短い日数であったことと関係があると考えますが」


「事案の重要度を考慮した判断と考えてください」


「しかし、実際には調停の必要すらなかった」


「大鋼さんの謝罪の意思は招集後に伺ったものですから」


「であれば招集を取り消せばよかったはず。紛争自体が消滅したならば、当事者と一般委員だけで話し合うのが通例でしょう。その場合、理事であるあなたの出番はなくなりますが」


「…………」


「はっきり申し上げます。本来不要な招集にこれだけの数の委員を集め、さらには大鋼社を生贄(いけにえ)にして浅倉さんの機嫌を取った。その目的に私は強い危惧を覚えている」


 ソフィアさんの視線が一瞬こちらに向いた。


「今すぐ本題に進んでください。そこに(よこしま)な意図がないか、見極めさせていただきます」


「ふむ」


「付け加えれば、私はここに来る前"領主"の理事の1人とお会いしております。今日の委員会には出られないではなく、出ない。そう仰っておられました」


「…………フッフッフッ、分かりました。降参しましょう」


 理事が苦い笑いを見せながら両手を挙げた。

 話はさっぱり分からんかったが……とにかくソフィアさんが勝ったらしい。


「水住さんも人が悪い。最後まで伏せておかなくともよかったでしょうに」


「進めてください」


「そうさせていただきますとも。浅倉さん?」


「はい」


「我々は今日あなたにお願いしたいことがありました。その内容は、ストラトス(・・・・・)と敵対しないでいただきたいという、ごくシンプルなものです」


「……はい?」


 ストラトス? なんであいつらが出てくる?


「大鋼とのトラブルには彼らも関わっていたと聞いています。我々が気にしているのはその部分ですが、理由も説明しましょう」


 俺の困惑は理事にも伝わっていたようだ。


「"領主"には株主との関係があり、自衛隊を動かすには法的根拠がいる。ご存じの通りアークの状況は流動的ですが、我が国にはそれに対応するリソースが潤沢とは言えません。……あ、いえ、もちろん上級職員の方々は素晴らしい能力をお持ちですよ」


 石山理事がソフィアさんを見て慌ててフォローした……その目がちらっと俺に向けられる。

 言いたいことは分かる。

 上級職員は"領主"に並ぶぐらい優秀だと思うが……まあ、その。


 俺はちらっとソフィアさんに視線を動かした。

 今まさに(あるじ)に咬みついてるところっていうか……。


 他に知ってる上級職員と言えばボスだが、あの人はもっとヤバい。

 理事が欲しいのはそういう人達じゃないんだと思う。


「ともかくそのような状況を打破しようと、我々は最も自由な戦力である開拓者に目を向けました。彼らの中には才能にあふれた若者が大勢いる。その力を1つのクランに結集させたい……そのための旗がストラトスなのです」


「"領主"っていう(はく)をつけてですか」


「ご理解の通りです。"領主"の認定自体はお披露目にすぎず、その後はさらに規模を大きくしながらアーク全体へと活動を広げることになります」


 夢を語るようだが理事の態度はむしろ淡々としている。

 まあ当然だろう、目的は夢でもロマンでもない。

 ソフィアさんも聞きながら冷めていた。


「そして協会は彼らを通じて権益を得るのですね」


「ストラトスの活動は有形無形のサポートがあってこそのものです。もちろん経済にも良い影響がありますし、損をする者は誰もいない。浅倉さん、どうでしょうか」


「どうでしょうと言われても」


「我々は彼らを直接指揮する立場ではありませんが、あなたと友好関係にあると伝えることはできます。それだけのことで余計な衝突を避けられる。この国の未来のために、どうかご検討いただきたい」


 理事が席を立ち、頭を下げた。

 正直なところ、今の話に俺にとって重要なものが一部でもあったか? という気分である。

 なんならこんなことのためにわざわざ呼び出したのかよっていうマイナス感情の方が大きい。


 が、それを言うと面倒くさそうだ。

 さっさと終わらせよう。


「協会と上手くやるつもりはないし、ストラトスとの今後も約束できない。ただ、俺が揉めたのはクランじゃなくて一部のメンバーだ。そこが変わるようなことがなければ今後も不干渉だと思う」


「分かりました、それで構いません。……それでは調停委員会はこれにて終了とさせていただきます。本日はご足労いただき、ありがとうございました」






 会議室を出て廊下を歩いているとソフィアさんにその辺の部屋へ引っ張り込まれた。

 何事かと思えば、硬い表情で腕を組み、見るだけで人を殺せそうな視線で俺を抉ってくる。


 まったく心当たりはないがどうやら俺は死ぬらしい。


「……あっ」


 遺言を考え始めた俺を見てソフィアさんが何かに気づいた。

 いそいそと眼鏡を外すと女神の顔が現れる。


 そのままもう一度腕を組むと、わざとらしく頬を膨らませた。

 かわいい。

 それを見て、俺は俺でわざとそっぽを向いてみせた。


「こらっ」


「すいません」


 怒られた。

 しかし何に怒っているんだろう。


「前に言ったはずですよ、困ったことがあれば力になると。こういう時こそ呼んでいただきたかったのに」


「いろいろ事情がぬわっ」


 突然手が伸びてきて喋りを中断された。

 両肩を掴まれてゆさゆさと揺らされる、こ、この人意外に力が強い……!


「たまたま情報が入ったから良かったものを――志乃は何を考えて――紗良も頼ってくれないし――」


 そのまましばらく愚痴のようなものを聞かされ続ける。




 ようやく解放されたので、今回何故1人で参加したのかなどを説明した。

 ソフィアさんは複雑な顔だ。


「貴方の大胆さというか、目的意識の高さは褒められるべきかもしれませんが。少し急ぎすぎではありませんか?」


「そういう性格なもんで。ソフィアさんはどうしてここに?」


「たまたま別の理事とお会いした時に貴方のことを匂わされまして。遅くなりましたが、入室の際はフォローしてくださってありがとうございました」


「いえ、俺の方こそありがとうございます」


 お互いに頭を下げ合った。

 前に一度会っただけなのにわざわざ駆けつけてくれたのか。

 店長との関係もあるだろうけど、この人は思ったより俺のことを心配してくれているらしい。


「それから先ほどの石山理事ですが、まだ何かを隠していると思います」


「だとしても何のことだかさっぱり。ストラトスは第3ゲート、俺達は第2ゲートですし」


「直接浅倉さんに関係する話とは限りませんが、いずれにせよ気をつけてくださいね。……そういえば、紗良とパーティーを組んでくださってるそうですね」


「水住にはお世話になってます。最近はあんまり話してない感じなんですか?」


 さっきそんなようなことを愚痴ってた。

 ソフィアさんの表情が寂し気なものに変わる。


「ええ、アステリズムを脱退することも聞いていなくて……。一度きちんと話そうとしているのですが、あれから紗良も忙しくなってしまって」


「俺のところには遊佐ってやつが聞きに来ました」


「朱莉さんですね。元々紗良を誘ってくれたのは彼女なので、きっと落ち込んでいるでしょう」


 ……ごく近しい人達ですら脱退の事情に詳しくない。

 店長も気にしてたが、段々きな臭さが増している気がする。


「第2ゲートにはまた行く予定ですが、何か探っておきましょうか? 突っ込んだことは難しいですけど」


「……いえ、もしよろしければなのですが。次のタワーには私も同行させていただけないでしょうか?」


「え」


 マジか、上級職員入りパーティー?

 それがアリなら、Aランクでも降ってこない限り戦力の心配はなくなる。


「公私混同とかの心配は……」


「この件がなくてもいずれお願いするつもりでいました。"ノア"のタワーを直接調査する機会が欲しかったので」


「あ、仕事も兼ねてなんですね」


「はい。……それと浅倉さんのことも」


 俺?

 顔に浮かべた疑問符に、ソフィアさんの優しい微笑みが返ってくる。

 白い両手が俺の方に伸ばされた。


「心配しているのは紗良だけではありません。貴方だって、本来未成年には重すぎる荷を背負っています」


 そのまま俺の顔を挟み、頬を包んでくる。

 脳が爆発した。


「私は貴方の教導役ですから、この機会に年上の人間への頼り方を……あら?」


 俺の顔が茹でダコみたいになってるのに気づいたらしい。

 ソフィアさんがあわてて手を離した。


「ごめんなさい、つい紗良にするように接してしまって! 浅倉さんは男の子ですからね……ええと」


 今度は片手を伸ばして俺の頭をなで始めた。

 柔らかい手のひらが髪をくすぐってくる。


「これで治るでしょうか……? わ、わっ……もっと赤くなって……!」


 ――さよならみんな。

 もう10秒もしないうちに死ぬであろう俺は心の中でメッセージを呟いた。


 意識がゆっくり遠のいていく――。



 "ブーッ"



 鳴り響くバイブ音で覚醒した。

 ソフィアさんが音の出所を探っている。


「スマートフォン……浅倉さんのものでしょうか?」


「はい」


 しかもこれは緊急通知(・・・・)

 俺を花園から引き戻すほどの条件反射パワーを持っていた。

 この通知が鳴る相手は2人だけ。

 その為に俺は陽太や水住をメッセージアプリでミュートに設定してるほどだ。



 大慌てでスマホを取り出し通知を開く。

 そこに表示されていたのは。


"ボス:戻った。終わったら店に来い"


 !!!???


「急用ができました!! また連絡します!!」


「えっ、あっ、はい」


 俺は部屋を飛び出し廊下をダッシュしてエレベーターのボタンを連打した。

 だが来ない、急げ、階段を探せ!!!


 ボスのお帰りだ!!!!!!



 結局階段は見つからずフロアを一周したところでソフィアさんと合流したので普通にエレベーターで降りた。

 ついでにメッセのIDを交換する。

 挨拶もそこそこにお別れしてタクシーに乗り込み、数十分後には斎藤商事の前に到着した。



 吹き飛ばすようにドアを開ける。

 奥のカウンターには、こちらに背を向けて店長と話す、力士のような男がいる。


 俺は勢いよく走り込むとその足元にスライディング土下座をかました。


「おかえりなさいませ、ボス!!」


「ああ」


 バッと立ち上がる。

 およそ1ヵ月ぶりのボス――斎藤龍ノ介さんは、相変わらず怒ったような顔つきで俺を見ていた。

 まあこれがデフォなんだが。

 ボスはゲーム的に言うと表情差分の少ないエコな男なのだ、すごい。

 神と言っても過言ではない。


「玄、晩飯行くぞ」


「はいっ!」


「志乃、店を閉めろ」


「あのね愚弟(ぐてい)、営業時間って概念はご存じかしら?」


 店長がピキッた。

 このお店のオーナーはボスらしいが、経営を店長に丸投げしている関係でよく喧嘩している。

 というかいつもボスが怒られている。


「もう日も落ちた。この時間こんな店に来る客はいない」


「あんたねえ……」


「俺、シャッター閉めてきます!!」


「あっこら、玄!」


 聞こえないふりをして外に出た。

 こういう時の飯は高確率でお高い焼肉になるのだ、逃すわけにはいかない!


 ドアに掛かっている"OPEN"の看板を"CLOSED"に引っくり返す。

 呆れた店長といつものボスが見守る中、俺はシャッター棒を手に取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ