【第17話】カタール~ドーハ~(トランジット)
~主な登場人物~
【小峰慎志】
主人公。埼玉の所沢市にあるアパートに住んでいる27歳の青年。
仕事も恋愛も上手くいかず、思い通りにいかない人生に嫌気がさしていた。
そんな時、”海外を旅して巡る”という幼い頃の夢を思い出す。
後悔ばかりの過去、不安な未来、閉塞感漂う今の生活。
そういった、あらゆるしがらみを一度忘れて、海外へ旅に出る決意する。
そろそろアジアを脱してヨーロッパに行ってみたい。
しかしヨーロッパは物価が高いので貧乏長旅に不向きではないか。
そうは思っても、やはり欧州に行ってみたいという気持ちが勝った。
目的地は検討の末、フランスのパリに決定。
西へ向かう。西から地球を一周する旅路を考える。
まずはトランジットでカタールのドーハを目指す。
カタール航空のサービスに感激で涙が出そうになった。
座席や機内食、今までのLCCと比較すると官僚級の扱いを受けているようだ。
ちょっと照明がピンク色っぽくていやらしい印象を受けたけど。
機内では相変わらず暇を持て余す。
なので巨大ロボットの操縦ごっこを高度30000フィート上空で一人でやった。
戦隊ものの巨大ロボットを操作するような空想遊びである。
後ろに誰もいない事を確認してから、座席を後ろに下げたり上げたり…。
折り畳みテーブルをキーボードに例えてブラインドタッチしたり…。
前座席のモニター画面をカメラ映像として見立て、想像で敵を映し出したり…。
訳の分からん遊びをして無駄な体力を消費して我に返るも、やることが無いので繰り返す。
はたから見たらキチガイ以外の何者でもなかっただろう。
オフラインでも遊べるスマホゲームも暇つぶしにはちょうどいい。
東方異想穴や、30秒ブロック崩し、英語カードバトルで時間を潰す。
そしてハマド国際空港に到着。
あの有名な、黄色い巨大クマさん人形がお出迎え!
みんな人形の前で記念撮影を撮る。
僕も写真を撮ったけど、クマさん人形、よく見るとあまり可愛くない。
通貨はリヤルだけど、事前情報でユーロが使えるのを知っていた。
リヤル換金は控える。
リヤルはこの時期、他の国のお金に換える場合レートが非常に悪かった。
日本に帰った時にも換金できない。
テレビで見た事のある石油王的な気配を纏う服装をしている人たちもチラホラ。
ぜひ大富豪のみなさんと仲良くしたいものだ。
ここで乗り継ぎしてパリ行きの航空機に搭乗するのだが、出発までかなり時間がある。
トランジット、目的国以外も訪れることが出来て最高じゃないか。
そう呑気なことを思いながら、プチ観光がてら空港の外に出て…
迷子になった。
空港で働いていそうな雰囲気の人がいたので道を尋ねてみる。
やはり言語の問題で意思疎通出来ずにいると、なんとドラえもんの秘密道具的な感じでポケトークらしきものを出してくれた。
さすが石油の国!大金持ちの国!時代の最先端の国!
そう安堵して翻訳に期待したが、日本語がなぜか”ピカチュウ”に翻訳される不具合。
相手はもっと短く喋れとか、言い方を変えろとか、そんなことを言ってたと思う。
しかし結果はどれも”ピカチュウ”。
「Oh, Pikachu…」
絶望、時間だけが過ぎて焦る。
段々と頭の中が真っ白になっていく。
それでも何とか同じ空港へ向かう旅行者を見つけ、空港まで戻ってこれたのは奇跡のように思った。




