謝っておかなきゃね
16時からは、他の生徒達とは別教室でナディアさんから『聖女』としての授業を受ける事になっている。
別教室は教室と違って少し狭いが、3人で使うには広すぎる部屋である。教壇に立ったナディアさんは、何時もよりキリリとしている気がする。
「まずは聖女の概要について説明します。ラムウェンさんには前にも説明しましたが、お復習いとして聞いて居て下さい。」
「はい。」
ナディアさんは、ラムウェンの返事が何時もより少しだけ明るくなっている事に気付くと、一瞬驚いた様な顔をした。
そして、いつものキリッとした顔に戻ったナディアさんは授業を開始した。
「現在、神殿には各国から集められた8人の聖女様が親元を離れ、女神様にお仕えして居られます。基本的には14歳から19歳の5年間だけを聖女として過ごしますが、年齢制限を設けて居るのは、それだけ聖女様方が忙しい日々を過ごしている事と、若くから制限のある生活を送られている彼女達を自由にする為でもあります。」
「聖女様方は10日に一度、早朝より身を清め、神殿の奥にある聖蒼壁を通り抜けて本殿へ向かわれます。本殿に御降臨された女神様から直接『聖なる光』をその身で受け、呪いを受けた人や病気の人達を癒すのが聖女様方の主な仕事となります。」
聖女様の役割については良く知らなかったが、女神リィンエル様に直接会うなんて、凄く重要で責任ある仕事だとフィリスは改めて思った。
「時には騎士団に同行して瘴気に包まれた土地の浄化を行ったり、負傷した人に回復魔法を施す事もあります。」
おおっ!! 聖女様って冒険っぽい事もするんじゃない。だったらそれまでに、攻撃魔法か攻撃用の魔導具を開発しとかなきゃね!! ・・・とフィリスは心の中で歓喜していた。
「20歳になり聖女の任を解かれた後は、貴族家に望まれて降嫁したり、生涯を神殿職員として過ごし女神リィンエル様に仕え続ける者も居ります。」
役割を終えた後は、皆進路を自由に選べるのね・・・。まあ、女の子らしいラムウェンなら大勢の男性から求婚されるんだろうけど、私はきっと冒険者として一生を過ごしているわね。それとも、いつか結婚をする日が来ちゃったりするのかしら?
・・・自分が男性に求婚される可能性など、微塵も考えては居ないフィリスであった。
この後、フィリス達は聖女としての振る舞いが完璧に出来る様、マナー等を徹底的に叩き込まれるのであった。
* * *
「ふああっ・・・やっと夕餉の時間ね。今日は大変な一日だったわ。」
「本当にご苦労様です。」
フィリスとラムウェンは夕食を摂る為、再び食堂へと向かいながら話して居た。するとフィリスが、
「ああ・・・そうだわ。またあの3人組と会っちゃうわね。でも今度こそラムウェンを守るから心配しないでね!」
フィリスが力強くそう言うと、ラムウェンは
「あの・・・私、アーグナー様からは何もされて居ません。」
「えっ? ・・・だってあの時、あの人も居たわよ?」
「あの時、アーグナー様はお席を探されて居らっしゃっただけです。」
「そうなの? じゃあラムウェンを虐めてたのは、前に居たあの二人だけって事?!」
「はい。普段から男爵家のお二人はアーグナー様のお側に居られますが、アーグナー様の方は余り相手にされて居られないと言いますか・・・。」
「ええっ? じゃあ私は、席を探して居ただけのアーグナー様に赤い汁を掛けて、謝るどころか喧嘩を売ったって事?!」
「そう・・・なりますね。済みません、私の為に大変な事になってしまいました。」
ラムウェンは申し訳無さそうに深々と頭を下げた。
「いや、ラムウェンに落ち度なんて全く無いわ。取り巻きの二人は置いといて、アーグナー様にはきちんと謝っておかなきゃね!! でも貴女は絶対に謝っちゃ駄目よ、何も悪い事をして居ないんだから!!」
そう言うと、フィリスは食堂へと急いだ。
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