会社が人を繋げる
聞いたことがあるだろうか。
正社員として8時間週5日働くことが理想とされているこの国では、人によっては家庭にいる時間より会社にいる時間のほうが長いと。
それはつまり、家庭より会社でのコミュニケーションが主となることを指す。
そんな会社に、育った環境が違う二人がいた。
彼らは知っていた。会社の外では、いわゆるプライベートでは、自分たちは会うことができないのだと。
激しい波の中で労働している、息の付く間もない時間だけが、自分たちを一緒にいさせてくれている時間だと。
退社したら帰る方向は逆。ひとりは何の問題もないぽっかりとした時間を過ごす豪邸へ、ひとりは窮屈に身を寄せ合って生きる施設へ。
何の因果で出会うはずのない彼らがそこで一緒にいるのか。本来分かり合えない人間同士が、家で過ごす空虚な時間だけを分かり合った。
現実を忘れて空想に浸るとき、彼らはその世界の中で一緒にいた。
実際には、金持ちの道楽と策略で貧民層に手を掛けたのだろう。そうしてしかし、それを知らずにいた二人は、互いの思想に惹かれ合い、一部を共有した。
大部分を構成するのは、自分に都合のよい妄想。オープンにしたら大きくずれている世界。それでも、一部でも、分かり合った気がした。それはそれまでから大きく前進した日だった。その先に影響を与える一日だった。