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【第9話】失恋!未練!残念!

~主な登場人物~


小峰慎志(こみねしんじ)

主人公。埼玉の所沢市にあるアパートに住んでいる27歳の青年。

大学を卒業して就職するも、仕事が長続きせず職場を転々としている。

しかし新しい職場である携帯端末の販売店では順調なようだ。

中野麗海(なかのうるみ)という女性と出会い、縁があって交際に発展。

恋人関係の充実した日々を過ごし、彼女と将来的に結婚したいという願望を抱いていた。

しかし偶然、彼女が知らない男と大人のホテルに入っていくのを目にしてしまう。


中野麗海(なかのうるみ)

主人公の慎志と交際している2歳年上の29歳お姉さん。埼玉のさいたま市に住んでいる。

都内のドラッグストアで登録販売士の仕事をしているお姉さん。

性格は優しく穏やかで、大人の余裕も感じさせる女性。

一世代前だが、芸能界にいた伊東○咲と井上○香を足して割ったような端麗な容姿である。

30歳を目前にして心境に変化があったのか。

彼女なりの事情で慎志を裏切り、別の男と関係を持っていた。


山方哲也(やまがたてつや)

慎志と同い年で同じアパートに住む27歳の青年。

慎志とは互いに暇さえあれば部屋を入り浸る仲。

毒舌だが、慎志からはテツと呼ばれ、よく相談事を持ち掛けられている。

埼玉県を中心とする食品スーパーに勤務。夕方には必ず帰るシフトを組んでいる。

彼女はいない。彼女の出来た慎志をよく思っていなかったが…。


浅野純太郎(あさのじゅんたろう)

慎志と哲也と住む同じアパートに住むIT系会社勤務の男。

ふたりからは学生時代の担任に似ているからという理由で"先生"と呼ばれている。

慎志と哲也より3歳年上で、彼らを名字で小峰氏、山方氏と呼ぶ。

眼鏡をかけ、太った体系をしているが、それは優しさが詰まっているから。

穏やかな性格で頼りがいもあることから、慎志と哲也から尊敬されている。

挿絵(By みてみん)




彼女である麗海が知らない男とラブホテルに入る場面を目撃してしまった僕は、浮気されたショックを隠しきれず抜け殻のようになっていた。

絶望に打ちひしがれてアパートに帰宅した僕を偶然見かけた先生は、心配して僕の部屋までついてきた。

並々ならぬ気配を察知してか、一階からテツも僕の部屋に転がり込んできた。


僕はふたりに事情を話した。


「…それは辛いね」

先生は同情して肩を落とした。


「慎志は浮かれて調子に乗ってたもんな。ざまあねぇや!お前の不幸は蜜の味だぜ!」

対して相変わらずテツは毒舌だ。

でも泣くことしかできない。

「…おいおい、いつもみたいに何か言い返せよ」 


「小峰氏、とりあえず事実確認しようよ!もしかしたら何かの間違いかもしれない。スマホでメッセージ送ってみた?彼女さんから返信は?もしかしたらだけど、見間違いだったり?」

「見間違いじゃないです。間違いなく彼女でした。ラインメッセージも電話も何度もしました。でも反応が無いんです」


「ははっ!彼女は別の事に夢中で今それどころじゃないんだろ。ひょっとしてまだホテルにいるんじゃないか?今頃、ベッドの上で相手の男にガンガン突かれてる最中かもな。あんあんあん!ってさ」


「ちょっと山方氏!流石に酷いだろ!」

先生が怒ってテツを小突いた。


胃から唐突に込み上げるものがある。

僕は口元を抑えてトイレに駆け込んだ。


「オーエー」


便器の中に顔を突っ込み、そのまま嘔吐する。

黄色くて酸っぱいものが吐き出された。

それは気持ち悪くなって無理やり生成されたような胃液だった。

口元からだらしなく残液が糸を引いて便器の排水口に滴る。

なんて無様なんだ。

どうしてこんなことになってしまったんだ。

今までの思い出が、楽しかった麗海との思い出が、その全てが牙をむいて心を砕こうとする。

彼女の声が、吐息が、唇の感触が、肌の温もりが、全てが気持ち悪い!


「オーエーー」


再びの嘔吐。

口からはゲロを吐き、目からは止めどなく涙が溢れ出す。

僕の顔はぐちゃぐちゃだった。

あんまりだ。


テツと先生も一緒に麗海からの返信や折り返し電話を待つが、一向に返ってこない。

部屋はお通夜のような雰囲気になっていた。


「慎志、お互い親に紹介とか済ましてたのか?」

「いやまだ両親には会わせてないし、向こうの親にも会ったことない」

「もし互いの両親に挨拶とかしてたら、相手の両親にチクって巻き込んで一矢報いるのもありかと思ったがな…」


「彼女さんとは婚約とかそれらしい約束もしてないかい?」

「はい、してません」

「じゃあ慰謝料の請求も難しいね…」


「兎にも角にも今はとりあえず彼女の反応待ちだね。辛いだろうけど、気を確かに持って」

先生が僕の肩を叩く。


「まっドンマイ!人は誰しも浮気する生き物だ。浮気して浮気されて…そういうのも恋愛模様の通例って事で」

テツは笑い飛ばした。


「そんなの間違ってる!浮気は最低な行為だ!」

「まぁ最低かもしれないけど。それが人の性分ってやつさ。お前だって彼女がいても、テレビによく出てるような有名女優がいきなり目の前に現れて、“好きです。付き合ってください”って言ってきたら快く引き受けるだろ?」

「交際している彼女がいるなら断る」

「そんな我慢するなよ、芸能界の女優と付き合えるんだぞ!お前の好きな女優は誰だ?広瀬○ずか?橋本○奈か?そういう女優が目の前でいきなり服を脱いで裸になったらどうする!?男ならいくだろ!!」

「どんな状況だよそれ!相手が誰であれ、彼女を裏切るわけないだろ!」


「やれやれ、口では誰もが綺麗事言うんだよなぁ」

「先生も黙ってないで何か言ってやってください。先生だって、女優の浜辺○波とか有村○純とかに言い寄られたら浮気しますよね?」

「いいや、そんなことないよ」

「はは〜ん。そういや先生は以前、声優が好きって言ってましたね。じゃあ、早見○織や水瀬○のりが目の前に現れて、いきなりホテルに誘われたらどうします?そりゃ行きますよね?」

「先生が行くわけないでしょーが!テツは先生を侮辱してますよ?何か言ってやってください」


「ぬぅうううう…」


先生が唸っている!?迷っているというのか。

息苦しそうに胸を押さえて、動悸が激しい。

必死に抗っている。

そんなに声優が好きなのか…。


「ほれみろ!人なんてそんなもんさ。慎志、お前も彼女に恨みとか持たないで、さっさと忘れてしまえ」


軽く言ってくれるけどさ…。

そんなすぐに気持ちを切り替えられるわけないだろ。

心が追いつかないんだよ!



―――――――――――――――――――


“ごめんね、私最低だよね。だからね、別れましょう”


1日経って、麗海から返信がきた。

僕が浮気を問いただして何通もメッセージや留守電を送った結果、返ってきたのはそっけないたった1行だけ。

顔文字も絵文字もない。

怒りを通り越して、ただただ虚しかった。

悲しかった。


今までが嘘だったみたいにキッパリと告げるんだな。

別れるかどうかは浮気された僕が決めることじゃないのか。

直接会って謝罪をしっかりしてもらって、許す許さないを僕が決めて、それでもう一度やり直すとか、別れるとか、そういう展開になるんじゃないの?


ばかばかしい。何もかもが。

僕は1人で勝手に舞い上がっていただけなのだ。


それからしばらくして彼女にブロックされた事に気付いた。

納得がいかなかったけど、彼女の働く店舗や家に行こうとは思わなかった。

ストーカーになるのはもっと惨めだと思ったからだ。


失恋のショックで仕事に行くのが億劫だった。

朝起きるのが辛くて仕方がなかった。

でも私情を理由に会社を休むわけにもいかない。

メンタルボロボロ状態で仕事に行くのは正直堪えたが、いざ職場にやって来ると麗海の事を忘れられた。

何かしていた方が気が紛れるのだ。


それでも調子が出ず、それが接客態度に出てしまう。

ミスも連発して、その処理がうまく出来ずに辛い目にもあったけど、浮気されたショックに比べたら些細なものだった。

毎朝起きてこんな精神状態で仕事出来るのかと不安になるのだが、出勤してしまえば何とかなった。

それでもふとした時に涙が出て、それを見た同僚が理不尽なクレームにでもやられたのかと心配してくれた。



時々、テツと先生が僕の様子を見に部屋を訪ねてきた。

先生は何故か毎回差し入れとしてお菓子やジュース、果物を持ってきてくれた。

まるで病人に対しての見舞いのような気遣いだった。

テツは”お前が狂って変な事を考えないか監視してるだけ”だと言っていたが、嫌味とは思わなかった。

彼なりに僕を励ましてくれているようだった。

早く元気を出せと言うけれど、この悲しみは浮気された人にしか分からないだろう。


休日はひたすら眠った。

遊びに出かけようとしなかった。

それでも1日1回くらいは外に出ようかなと、意味もなく隣駅まで行って歩いて帰ったりした。

近所を理由もなく歩き回り自動販売機の数を数えたりした。

 

テレビやネットで芸能ニュースを見ると、浮気を報道されるのは大抵は男の方だった。

でも女も浮気するのだ。

そして僕は彼女に裏切られた。

浮気された男の烙印を押されて、その傷を背負いながら僕は余生を過ごすのか。

僕は自己肯定感は低いけど、自尊心だけは高かったようだ。

麗海に捨てられたのがたまらなく悔しいし、僕は彼女を許せない。

僕はそんなにつまらない男だったのか…。


要は僕は選ばれなかっただけなのだ。

麗海の隣にいた男。

僕より彼の方が有能で、麗海にとって魅力的だったのだ。

だから彼女は優れている方に乗り換えただけ。

単純にそういう事なのだろう。

理由はどうであれ、僕にとって麗海は恨むべき存在のはずなのに。

煮え切らない思いがある。

きっと僕は今でも彼女の事が好きなのだ。

消えない鋭利な未練が、ずっと心を削り続けている。


駄目だ…。

挫けそうだ…。

忘れていたはずの今までの人生で経験した辛かったことや悲しかったこと、悔しかったこと。

それらが連鎖的に記憶に蘇ってきて、雪崩のように押し寄せてくる。

耐えられなくなって激情が溢れだした。


ちくしょう!!

ちっくしょおおおおおう!!

うわぁああああああん!!!

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