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第11話 ストラトス

「"自分は無実"だってどうして周りに言わないの?」


 水住の態度はちょっとした雑談という感じではなく、かといって俺を心配しているようにも見えない。

 答えを通じて何かを(はか)ろうとしている。


「どう思われても構わないしな」


「今はそうでも、例えば"領主"になるクランに目を付けられたら? 協会だって彼らの意見は無視できない」


「その時は両方と()めるだけだ」


 そう言った俺を水住がじっと見つめてくる。

 しばらくしてからそっと視線が逸らされた。


「浅倉くんは、口だけじゃなさそうなところが少し怖い」


「……そ、そうですか」


 予想外の言葉にグサッと来た。

 俺としては"何がどうあろうとやるべきことをやる"というだけなのだが、水住のこの反応にはちょっと()いている。


「ま、まあしばらくは大丈夫だろ。そういう奴は俺に構ってる暇ないだろうし、俺もやることあるし」


「姉さんが言ってたこと? あなたと斎藤さんが何をするつもりかは分からないけど――」


 水住が急に言葉を止めた。

 俺の後ろに目を向けて微妙な顔をしている。

 俺も振り返って、すぐ水住に向き直った。


あいつ(・・・)は無視していい」


「……今日はありがとう。また機会があったらよろしく」


 言い置いて去っていく水住。

 代わりに背後から近づいてきた足音が隣で止まる。


「おい玄、アステリズムのストーカーはやべーって」


 白昼堂々(はくちゅうどうどう)誹謗中傷してみせた男がへらっと笑った。

 無礼さに反して声にはまったく悪意がこもっていない。


「仕事な。お前が妄想するようなことは何一つない」


「玄は時々とんでもないことやらかすからな、"フェンリル事件"とかさあ……あ、やっぱ今のナシで! 無実、無実だもんな!!」


 自分で言ったことに勝手に慌てだしたのは、相変わらず落ち着きのない日々を送る男、桐谷陽太である。




 休学して訓練に明け暮れていた3ヶ月間、陽太とは一度も連絡を取っていなかった。

 再会したのはつい最近のことだ。

 復学の手続きをしに来たことを聞きつけたらしく、俺は学校近くの公園に呼び出された。


 病院にいた時に何度もかかってきた電話も、送られてきたメッセージも俺は返せなかった。

 ぶん殴られて絶交されることぐらいは覚悟してたんだが……。


『すまん、この通り!!!!』


 待っていたのは陽太のジャンピング土下座だった。

 さっぱり意味が分からない。

 事情を説明させたところ、こいつは俺がいない間にだいぶ適当なことを言い回っていたそうだ。



 事件直後こそ"あいつがそんなことやるわけねーだろ!"と周りにブチ切れていたが、俺から連絡がないことで"あれ?"と思い始め、そのまま休学に移行したことで"あっ、やったわアイツ"となったらしい。

 ついにバイト先の悪の組織に取り込まれたのかと。


 そんな時期にテレビやネットニュースから"容疑者と思われる少年の友人"としてコメントを求められたりしたもんだから、こいつは事情通を気取って


『あいつにはオーラがありましたからね、人とは違うオーラが』

『テロ? ……どうなんすかね、そんな小さい話なのかなあ』


 とか思わせぶりに言いたい放題をしていた。

 SNSのフォロワーが爆増して気持ちよかったらしい。


 その後、復学の話と、ついでにどうやら俺が無実であることを担任から聞いてようやく正気に戻ったと。

 思うところはあったが、元はと言えば俺が連絡しなかったのが悪い。

 一方的に責めることはできまい。


 なので俺は、その話を録音したデータをこいつの彼女に渡して代わりに地獄に送ってもらい、以後は再び友人関係に戻っている。


「水住さんと一緒ってまさかストラトスじゃないよな?」


「どこかで聞いた名前だな」


「そこからかよ! "領主"候補のクラン」


「ああ、そいつらなのか。というか"領主"っていつ決まるんだ? もうタワー2本壊したって聞いたけど」


「おおう……」


 陽太が深いため息を吐いた。

 情報弱者で悪かったな、同じ開拓者とはいえ俺に縁のある話じゃなかったんだ。


「さっさと説明してくれたまえ」


「別に難しい話じゃねーけど、5本目壊そうとしたらAランクのガーディアンが邪魔しにくるだろ? そいつに勝てばいいらしい」


「そりゃそうか。Bランク以下に勝てるだけじゃ意味ないよな」


 既に"領主"になってる自衛隊や、超のつく大企業しか倒せてないのがAランクだ。

 同じ立場になった奴がいざ戦ったらダメでした、なんて許されるわけがない。


「つってもほぼ確定じゃね? ストラトスは初めから"最強クラン作る"って宣伝してるし、有名なパーティーは大体誘われてる」


「水住もか」


「そりゃユニークスキル持ちだし。多分アステリズムまるごとだろーよ。……けどAランク戦はまだまだ先らしい。玄、俺らもメンバーに滑り込もう」


「は?」


「ストラトスに入るんだよ。まさに今日、そのチャンスを掴んできたぜ!」


 ……よく分からんが、勝手に俺の分のチャンスを掴まないでほしい。



 陽太が長々と説明を始めた。

 まずこいつのパーティーがCランクに挑戦することになって、ガーディアンがその標的になった。

 タワーに()みついてるから探す手間が省けるって安直な理由だ。


 ただガーディアンと戦う時は協会に届出を出さないといけない。

 あいつらを狙うのは開拓者だけじゃない、魔法式や魔石を狙う企業もいるから、討伐予定が無駄に被ったりしないように事前共有する仕組みになっている。

 タワーさえ壊さなければ、Cランクぐらいなら数日ずらすだけでまた出てくるし。


 というわけで陽太達は届出を出したんだが……ちょっと前にある企業が、いきなりその予定を中止しろと言ってきた。

 "大鋼(だいこう)"。

 俺も聞いたことがある、デカい警備会社から派生した開拓系企業だ。


 そしてついさっき、その大鋼の担当者との話し合いで、どうして急にそんなことを言ってきたのかが分かった。

 ストラトスのメンバー、あとその支援企業に自社のガーディアン討伐を実演(デモンストレーション)する予定があるんだそうだ。

 "諸事情でそれをどうしても届出の日にねじ込みたい、他の日は都合がつかない"の一点張りだったらしい。


「そうは言われても俺達も簡単には譲れねえ。今Cランクを討伐したらストラトスに誘われる可能性もあるわけじゃん? けど、そこで順序を入れ替えてみようって話になったのよ」


「先にコネでも作るのか?」


「正解! 譲る代わりに一緒に見学させてもらえることになってさ。前の日に軽い手伝いはさせられんだけど」


「雑用かよ」


「そんぐらいはしゃーない。ということで玄、お前も来いよ。雑用の方は見逃してやるから」


「行かない。ストラトスに興味がない」


 よりぶっちゃけて言えば嫌いだ。

 なんか聞いたことある名前だなと思ったら、最近動画サイト見る時にクソ長い広告をたれ流してくるクランだった。

 1秒でも早く"領主"になって広告を取り下げてほしい。


「いや、確かイケメン4人組が主力メンバーか……失敗してぐしゃぐしゃにならねえかな」


「あいつらのパーティーが本家ストラトスで、それをそのままクラン名にしたんだってよ。芸能事務所付きだからモテるだろうなー、玄が発狂するぐらい」


「クソが」


 思わず舌打ちが出た。

 一方で俺はどうだ?

 毎日真面目に働いてたと思ったらテロリスト扱いで全国に晒され逆方向の有名人。

 身体の中にはでっかい狼が同居して、使う魔法は犯罪者御用達の超自然魔法だ。

 天地がひっくり返っても俺がモテる未来は来ないだろう。


「絶対に行かない。そもそもお前がリーダーのパーティーに入りたくない」


「なんでだよ! ……おふざけはともかく玄、真面目にいいか」


 なんだ? 陽太がたまにしかしない顔をしている。

 俺に土下座してきた時と同じ顔だ。


「事件からもう4ヶ月近く経ってる。そろそろ色んなところに顔出して、周りの誤解も解いとこうぜ」


 ……水住に続いてまたその話かよ。

 露骨にげんなりしたが陽太は真剣なままだ。


「前から言ってるけどさ、俺はいつか教科書に()るようなことをしたくて開拓者になったわけ。けど一生できる仕事かって言われたらキツいと思うし、玄もそうだろ」


「そうだな」


「だから今からできることをやっとこう。……"何を今更"って言う奴もいるだろうけどさ、それでもちゃんと話せば味方もできると思う」


 驚くほど真面目な話だった。

 こいつなりに本気で俺を心配していたらしい。




 ――思い起こせば、陽太との出会いは1年前。

 高校入学2日目にしてウ○コを漏らしたこいつにジャージを貸してやったのがきっかけだ。

 その事件は予想以上に最悪なことになって俺はこいつを殺そうかと思ったが、なんだかんだでその後も付き合いは続いている。

 そして今は唯一残っている友人でもある。


 ……1回ぐらいは、自分を曲げて付き合うのが筋か。


「まあ、確かに今日も水住の姉と知り合いになったからな。陽太の言うこともバカにできない」


「え、マジで!? 上級職員の!? 本人だけじゃなくて姉まで行くのかよ!!」


「本人にも行ってねえよ! とにかく、お前に免じて今回は付き合ってやる」


「おっ……へへっ、そう言ってくれると思ったぜ。やっぱ熱意って伝わるもんだよな」


 陽太がニヤッと笑った。



 本音のところ、期待はほとんどしていなかった。

 それでも陽太が持ってきた話が、俺の想像や経験を超える何かに繋がる……一度ぐらいは、そんな可能性を試してみるのも悪くないと思ったのだ。

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