第14話 企業の狩り
魔法には"属性魔法"とか"操作魔法"とかのカテゴリがあり、そのうちの"生物魔法"はモンスターの体の一部を召喚することができる。
例えば《ウサギの耳》は、使用者の頭に長くて立派なウサ耳を生やす。
人間には聞こえない遠くの音が聞こえるようになるので索敵に便利、見た目の可愛さからも女性開拓者に大変な人気がある。
それが…………男に生やされると、こうも無惨になるのか。
使っている男はどこにでもいそうなサラリーマンだ。
自分でもどんな見た目か自覚があるんだろう、びっくりするぐらい目が死んでいる。
「許せねえ……! パワハラってやつだろ、あれ!!」
陽太が怒りに燃えている。
索敵を担当、しかも高価な生物魔法を渡されるってことは相当優秀な人なんだろうが、企業で目立ってしまうとああいうこともやらされるのか……。
せめてテレビには映さないでやってほしい。
心の中でウサギマンに小さく同情する――その耳がピクリと動いた。
ウサギマンが無線に向かって何かを叫んだ。
少し遅れて俺もそいつの魔力を感知する。
ついでにフェンリルも目を覚ましたようだ。
「陽太、来るぞ」
「……みたいだな、動き出した!」
穴の中の足場にいる連中が柵の上にライフルを乗せた。
待機状態だったアトラスの目に魔力の光が走り、ゆっくりと立ち上がる。
遠くからバイクの音が聞こえてきた。
タワーの方にある小さな岩山の向こうからだ。
その音が大きくなるにつれて魔力の気配が近づいてくる。
――来た!
岩山の頂上からバイクが跳ね、着地し、斜面を駆け降り――終わるよりも前に、その岩山が吹き飛んだ!
土煙の向こうから現れたのは、
「デッッ」「カッ……!」
俺と陽太のリアクションが被るほどクソでかいトカゲだった。
ちょっと恐竜っぽさがなくもない。
「スキャンした、"リザードキング"、Cランク!」
陽太がいつの間にかスキャンを済ませていた。
感じる魔力もそのぐらいだ。
とはいえこの大きさは、Cランクの中では最大級かもしれない。
穴のふちから滑り降りていくバイクをリザードキングが追いかける。
巨体もあいまってかなり迫力のある絵面だ。
何とか穴の底にたどり着いたバイクが一目散に走り抜け、アトラスとバトンタッチする。
盾を構えたアトラスが突っ込み――穴の中央でリザードキングと激突した!
一瞬弾かれかけたが、オペレーターが魔法でフォローしたのか?
食らい付きながら胴体から《魔力の鎖》を射出。
鎖はリザードキングに巻きつきかけたが、その前にリザードキングが体ごと尻尾を大きく振り回す。
引っ張られたアトラスは鎖ごと振り回された――そして高まる魔力の気配。
リザードキングの首から喉元にかけて何かが通り抜けるように膨らんでいく。
最後に大きく開けた口から、酸の塊を勢いよく吐き出した!
既に体勢を戻していたアトラスはなんとかそれを回避。
岩壁に直撃したそれは壁を深く抉り、あふれた液体が煙を上げている。
再トライしたアトラスが今度は鎖での拘束に成功し、リザードキングが大きく動きを制限される。
一帯にピーッという笛の音が響く。
戦闘員達の攻撃が始まった!
それぞれが足場の上からライフルを構えて《魔力の矢》を発動する。
1秒に数発のペースで撃ち出される矢がリザードキングをハチの巣にしている……が、あんまり効いてなさそう。
見た目からしてカタいし。
「なんであいつら《魔力の槍》使わないんだ?」
「使えないんじゃね? 槍ってレベル3の《無属性魔法》だろ。……感覚麻痺してそうだけどあれ使えるのも上位10パーだかんな。普通のサラリーマンはそこまで鍛えねーよ」
「大人数が基本ならそんなもんか」
「とどめに使う奴はいるかもだけど、あの人数で槍なんか撃ったら魔力酔いやばそうだし」
それもそうだった。
何ヶ月も鉱山を離れている所為で魔力の副作用を忘れていたようだ。
その後の戦況は単調だった。
リザードキングはアトラスを振り切れず、矢による攻撃は延々と続いていく。
大きなダメージを受けているようには見えないがほんの少しずつ動きは鈍っている。
あと何十分か続ければとどめを刺すフェーズには行けそうだ……が、もちろん待ってやるつもりはない。
これ以上様子を見る必要もなく、大鋼の底はもう透けていた。
岩山の頂上で立ち上がる。
「行くぞ。先に話ぐらいはさせてやる」
「あ”あ”あ”マジで行くのか……! 話して駄目だったら即戦闘だろ? プレッシャーエグすぎるぜ……」
「陽太は帰ってもいいんだけどな」
言いながら、ふとボスの話を思い出した。
国、協会、企業。俺はそいつらの中に割って入るのだと。
"ノア"への道を拓くにはそのぐらいの力が必要になると。
俺がどこまでそこに近づけたのか、ついに確かめる時が来たらしい。
背中の剣を再チェック。
ジャケットのポケットには魔石が詰まっている。
準備は万端。
俺達は岩山の斜面を滑り降り、穴の方へと近づいていった。
穴の周りのストラトス達がこっちに気づいた。
ざわめきが伝わってくる。
大鋼の警備員が警棒を片手に踏み出そうとして、2人の開拓者に止められた。
今朝ミーティングルームにいた、俺とは因縁がある男達だ。
男達が向かってくる。
1人は先に剣を抜いた。
陽太が前に出ようとするのを手で制する。
歩いてくるそいつらの影に視線を向けた――《影縛り》。
超自然魔法が発動し、狙われた影にノイズが走る。
男達の動きが不自然に固まった。
「はっ……!?」
「おい! なんだよこれ!?」
パニックになった男達が声を上げる。
焦りにゆがんだ表情とは裏腹に、身体は歩行中の不自然な姿勢で止まったままだ。
《影縛り》は標的が大きくなるほど必要魔力が増大するが、戦闘の余波で周囲には十分な魔力が満ちていた。
2人だけなら数分は持つだろう。
「浅倉の魔法だっ、ひっ……!?」
止まった連中に近づくとおびえたような声を漏らした。
殴られるとでも思ったのだろうが、今回の敵はストラトスじゃない。
無視して間を通り抜ける。
そして俺達は穴のふちで足を止めた。
中ではリザードキングとの戦闘が続いている。
ちらっと穴の反対側を見たら、そこにいる水住のしかめ面に気づいた。
「水住さん、なんか怒ってねーか?」
「あいつは俺の魔法知ってるからな。この後どうなるか想像ついたんだろ」
邪魔して悪いが、今は前に出てこないでほしい。
ストラトスとは別の位置、大鋼の集団の中から黒いパワードスーツ――たぶん指揮官だ――が向かってこようとして、例のスーツの男に止められる。
"自分が話に行く"みたいな感じでそいつを押し留めるとこっちに走ってきた。
宣戦布告の時間だ。




