【第21話】アメリカ③~ラスベガス~
~主な登場人物~
【小峰慎志】
主人公。埼玉の所沢市にあるアパートに住んでいる27歳の青年。
仕事も恋愛も上手くいかず、思い通りにいかない人生に嫌気がさしていた。
そんな時、”海外を旅して巡る”という幼い頃の夢を思い出す。
後悔ばかりの過去、不安な未来、閉塞感漂う今の生活。
そういった、あらゆるしがらみを一度忘れて、海外へ旅に出る決意する。
飛行機の窓から覗くのは地上の広大な山々、そして荒野…。
日本の上空からでは見れないアメリカらしいダイナミックさ。
僕はゲーム”エースコンバット”シリーズが好きで学生時代によくプレイしていたのだけれども、
まさに眼下の地上の光景は”エースコンバット5”で見たことある砂漠ステージそのものだ。
あの緑の丸い円は何だろか。
農園か?油田か?それともミステリーサークルだろうか?
向かうは西、旅の最後の目的地に決めたラスベガスへ!
カジノで一攫千金!大当たりを出して帰国しても働かなくていいくらいお金持ちになってやる!
…という野望は無論、本気ではないけれども。
カジノ以外の理由で行先をラスベガスに決めた。
カジノやエンターテイメントの多い観光の盛んな歓楽街というイメージがあるが、宿泊費が安く済むのだ。
もちろんダウンタウンやメイン通りのストリップにある宿は高額である。
穴場なのが郊外の砂漠側のモーテルで、宿泊費がニューヨークやワシントンに比べかなり安い。
事前にネットで予約したプール付きのモーテルで、風呂トイレ付きの30平米くらいの部屋が当時で一泊3000円くらい。
リゾートフィーという観光税が別途かかるが、それでも格安で滞在でき、リッチな気分を満喫できる。
ありがたい限りである。
空港に到着すると、同じアメリカでもニューヨークやワシントンDCとはまったく雰囲気が異なる。
外は乾燥した気候で、サボテンが点在しており、西部劇で見たようなカラッとした荒野が迎えてくれた。
アメリカではこれが砂漠として認識される。
日本の鳥取砂丘とは全然違う…(そりゃそーだ)
節約の為、徒歩でストリップを目指す。
100円ショップで買ったコンパスが方向確認で役に立った。
道中、クレジット?キャッシュ?カードを拾い、最寄りの観光案内所っぽいとこに預けた(*´ω`)
空を見上げると飛行機雲の跡がいっぱい!
それにしても暑い、疲れる、くたくたになる。
市街地を目指して歩いている間、マザー2というスーファミのゲームを思い出した。
ドコドコ砂漠の音楽が脳内に流れる。(*‘∀‘)~♪
大通りのストリップに近づくと前からサンバコスの若い女子がふたり。
「写真撮ろうよ」っと言われ、一緒に記念撮影したらチップを20ドルも取られた( ;∀;)
…やるじゃない!
しかし今の僕はラスベガスにいるので金持ちを装うことにした。
虚勢を張る。ダメージはそこまでない…ない…ないんだ!
外見が派手で目立つ建物が沢山見えてくる。
だいたいがカジノホテルだ。
でかいスフィンクスにピラミッドのルクソール。
おとぎ話に出てきそうなメルヘンチック城のエクスカリバー。
ここにも自由の女神、ニューヨークを彷彿させるNY&NY。
金ピカが派手な、全部が金で出来ているかのようなドナルドインターナショナル。
数えたらきりがないくらい異色異彩を放つホテルばかり。
無料で定時にショーを開催しているホテルもあって、お金をかけなくても楽しめる。
ミラージュホテルの火山噴火は轟音とともに火柱があがり迫力満点。
フォーラムショップスの人形劇アトランティスはファンタジー感に溢れ、何か神々が喧嘩してた。
ベラッシオの噴水ショーは後楽園で見た噴水の何倍も規模が大きくて圧巻だ。
ウィンの湖でくり広げられたレイクオブドリームはカオスでみんなポカーンとしてた。
リオオールスイートやサーカスサーカスではカジノのそばでパフォーマンス。
とにかくお金がかかってるな~という印象。タダでこれだけ見せてくれて、ありがたや!ありがたや!
しかしティーアイホテルの海賊ショーは無くなってしまったとのこと。
以前は毎夜、海賊ショーが行われ、無料で楽しめたらしい。
しかしその公演が一日600万円かかったらしく、ホテルの経営を圧迫するから無くなっちゃったという。
他のホテルも大丈夫なのか、将来的に無くならないだろうかと心配になった。
ホテルのショーが見れなくても、ホテルの中を散策するだけで面白い。
何もかもがスケールが大きくてダイナミックなのだ。
空間が広く、高価そうな装飾デザインが多くて貧乏マンの僕はただ翻弄されるばかり。
日本のアパホテルのエントランスに感動する程度の僕にとっては、ラスベガスは異世界と言っても過言ではない。
豪華な空気が漂い、雰囲気を味わいながら巡るだけでも時間が溶けるようになくなる。
なんだか僕自身も、リッチな男になってきた気がする。(愚かな錯覚)
どこにもだいたいはカジノ場があって、ここで観光客を負かして得た大金を建物の設備維持に回しているんだろうなと思った。
ホテルの外を歩いても楽しめる。
ヴェネティアや古代ローマみたいなデザインのショッピングモール。
趣のある建物外観はまるで、世界の観光地のいいとこどりをしているかのようだ。
夜になるとさらにゴージャス感がバフされ、きらびやかなネオン瞬く光の不夜城となる。
砂漠の中に堂々と軒並み連ねるカジノホテルの彩色豊かなエンターテイメントシティ。
ラスベガスおそるべし!!
ラスベガスの自然も味わってみたいと思い、現地で日本人を対象にしたツアーに参加。
日本観光客御一行を乗せて車は西を目指す。
行先は赤い砂岩の山に囲まれた国立公園レッドロックキャニオン。
他の日本人はハネムーンやバカンスで来ている人たちで、一人旅していたのは僕だけだった。
カジノで負けたという話が盛り上がって、やはり現実はそう甘くないようだ。
ホテルやレストランの話題が出たが、僕は貧乏旅でモーテル宿泊、食事もパンダエクスプレス。
そこだけは話に入れなかった( ゜Д゜)
車が住宅街を抜ける。
ネバダ州の道路は広い。
車は日本みたいな左車線ではなく、右車線を走る。
僕がペーパードライバーなのもあるが、アメリカの道路は怖くて運転できそうにない。
ツアーガイドの運転手さんは京都出身とのことで、今ではアメリカの道路に慣れて、逆に日本の道路の方が怖いという。
このツアーガイドさんの話が面白い。
日本で念願の教師になったが、大人に暴力を振るう生徒の相手に疲れて辞職。
公営プールでナンパした相手がアメリカ人で、今の妻だという。
日本に見切りをつけ、妻の出身であるアメリカに移住して現在に至るとのこと。
この間、病院で治療を受けた時、シャーペンをぶっ刺すみたいに注射器を刺されて痛かったと笑っていた。
人生はやはり冒険だ。
何があるか、どういう未来が待っているのか予想がつかない。
やがて視界にはごつごつした山肌、赤い岩山々が近づいてくる。
目的地レッドロックキャニオンに到着した。
やはりアメリカはスケールが大きい。
人間なんてほんとうにちっぽけだ。
散歩コースが幾つもあって、トレッキング場所として大人気とのこと。
内陸の山だけど、ここは大昔は海だったらしい。
海の生物の化石が発掘されたという。
まるで火星の大地にでもいるような気分にさせられるレッドロックキャニオン。
赤い岩山に登って、みんなで記念写真を撮る。
勇気を出してツアーに参加して良かった。
ラスベガス最後の夜、僕は思い立った。
せっかくカジノのあるラスベガスへ来たのだ。
僕はギャンブルで賭けに出ることにした。
ここに一枚の100ドル札がある。
これを使って一発当てて、大金持ちになりたい。
そうすれば日本に帰っても働かなくて良いだろう。
悠々自適な生活。
人生のウルトラ大逆転。
その可能性に…かける!!
甘い想像に酔いしれ、よだれが出てきた。
よし行こう!戦場へ!!
いくつかのホテルのカジノを訪れ、第六感でピンときた場所を選定。
テーブルゲームでポーカーだのブラックジャックだの、そういう賭博もあったが、そちらは英語が喋れない身としては敷居が高く、遠目から様子を見るばかり(;^ω^)
僕がやれるのはルーレットとスロットだけだ!
ルーレットは赤か黒か、どちらにボールが止まるか予想するシンプルなゲーム。
スロットは日本のゲームセンターでもやった事があるし、単純明快。
やってやる!やってやるぞ!!
数時間後、僕は大富豪になっている!!
待っていろ!億万長者の自分!!
・・・。
・・・・。
・・・・・。
「…負けました」
ラスベガス最後の晩飯は薄い一切れのピザ。
乾燥してカピカピで味もボソボソする。
晩飯代とラスベガスのお土産代で確保していた100ドルは、残念ながらピザ一切れに変わってしまった。
もしカジノで勝っていたら今頃1ポンドステーキを食べていただろう。
深夜営業している飲食店の隅っこの席でひとり反省会をする。
やっぱり人生は甘くないよね。
簡単にお金を稼げるなら誰だって苦労しないよね。
地道が一番だよね。
はい、反省会終了!




