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もう一人の聖女見習い

 翌週、フィリスは大泣きするマートナーと別れ、両親と執事のエルムスさんに連れられて再び神殿にやって来た。両親達が神殿長に挨拶を終えると、すぐに学生寮の方へと案内される。


「フィリス・・・頑張るんだぞ!!」


「体に気を付けてね!!」


 フィリスは両親の熱い見送りを受けながら、神殿へと歩いて行く。


 生活に必要な物は全て神殿側が用意してくれるので、フィリスは小さな革のバッグに数日分の下着等、最低限の物だけを入れて来た。


 神殿内には『学舎』が設けられており、将来『神殿職員』となる選ばれし子供達が学業に励んで居る。彼らは大人になると、この神殿や、各地にある教会で働く為に教育を受けているそうだ。フィリスも聖女見習いとしての教育とは別に、彼らと共に授業を受ける事になるらしい。


 フィリスを案内してくれている女性は教育係のナディアさんと言う人で、年齢は30代半ば位に見える。表情や声が凜としており、常に背筋をピンと伸ばしていて非常に厳しそうな雰囲気を漂わせている。


 ナディアさんは二階への階段をキビキビと登りながら、寮や神殿内にある施設の説明などをする。


「一階の左奥に見える扉が聖女様方の居住区画となっており、『聖紋石』に登録された者以外は通行出来ない様になって居ます。貴女は色々とお手伝いをしながら覚える事もありますので、頻繁に行く事になるでしょう。」


 フィリスは説明を聞きながら、ナディアさんの後ろに付いて歩く。


 そこから暫く進むと、『ここより先は男子専用』と書かれた台座が見えて来た。廊下の中央に設置された台座には、青くて大きな丸い石が埋め込まれて居る。すると右側にも通路があり、そこの台座には『ここより先は女子専用』と書かれて居る。


「この先は男子学生寮となりますので『聖紋石』に登録された男性しか進めません。試しに台座の横の空間に触れてごらんなさい?」


 ナディアさんにそう言われ、フィリスが男子学生寮の台座の横に手を伸ばすと、


「ブワーッ!! ビイイーーンッ!!!」


 突然、何も無かったはずの空間に青い壁が現れた。


 一応、怪我の防止用に柔らかな壁も発生する様になっているみたいだ。


「壁が・・・出ましたね。」


 フィリスが驚くと、ナディアさんは


「例え賊が侵入したとしても、ここから先は『聖紋石』により厳重に保護されますから安心して暮らせますよ。・・・では今から『聖紋石』への登録を行いましょう。」


 と言うと、右側の通路の先にある女子寮側の『聖紋石』の上に手をかざした。


「ディルグート・ヴァリウス”ヴェ・モス”フェイン!!!」


 ナディアさんが短い呪文を唱え終えると、広げた手の少し下に魔方陣が浮かび上がる。


 するとナディアさんは、フィリスに向かって


「この魔方陣にゆっくりと手を乗せなさい。」


 と言うと、フィリスは


「はい。」


 と返事をして、躊躇する事なく右手を魔方陣に重ねた。


「ヴゥゥンッ!!!」


 すると魔方陣はフィリスの手の中に吸い込まれる様に消えていった。


「これで次回からは『聖紋石』に手を翳すだけで通行出来る様になりました。」


 ナディアさんがそう言うと、二人は壁に遮られる事無くゲートを通り抜けた。


 ゲートを抜けると、一番手前にある部屋の前で立ち止まった。


「ここが『聖女見習い』の部屋になります。ここより奥は女子生徒達の部屋で、食堂への通路もあります。それと、1ヶ月前に貴女と同じく『聖女見習い』として入った子が居ますので、彼女に色々と教えて貰うと良いでしょう。」


「ええっ?! やったー・・・同じ『聖女見習い』の子が居るんだ。きっと同い年だから話が合うと思うわ。」


 城の近くに年の近い遊び友達が居なかったフィリスは、同年齢の女友達に憧れていたのだ。


 ナディアさんは微かに笑った気がしたが、すぐに元の表情に戻った。


「コンコンコン!!!」


「ラスウェンさん、入りますよ?!」


 ナディアさんが部屋の扉をノックすると、部屋の奥から


「はい。」


 と小さな返事が返って来たので、ナディアさんは扉を開け、


「さあ、お入りなさい。」


 と言ってフィリスを部屋に入れると、静かに扉を閉めた。


「ラムウェンさん。今日からこの部屋で『聖女見習い』として一緒に暮らす事となった『フィリス・クライメル』さんです。色々と教えてお上げなさい。」


 ナディアさんの威圧感ある言葉に緊張して居るのか、少女は再び小さい声で


「はい・・・。」


 と答えると、伏し目がちにフィリスの方を見た。


 フィリスは物怖じしない子なので、初対面の人間相手でも平気で、


「私はフィリス・クライメルよ! 仲良くしてね!!」


 と、満面の笑みでグイグイと話し掛けた。するとラムウェンはオドオドした表情で、


「あの、フィリス様・・・は、貴族の方でいらっしゃいますよね? 平民の私と同室で・・・大変申し訳ありません。・・・私に出来る事がありましたら、何なりとお申し付け下さい。」


 と頭を深々と下げた。


「はあ・・・?」


 フィリスが困惑した表情で固まると、ナディアさんが気を利かせて


「ラムウェンさん。丁度お昼時ですから、フィリスさんを食堂に案内してはどうですか?」


 と言うと、ラムウェンは少し表情を曇らせながら


「・・・はい、では参りましょう。」


 と小さな声で返事をした。


 ナディアさんが部屋から去ると、早速二人は食堂に向かって歩き始める。


「ねえ、ラムウェン。ここの食堂のご飯って美味しいの? 神殿の食事・・・楽しみだわ!!」


 フィリスがいきなり距離を詰めて食事の話題で話り掛けると、ラムウェンは俯きがちな顔を少しだけ上げて


「あっ、あの・・・食堂のシェフは、私と同じ町出身の方で、とても・・・美味しい料理を作られる方ですっ。」


 ラムウェンはそれだけ言い終わると、慌てて下を向いて再び歩き始めた。するとフィリスは


「そっかぁ~・・・。それは楽しみだねっ!!」


 とラムウェンに満面の笑顔を向けて笑った。

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