高校生の恋愛事情──中野大樹くんの場合
猫じゃらし様主催「獣人春の恋祭り」企画参加作品です。
「まどかは肉食系~あたしの尻尾預けちゃう♫〜」の後日談になります。
この春高校に入学した中野大樹は彼女持ち。
入学早々幸せいっぱいそうな大樹は、周りから羨まれているが、実は彼女である坂上円は、人狼ハーフだった。
普通とはちょっと違うカレカノライフを送る大樹の恋模様は…。
「なあ、中野って、坂上さんと付き合ってんだろ?
デートとか、どんなとこ行くんだ?」
高校に入ってからの付き合いの満田から突然話を振られた大樹は、少し狼狽えた。
幼馴染の坂上円と付き合いだしてから、3か月ちょっとになる。
当然というか、初めてのカノジョなので、一般的なカップルのデートとか、全然わからない。
なにしろ、円は普通とは言い難い女の子だから。
なので、「フツーだよ、フツー」というよくある切り返しができないのだ。
「いや、あの…デートっつうか、2人で出掛けたりとかあんましないから…」
大樹としては事実を告げているのだが、満田には通じない。15歳の男子なんて、基本的にサルだからして。
「またまた~(^^)
じゃあ、家ん中で何かヤってんのか?」
若干ニュアンスに引っかかるものを感じる大樹だが、もちろん気づかないフリをした。
わざわざからかわれる趣味などない。
「まあ、色々だよ」
答えになっていない答えでごまかそうとしたが、満田は引かなかった。
「いつから付き合ってんだっけ? 幼馴染なんだよな?」
「ん、ああ。
幼稚園から一緒だ。
付き合い始めたのは、まあ、クリスマスからかな」
イマイチ微妙なところはあるが、まあその辺でいいだろうと思う。
少なくとも、あの夜に2人の関係性が変わったのは間違いない。
「お~、クリスマスかあ!
やっぱ、2人でどっか行ったのか?」
「いや、まどかン家でパーティーやった」
「は? パーティー?」
満田が凍り付いた。「まどかン家」で止まったのだろう。気持ちはわかる。なんで彼女の家でパーティーやって付き合う話になるのか、わからないのだろう。
「元々家族ぐるみの付き合いだからな。
俺も、正直あの流れはないと思う」
「いいよな~、坂上ってボンキュッボンで。
あれ好きにできるなんてよ~」
どうやら満田は、付き合う経緯は聞かないことにしたらしい。一足飛びに付き合った後の話になった。
「中3の夏まではあんなじゃなかったけどな」
「あ?」
「中3の秋くらいから、急に成長期が来たらしくて、背とかでっかくなった」
ボンキュッボンについては、「とか」に集約されたらしい。ほかの男に見られたくないという独占欲である。
「え~、半年であんなんなるのか? うまいことやったな~。
で? 付き合ってから3か月、どんな感じだったんだ?」
「受験勉強してたよ、一緒に」
「勉強? せっかく付き合ったのに?」
「一緒の高校行こうってさ」
正確には「一緒に高校行こうね」である。一緒に登校するために同じ高校を受けたのだった。
「ふ~ん、勉強ってどこでやんだ?」
「まどかン家」
「入り浸りか!? てか、坂上さんとこって、親いねえの!?」
「いるけど?」
「親いる家に行くのかよ!?」
勉強するのに親は関係ない。だが、イチャイチャする気なら別だ。親がいては色々と困る…はず。
「や、だから、幼稚園の頃から家族ぐるみの付き合いだから」
中野家は共働きのため、大樹は幼稚園の頃から時折坂上家で夕飯と風呂までお世話になっていた。
その流れもあって、受験時期も勉強の後夕飯までごちそうになっている。
むしろ、円の両親は大樹と円の関係を後押しさえしているレベルだ。
婚約してるしなあ、とも思う。口約束ではあるが、円の両親が妙に乗り気なのは間違いない。
「おじさんは、割と苦手なんだよな」
「あ、やっぱ父ちゃんは苦手なんだ?
娘はやらんぞ、みたいな?」
しまった、声に出していたらしい。
「んなこと言わねえけど、なんつうか、俺のことはどうでもいいみたいな感じで」
「なんだ、そりゃ? 反対してるとかじゃねえの?」
「反対ってこたないと思うけど、なんか俺のことはどうでもいいみたいな」
「さっぱりわかんねんだけど」
「ん~、俺もよくわかんねえ。
まどかがいいならいいやって感じで」
「なんだそりゃ、どういう家だよ」
「おじさんとは、小さい頃もあんま絡んでなかったからな~。よくわかんねえ。
おばさんには、色々世話焼いてもらってんだけどなあ」
小さい頃、お風呂に入れてくれてたのも円の母だった。
「風呂で背中流したりとか?」
「幼稚園の頃はな。
今は……ん~、夕飯とか、俺の好きなもん、結構並ぶんだ」
「ふーん?」
「あ~、ヒロ、こんなとこにいた~。
待ってても来ないから迎えに来ちゃったよ。
さ、帰ろ♪
今日はハンバーグだってさ♡」
「そりゃまどかが嬉しいだけだろ」
「楽しみにしてたんだ~~~~♪」
大樹が今自分と話しているのに気付いてるだろうにテンション高く恋人ムーブをかましてくる円に、満田は呆れ半分、羨ましさ半分といったところだ。
大柄でボンキュッボンな美少女が腕を組み、頬ずりするレベルで寄り添っているのだから、高1男子には刺激が強い。
いいなあカノジョ持ち、と思いながら、満田は手を振って2人を見送った。
この2人、もうエッチしたのかなあ、親公認で付き合ってるとかすげえなあ、とか思っている。
高校1年で、入学当初からカノジョ持ちというのは、相当なステータスだ。
その上、そのカノジョが学年でもトップクラスの美少女で、スタイルも抜群となれば、羨むなというのは無理だろう。
人目を全く気にせず好き好きオーラを振りまいている円の姿に、満田は、どうして自分にはああいう幼馴染がいないのかと、理不尽な怒りを感じた。
しかし、大樹なんて、そんなにイケメンってわけでも気遣い上手ってわけでもないのに、どうしてあんな風にモテるんだろう?
なんかもう、大型犬がじゃれついてるレベルにべったりなんだが。なんか尻尾をブンブン振ってる幻が見える。
夕飯を終え、入浴中の満田は、思う。
あの2人、今頃部屋でイチャイチャしてやがんだろーなー。くそ、うらやましい。
お泊まりなんかして、ヤッちゃってたりなんかして。
さすがに親がいる家で、それはねーか。
いやでも、婚約とかしてるしなあ。
そしてその頃、坂上家──円の部屋では、満田の妄想どおり、2人がイチャ
ついていた。
「ね、ヒロ、今日が何の日か知ってる?」
満面の笑みで問いかける円だが、大樹が知らないわけもない。
もう4回目だからして。
「満月…だよな」
「そう! 満月だよ! 待ちに待った2人の夜だよ!」
満月の夜、それは円に狼耳と尻尾が出る夜だ。
人狼と人間のハーフである円は、満月の夜だけ狼化する。
といっても、完全には変化できないようで、耳と尻尾が生えるに留まるのだが。
狼化すると、身体能力が段違いに上がるが、基本、円がそれを発揮することはない。
円にとっても大樹にとっても、満月の夜は尻尾モフモフタイムという意味合いを持っている。
人狼としても能力に目覚めてからの円は、番と認識した大樹に対し、犬が飼い主に見せるような甘え方をするようになった。
普段からそれは変わらないのだが、狼化すると更に顕著になる。
円は、特に尻尾を撫でられることに悦びを感じるため、まずは満足いくまで尻尾を撫で、その後、いわゆる恋人同士の愛の語らい(笑)に移行するのが常だった。
円の両親は、円が幼い頃から大樹を番として選ぶだろうことは予測しており、むしろ2人の背中を押すかたちになっている。
人狼は、一度決めた番を変えない習性を持つため、円の両親は大樹の両親をうまいこと言いくるめ、名目だけではあるが婚約させた。
円の父は人狼であり、円が選んだ相手に注文を付ける気はなかった。
母親同士はママ友でもあるし、子供達が幼い頃から仲が良かったことを知っていたので、話が早いところはあった。
まぁ、母親同士だと子供をはやし立てる部分もあるし、女の子である円の側の両親が乗り気なのだから、障害はない。
大樹が円の家で夕飯を食べる習慣は、小5の時に一度途切れたが、中3で大樹と円が付き合い始めたことで復活していた。
高校合格が決まった後の満月の夜、大樹は初めて円の部屋に泊まることになり、今夜が二度目のお泊まりである。
大樹の両親は、常識的に、15歳の息子が婚約して円の家に泊まることには気後れを感じるが、男側である中野家としては、坂上家がいいのなら何も言わないというスタンスだ。
円のことは小さな頃から知っているし、幼稚園時代に、大樹の嫁に、と冗談めかして話していたこともある。
円もそれなりに中野家に顔を出しているので、両家の関係は良好なものとなっている。
さて、円は、小6の頃から大樹とやや疎遠になった時期はあったが、それは素直になれない思春期特有のものであって、常に大樹を意識はしていた。
人狼としての覚醒を機に、大樹への恋心を自覚した後は、積極的に恋慕の情を示している。
ことに満月の夜の甘え方は、大型犬のそれを彷彿とさせる。満田が見た幻の尻尾は、あながち外れてはいない。
一応弁護しておくと、普段の円はしっかり者の部類に入る。
大樹との応対にしても、ややスキンシップが多めではあるが、常識の範囲に十分収まるレベルだ。
2人きりでじゃれ合う時のみ甘えまくる、という、ある意味男の理想とも言える姿だ。
そして、今日も。
「ヒ~ロ♡ やっとこの日が来たよ。ず~っと待ってたんだあ」
そう言って大樹の顔を舐めまくる。
円の愛情表現は、顔を舐める、頬を甘噛みするなど犬チックなものになっている。思えば、2人のファーストキスは、舐めているうちに唇に達し、口の中を舐めた円に大樹が舌を絡めたというものだった。
「ずっとったって、1か月だろ?」
「1か月もだよ!
なに、ヒロはあたしの尻尾撫でたくないの!?」
「そういうわけじゃねえけど…」
尻尾を撫でるよりももっと直接的なイチャコラの方が嬉しいとは言えない大樹だった。
健康な15歳の青少年であるところの大樹にとっては、一晩中イチャイチャできる満月の夜は、もちろん楽しみだ。ただ、円にとっては、大樹に抱かれることよりも尻尾をなでてもらうことの方が優先順が高く、その上いつでもできることではないため、特に楽しみなのだった。
円の両親もそのことはよくわかっており、満月の夜は、坂上家で夕飯を食べ、円の部屋で2人が過ごすのが通例となった。
翌日が学校の場合、大樹は坂上家から登校することになる。
既に、大樹の歯ブラシも常備されている。
「ヒロ、いっぱい撫でてね♡」
2人の熱い夜が今夜も始まった。