【第20話】アメリカ②~ワシントンDC~
~主な登場人物~
【小峰慎志】
主人公。埼玉の所沢市にあるアパートに住んでいる27歳の青年。
仕事も恋愛も上手くいかず、思い通りにいかない人生に嫌気がさしていた。
そんな時、”海外を旅して巡る”という幼い頃の夢を思い出す。
後悔ばかりの過去、不安な未来、閉塞感漂う今の生活。
そういった、あらゆるしがらみを一度忘れて、海外へ旅に出る決意する。
ニューヨークからアメリカの首都ワシントンDCへ。
アムトラック列車で行けたら良かったのだけれど、運賃が高いから長距離バス”メガバス”で向かう。
まるでファミコン時代のニッチなRPGの攻撃呪文のような名前だ。
バスの外装に$1と大々的に書かれているが、早期予約で近い目的地を選ぶと本当にそのくらいの金額で乗車券が買えるらしい。
ちなみにNYからDCまで$25くらいだった。
マンハッタンからメガバスに乗り、延々と続く道路をひたすら西へ走る。
そうしてバスに揺られること三時間半…。
DCの玄関口として威風堂々とした貫禄の装飾が施されたユニオン駅に到着。
駅でタコスを買って食べていたら、モーガンフリーマン似の男に物乞いされた。
まあいいか、そう思い1ドル札を渡してやると、礼を言われるどころかキレられた。
何を言われたのか内容は理解できなかったが、生まれて初めて”ファック”という言葉を浴びせられた( ゜Д゜)
余裕のある心の在り方を旅を通して現地の人々から学んできたので、怒らずに男に5ドル札を渡してみた。
モーガンフリーマン似の男はまたしてもキレて僕に怒鳴って何か言い、そして去っていった。
なんやねん!6ドル返せ~!
一部始終を見ていたタコス屋お姉さんの笑顔だけが救いだった…。
地下鉄は薄暗くて怖い。
少しだけニューヨークとは雰囲気が違う。
ワシントンの方がアメリカンアンティークっぽさを醸し出している。
東京都内の地下鉄と比べてしまえば路線もシンプルで迷わない。
朝も夜も、東京の出勤、退勤時の満員電車のような殺伐とした雰囲気はなかった(=゜ω゜)ノ
ワシントンDCの中心地で地上に上がると、街並みがワシントンチック(謎)!
全米50州のどこにも属さないたったひとつの特別地区、連邦政府の直轄として独立した街。
それがワシントンDCだ。
ここにFBI本拠地や国会議事堂、ホワイトハウスもある。
ホワイトハウス前では修学旅行中か、学生が集合写真を撮っていた。
僕も混ざってピースしたら受け入れられた。
それにしてもテレビでみたホワイトハウスがそこに。
中で大統領は働いているのかな?
ワシントンの観光といえばナショナルモールだ。
リンカーンやジェファンソン、ルーズベルトといった偉人たちの像がある記念碑。
アインシュタイン像もあって、像の目の前に立つだけで頭の良さを分けてもらったような気分に…ならない。
ベトナム戦争や朝鮮戦争、太平洋戦争などのモニュメントもあり、米国が関わった戦争の歴史がヒシヒシと伝わる。
モールの中央に空に向かって高々とそびえ立つワシントン記念塔は威風堂々としている。
建国の父ワシントンの気概が時代を越えてもなお、気高さを見せつけてくれるようだ。
力強い志を表すかのような塔の切っ先が青空を貫いている光景は、見ていて胸に訴えかける。
USA!USA!、と。
記念塔は残念ながら工事中でエレベーターで上にあがれず。
それでも付近にリスが何匹もいて、癒される。
付近の池の周りを取り囲むように植えられた桜の木も、また心を和ましてくれた。
ワシントンはミュージアムの倉庫であり、スミソニアンに代表される数多くの博物館や美術館がある。
スミソニアンとは、むかし存在したスミソンというお金持ちのイギリス人科学者のこと。
人類の知識、英知の向上に役立つなら財産をあげよう!という、彼の好意のもとスミソニアン協会が誕生した。
そういう経緯があり、現在スミソニアン協会が運営する数多くのミュージアムが、無料または安価で見学することが出来るのだ。
ありがたいことである。
数あるミュージアムの中から、まずはアメリカに来たんだからという理由でアメリカ歴史博物館に訪れてみた。
イギリスからの渡米、開拓時代、フロンティア根性から、ポップカルチャーまで。
大昔から現在までの軌跡が展示されており、圧巻されるわけだが、やはり英語がネックで何を言っているのかよく分からない('ω')
感覚的に最も楽しめたのが、航空宇宙博物館だ。
ロケットやら戦闘機やらが展示されていて目移りする。
宇宙船の中に入れたり、月の石が触れたり、好奇心を刺激するものが多かった。
ここは子供たちの夢を膨らませてくれるような空間が広がっている。
展示物を見て、
「俺は将来、宇宙飛行士になる!」
「私は航空機のパイロットになる!」
と、少年少女たちが大志を抱くことは想像に容易い。
戦闘機ブースでは太平洋戦争での日本についても触れられている。
フルボッコ状態の日本であった事は明々白々だが、ここではかなり日本を持ち上げてくれている。
ジャップは強かった。苦戦した…等。
ホロコースト博物館にも行った。
どこも受付入口は厳重だ。
ここでもさりげなく日本が取り上げられている。
大量のビザをユダヤ人に発給し、大勢の避難民を救った杉原千畝氏。
唐沢寿明さんが映画でやってたやつだ。('ω')
ドル印刷局も見学した。
後になって分かった事だが、見学は事前に予約して入場券のような物が必要だったらしい。
しかしそれが分からず、印刷局に着いてから中国のツアー団体にくっついて一緒に見学できた。
僕は彼ら中国人グループの一人として印刷局側から見なされて、館内に入ることが許されたわけだ。
中国語での説明が所々で行われ、途中で団体を引率する男が僕の存在に気付いた。
多分…「お前は誰だ?」的な事を言われたんだと思う。
でも、もう後の祭りである。
以降は何も突っ掛かってこなかった。
中国人の寛容さに感謝である。(;'∀')
無事に印刷局から生還し、記念にお土産コーナーで100000ドル札の消しゴムを2ドルで買った。
ワシントンでは郊外のモーテルで宿を取った。
道中の住宅街を眺めていると、家々は日本より広くてオシャレな印象を受ける。
幼い頃テレビで見ていたアメリカのコメディ番組フルハウスで映っていたような家がずらりだ。
モーテルにチェックイン後、試練が待っていた。
廊下側一面がガラス窓の部屋だったのだが、カーテンの代わりに取り付けられていたブラインドが壊れていて降りない。
廊下から僕の部屋が丸見えなのだ。
受付のお兄さんに言ってもHAHA!ジャパニーズジョークか?みたいな反応で何もしてくれない。
結局、自分でブラインドを直すはめに。
1時間くらい試行錯誤して何とかブラインドを降ろすことが出来た。
宿の周辺には緑道が広がり、他の建物と距離がある。
そういった環境なので夜は昼以上に静かだ。
外に出て辺りを散歩すると星空も見える。
部屋に戻りベッドの上で眠気がおとずれるまでの間、宿のwifiでアメリカのことを調べた。
ネットで紹介されていたアメリカの独立宣言。
「人は生まれながらにして平等やで!」
「生きる事、自由、幸福の追求は誰にでも許された権利やで!」
まさにその通りだと思う。
現代社会は複雑怪奇で分業も進み、目に見えないルールが幾重にも張り巡らされている。
非常に複雑な世界となってしまったが、この基本的な大前提だけは尊重して生きてゆきたいものだ。




