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伯爵令嬢との対決

 神殿の隣には巡礼に訪れた人々の為の食堂があり、その別室が生徒専用の食堂となって居る。生徒達は寮から階段を降りて直接食堂に行く事が出来る。


 フィリス達が入って行くと、丁度食事時という事もあって多くの席が生徒達で埋まっている。


「結構立派な食堂ねぇ・・・。生徒も大勢来ているみたいだし。」


 そう言いながらフィリスが空いている席に着こうとすると、ラムウェンが


「あ、あのですね・・・ここでは先に受付で注文をして、お料理を自分で運ぶ事になって居ます!」


 と、慌てて説明した。するとフィリスは、


「ああ・・・そう言う決まりなのね。このまま座ってたら永遠に料理が食べられなかった所だわ、有難う。」


 と言いながら立ち上がって受付のカウンターに向かって歩き出した。


「い・・・いえ! お料理だけ決めて頂ければ、後は私が席までお運びしますのでっ!!」


 ラムウェンがそう言うと、フィリスはキョトンとして、


「みんな自分で運んでるんだよね? だったら私も自分で運ぶよ~。・・・あ、もしかして私がお料理を落としちゃうかもって心配になった? さすがにそんな事にはならないよ・・・アハハハッ。」


 とラムウェンの申し出をやんわりと断った。


 受付へ行くと、昼食は6種類のメニューから選べる様になっており、学生は無料で食べられるみたいだ。


「へえ・・・魚料理のメニューもあるのね。神殿の前の湖で捕れた魚なのかな?・・・私は魚セットの2番にするわ。ラムウェンは何にするの?」


 フィリスがご機嫌で尋ねると、ラムウェンはキョロキョロと周りを気にしながら、


「私は・・・サラダだけで大丈夫です。」


「はあ? そんなんじゃ全然足りないでしょう・・・大丈夫なの?」


「はい・・・あの、最近あまり食欲が無くて・・・。」


 ラムウェンの体は細すぎる程なのでダイエットという事では無いだろうし、無料で食べられるのだから金銭面の問題でも無いはずだ。しかし、食べたくないと言う人に無理に食べさせる訳にもいかない。


「あ・・・ほら、ラムウェンのサラダがもう出てきたわよ。さすがに出て来るのも早いわね・・・じゃあ、先に行って席を取っておいてくれる?!」


「はい・・・分かりました。」


 ラムウェンは小さなサラダの乗ったトレイを両手で持つと、相変わらずオドオドしながら席を探した。


 少し待つと、食堂で働く小太りの中年女性が、


「はいよっ!! 魚セットの2番だね!!!」


 と大きな声で料理が乗ったトレイをフィリスの目の前に置いた。


 フィリスの前に現れた料理は、赤い色の魚スープと赤いソースの掛かった揚げ魚に大きなパンまで添えてある大ボリュームの物だった。


「おおっ・・・美味しそうな料理ですね・・・妙に赤いけど。」


 フィリスが料理を見つめながら言うと、中年女性は


「ああ、そこの湖で捕れた『ウーギル』って魚を揚げた物だよ!臭みもなくて凄く美味しい魚さ!! 赤いけど辛くは無いから安心しておくれ。」


 と笑顔で教えてくれた。


「よ・・・よし、落とさないように運ばなきゃ・・・。」


 フィリスはトレイを両手でしっかり持つと、ラムウェンを探して歩いた。


「ラムウェンは・・・あっ、あそこに居るわ・・・。」


 フィリスはラムウェンを見つけて歩いていると、前方から


「平民は虫でも食べてなさいって言ったでしょうが?!」


 甲高い女の声と、食器が床に転がる音が響いた。


 足元に気を配りながらゆっくりと歩いていたフィリスは、叫び声のした方を見ながら


「何? ラムウェンがあの女の子達に怒られてるの?」


 と、少し早足で歩き始めた。


 すると、床に座り込んだラムウェンの頭にサラダの野菜とドレッシングが掛けられているのが見えた。彼女の前には、ラムウェンを見下すように3人の女生徒が立っている。


 どうやら、その内の2人がラムウェンに酷い言葉を浴びせ掛けている様だ。


「キャハハハッ!! これ傑作じゃない?」


 少女達はラムウェンの頭を見て大声で笑っている。


「ちょっ・・・どういう事? あの子達・・・ラムウェンに何やってんの?!」


 フィリスが周りの野次馬を掻き分けて近づいて行くと、足元にサラダの器が転がっており・・・フィリスはそれを見事に踏んづけた。


「ガコッ!! ズザザザーーーッ!!」


「わわわああああっ?!!」


 運動神経の良いフィリスだが、重いトレイを持ったまま足を取られると・・・最早立て直す事など出来なかった。


「バッシャアアアアアーーーーッ!!!」


 ラムウェンの前に立っている少女達の胸元から顔面目掛けて『赤い色の魚スープ』と『赤いソースの掛かった揚げ魚』が勢いよく浴びせ掛けられた。


「きゃあああああっ?!! 一体何事ですの~~~?!!!」


「何これ・・・血?! ヒィィィィ!!」


 赤い液体を浴びた女生徒達は、何が起こったのか分からない様子で叫んでいる。


 周りの野次馬達も最初は騒いで居たが・・・貴族の少女達が掛けられたのが料理のソースだと気付くと一瞬にして表情が凍り付き、皆押し黙った。


 床に転んでいたフィリスは素早く起き上がると少し申し訳無さそうに、


「あちゃ~~・・・ゴメンね。」


 と軽く謝ると慌ててラムウェンの元に駆け付けると、


「ラムウェン! 大丈夫?!!」


 と言いながらラムウェンの頭の上に乗ったサラダを取り除き、自らのハンカチで頭を拭き始めた。


 すると3人の内、後方に居た少女が怒りの形相で


「あなた・・・!! 私に詫びるのが先じゃありませんの?!!」


 とフィリスを怒鳴った。


 恐らくこの少女が、周りに居る少女達のボスであろうという事が雰囲気で伝わって来る・・・。


 するとフィリスは目の前の少女の顔に見覚えがある事に気付き、懸命に思い出そうとする。


「う~~~ん・・・誰だっけ・・・・・・。」


 フィリスは昔の記憶を必死で思い出そうとする。すると


「ああ!! 昔、公爵様のお茶会でお会いしましたよね? 確かアギナ?・・・様だったかしら?」


 とドヤ顔で言い放つ! しかし目の前の少女は表情を崩して


「はあ?! 私は『アーグナー』ですわ!! ・・・ん? 貴女こそ誰かと思えば、遠い遠~~い僻地にお住まいの・・・確かクライメル伯爵家のご令嬢様ではございませんこと?! 最近は全然姿を見なくなったと思っていたら、こんな所に居たんですのね?!!」


「ええ・・・遠い僻地からやって来たクライメル伯爵家の三女『フィリス・クライメル』です!! ソースを掛けてしまって御免なさいね・・・アギナ様!!!」


「うううぅ~~~っ、またしても!! はっ、そう言えば・・・よくも、この私の美しい顔にソースを掛けて下さったわね!! け・・・決闘ですわ!!!」


 アーグナー嬢は慌てて手袋を投げ付けようとするが、制服なので手袋をして居なかった。


 するとフィリスは立ち上がって腕を組み、美しい顔で3人を睨みつけると、


「へえ~・・・? ラムウェンにこんな酷い事をしておいて、私と勝負ですか? それは勉強で? それとも駆けっこで? まさか貴族らしく魔法の撃ち合いによる決闘でもしますか? まあ、何の勝負でも受けて立ちますけどね?! アーグナー・ヘイディール様!!」


「ううう・・・覚えてなさいよ! フィリス・クライメル!!!」


 白い制服をを赤く染めた3人の女生徒達は、怒りの形相のまま早足で食堂を出て行った。


 振り返ったフィリスはラムウェンを立たせると、


「ごめんね、私が席取りに行かせたばっかりに・・・。一旦部屋に戻って髪を綺麗にしましょう?」


 と優しく慰めた。するとラムウェンは


「ご・・・ごめんさないっ。私を庇ったせいで・・・フィリス様まで目を付けられてしまいました! うううっ。」


 大粒の涙を流しながら謝った。


 するとフィリスは笑いながら


「私があんな連中に負ける訳無いじゃない・・・だから貴女が気にする必要なんてないわ!!」


 と、フィリスらしい強気な言葉を放った。

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