二人の秀才
ふいにアーネストが目を伏せる。
「最初のうちは打ちのめされたものさ」
その声の重たさを受けた心配から、カレンの表情が曇った。察しの良いアーネストはすぐに手を横に振ってみせる。
「勘違いはしないでくれよ。君の才能に打ちのめされたのなんか本当に最初の頃だけさ。僕なんかとは次元が違うし、何より関わっていくうち、素直に君の善性が尊敬できたからね」
「そうなんですね」
カレンにはアーネストのその言葉が嘘だとは思えなかった。思いたくないと感じさせる真摯な声をアーネストはしていた。
「ああ。君を支える一助になれていることは僕の誇りだよ」
「そんな……ありがとうございます」
カレンとアーネストの微笑みが交差する。
「とりあえず君の部屋に戻ろう。廊下で長話をしてしまってすまなかったね」
「いえ、気にしないでください」
歩き出したアーネストの隣を、カレンも遅れないようにとついていった。
カレンの自室にカレン達は戻ってきていた。
テーブルについたアーネストはしょんぼりと小さくなっている。
「すまない。記憶がないと分かってはいるんだが、君とここにいるとつい魔法について話してしまう」
「こ、こちらこそごめんなさい。私本当に……」
アーネストの萎れぶりは、聞いているカレンの方が罪悪感を覚えるほどだった。
「君が謝ることは何もないよ。これは僕の悪い癖でもあってね。すぐに一人でしゃべりすぎてしまう」
しゃべりすぎてしまう、ということを否定することは出来ず、カレンはごまかすように笑みを浮かべる。
「内容は全然分かんないけど……楽しそうに話されるのを聞いているのはこちらも楽しいですから!」
「カレン……やっぱり君は優しいな」
「えっと、それほどでも……」
俯いたアーネストの顔が見えず、カレンはそっとアーネストを覗き込んだ。
「……今の君は覚えていないと思うが」
「え?」
下を見たままアーネストが話し始める。カレンはアーネストの言葉の続きを待った。
「最初の頃、僕は結構君にキツく当たっていたんだ。君の才能に嫉妬していたから。そんな僕の誕生日を、君は満面の笑みで祝ってくれた。たった一度雑談でこぼされた僕の誕生日を覚えていてね。僕はその時、全ての毒気を抜かれてしまったんだよ」
「そうだったんですね……」
どんな顔をしていいか分からず、カレンは目を泳がせる。顔を上げたアーネストは、困ったような顔でカレンに微笑んだ。
「そして救われた。人に悪感情を抱き続けるのは苦しいものだから。今の君には記憶がないが、話しているとやはり君は僕を救ったカレンなんだと感じるよ」
今のカレンの正体をアーネストは知らない。後ろめたさからか、やはりカレンはどんな顔をしたものか分からず、曖昧な微笑みを返すことしか出来なかった。
「君と行きたい場所がある。まだ元気は残っていそうかな?」
「はい! 行けます!」
真面目なアーネストに報いたい思いから、カレンの返事はとても元気のよいものになる。
「よろしい」
カレンとアーネストは笑いあった。ハワードは相変わらずの無表情だったが、カレン達のやり取りを見ていたエドワードの表情も人知れず柔らかくなっていた。




