第13話 砦
今回大鋼が狙っているガーディアンは、第3ゲート岩石地帯のタワーに棲みついている。
このエリアは開拓者からの人気がめちゃくちゃ低い。
ところどころにある岩山の所為で移動しづらいのもあるが、何よりモンスターが面倒くさい。
隣の山や森から迷い込んできた奴が元々このエリアにいる奴とよく喧嘩しているのだ。
なのに、その場に居合わせると何故かこっちに狙いを合わせてくる。
まさに今みたいに。
大剣を構えた陽太が岩石地帯の代表的なモンスター、"スパイン"と対峙している。
背中がトゲだらけのデカい、スカンク? じゃなきゃマーモット。
戦闘になると発射するそのトゲは固く鋭く、発射自体も《加速》を使っているので細い木ぐらい簡単に突き抜けてしまう。
俺なら超感覚を使って撃たれる前に避けられるが、陽太は魔法で対応するようだ。
剣から離した左手で魔石を割ると、そこから光線が伸びて近くにあった岩と繋がった。
岩はその線で操られるように宙に浮かび、陽太の盾になる。
操作魔法の《念動力》。
ビルを建てるのにも使われるこの魔法は《地属性魔法》でゼロから岩を生み出すよりもコスパがいい。
岩石地帯みたいに動かせるものが多いエリアではなおさらだ。
一方で俺は森からやってきたモンスターの相手をしていた。
"レッサーボア"、アーク産のイノシシだ。
当たり前のように地球産よりも牙がぶっとくて長い。
頭も良く、走るスピードを意図的に抑えているようで突進を避けてもすぐにターンして追いかけてくる。
けど今の俺にEランクと遊んでいる時間はない。
突っ込んでくるレッサーボアを前に、超感覚で相手の前脚あたりの魔法式を捕捉する。
魔石を割って《ゴースト》を使うと、飛び出した死霊の手がその魔法式を握り潰す。
直後、濁声を上げてバランスを崩したレッサーボアが、転倒して目の前に滑り込んできた。
逆手に持った剣を頭部に突き刺すと、一瞬ビクンと震えてから魔石をドロップして消えていく。
陽太の方も終わりそうだ。
《念動力》で加速させた大岩がスパインを弾き飛ばす。
転がったスパインは大剣でぶった切られて光の塵になる――魔法式がドロップした。
《無属性魔法》っぽいが陽太がその系統……《魔力の矢》とかを使っているのを見たことがない。
多分売り物行きだろう。
陽太がスマホをいじっている。
「SNS見た感じまだ始まってないっぽいわ。おっ! 玄、テレビも来てるらしいぞ!」
「なんで喜んでんだよ。お前的には悪い情報だろ」
顔が出るんだから。
「そうだけどよー。……いやほんとにそうだわ、はしゃいでる場合じゃねえ。そういえば作戦とかあるのか?」
「ない」
もちろんない。
企業がガチで組んだデモンストレーションだ。
イレギュラーは当然想定済みのはずで、生半可な作戦を立てても逆効果と見ている。
そもそも俺はお一人様前提の戦闘マシーンとしてボスに育てられたので、難しい作戦には向いていない。
「適当に突っ込んで力押しで行く」
「おま、いくら何でも……まあでもそんだけの魔法は……けどさすがに……!」
陽太のひとり言を聞き流しているうちに目的の岩山に到着した。
タワーからは4、500メートル離れている。
陽太いわくタワーの前は地形が良くないので、ガーディアンをここに作った"砦"に誘導して討伐することになったらしい。
まずは岩山の上から状況確認だ。
ここに着くまでに何台もの車や大鋼の警備員を見かけたが、まだ周辺の魔力に荒れた感覚はない。
間に合ったはず――そう思いながら岩山を登り、向こう側を覗き込んだ。
「……なるほど、"砦"か」
目に入った光景の感想が漏れる。
"砦"と言われても俺にはゲームの知識しかないので、四方を壁で囲まれた空間を何となく想像していたが大体は合っていた。
ただし壁は立てられたものではなく地面そのものだ。
魔法で開けた大穴を要塞化したもの。
それが大鋼の"砦"だった。
穴の直径は30メートルぐらいか?
一方で深さはそれほどでもない、壁も垂直ではなく化学で使う漏斗のように斜めっているので、落ちてもギリギリ生き延びられそうにも見える。
壁面には金属の足場が突き刺さっていた。
その上を行き来している連中を見るに、遠距離チームの射撃ポイントと思われる。
全身を鈍色のパワードスーツで包んだ、大鋼の戦闘員達だ。
SF映画のモブのような見た目だが、企業のパワードスーツはバカにできない。
あれ自体が防御魔法を組み込まれた魔法具で、それこそCランク……この間のコボルトレクスのような奴の攻撃を食らっても1発は耐えるらしい。
そんな簡単に死ぬ職場には社員が残らんだろうし。
つまるところ、穴に引き込んだガーディアンを壁面からハチの巣にしようとしている。
けど相手が大人しく撃たれ続けてくれるはずがない。
当然あるだろう反撃を防ぐ役割を担うのが……穴の底に座っている対モンスター用の大型二足歩行ロボット。
高さは3メートルぐらい、短くて太い脚の上に箱型の大きな胴体がついており、そこから小さな頭と長い腕が生えている。
腕の先には大きな盾が装備されていた。
質量でモンスターを抑え込むというコンセプトで、アニメみたいに機敏に動くものではなかったと思う。
二足歩行ロボット自体が実現不可能と言われてたのを魔法で何とかしたものだから、あれでもよくやってる方なのかもしれない。
こういうロボットは各企業がそれぞれ名前をつけているが、一般的には"巨人"と呼ばれている。
中に人が入っているわけではなくドローンのように遠隔操作する魔法具らしい。
「あれ? 向こうに水住さんいるぞ」
「マジで?」
陽太に言われた方向、穴の外にはストラトスと思われる開拓者が集まっているが、少し遠い。
《望遠》の魔法で視界を拡大する……いた。
相変わらず目立つ銀髪だ。
例によって男に絡まれているのを無視している。
知り合いと一緒に来ている様子ではない。
「あいつ1人でこんなところに?」
「だから水住さんもストラトスに誘われて、って1人か。他のアステリズムは用事あったんじゃね……ん?」
陽太が何かに気づいたようだ。
しばらく連中を見回した。
「あー、来てるの多分、ストラトスのほんの一部だわ。主力メンバーは来てないっぽい」
「じゃあ水住もパーティー代表で顔出したってところか」
よく見れば端っこの方には大鋼の社員がちらほら混ざっており、知り合いらしき開拓者と頭を下げ合っている。
今朝のスーツの男は部下らしき連中に偉そうに指示を出していた。
「どうすんだ、玄。もう始まりそうだぞ」
「始めさせていい。盾役のアトラスがいるってことはすぐには終わらないはずだ」
「分かった――ひゅッ!?」
陽太がいきなり首を絞められたような音を漏らした。
「なんだよ」
「お、おいあれ……」
声には恐怖がにじんでいる。
指さされた方向に視線を向けると――
「うわっ……!!」
そこには、存在してはいけないものがいた。
ウサ耳だ。
穴のそばに、ウサ耳を生やした男が立っている……。




