許されざる恋
「はいっ!」
「はい。カレン君」
勢いよく挙手したカレンに、エドワードが冷静に言葉を返す。
「私、カレンさんの日記の『この恋は許されざること』ってとこから考えてたんですけど、意外とそれぞれ『許されざる』って感じで絞れないんですよ」
エドワードは目を伏せ、ゆっくり数回頷いた。カレンが続ける。
「ルークさんは血縁関係がないとはいえお兄さんだし、オリヴィアさんは同性だし。グレイさんなんか種族が違う!」
指折り数えるうち、カレンの声は大きくなっていった。
「ああ」
「そんな中でアーネストさんは……『許されざる』ことないんじゃないですか?」
小首を傾げてカレンがたずねる。エドワードはそっと目を開けた。
「ところがどっこい」
「ええー」
その一言で自分の考えが外れていることが理解できてしまい、カレンは落胆の声を上げた。
「二人は身分が違うんだ」
「身分……」
カレンは噛みしめるように繰り返す。
「ルークさんの友人であることでこの家と関わりを持っているが、本来ならカレンとアーネストさんは出会うはずもない二人だったんだ」
「はえー」
気の抜けた声がカレンの口から漏れ出た。エドワードは淡々と続ける。
「ルークさんが推した家庭教師なればこそ身分差は許されているが、恋人となると話は変わってくる」
「むむむー」
難しい顔で考え込むカレンを横目に、エドワードは薄く笑った。
「まあ、君にしては良い着眼点だったよ」
「……なんか馬鹿にしてません?」
「いや?」
否定の言葉こそ口にしていたが、エドワードの周りの空気はカレンを茶化している。カレンは再び勢いよく挙手をした。
「はいっ!」
「はい元気のいいカレン君」
慣れてきているのかエドワードは少しも動じない。
「エドワードはどうなんですか?」
「俺?」
エドワードは少しだけ目を見開いた。
「一応容疑者の一人じゃないですか」
悪気無げにずけずけと言葉をぶつけると、カレンはエドワードの答えを待った。エドワードは微かに非難の視線をカレンへと向けたが、カレンには届かない。小さくため息をつき、エドワードは口を開いた。
「君なあ……まあいい。俺とカレンの友人関係はすこぶる良好。動機という動機なんか少しもない。そしてなんだ……仮に、仮に俺とカレンが恋人関係だったとして『許されざる』ことなんか一切ない。貴族同士、なんなら望まれるくらいだろうぜ」
「そうなのかあ」
「そういうことだ」
エドワードがきっぱりと告げる。
「あ」
「ん?」
カレンの小さな呟きを受けて、エドワードはカレンの方を見つめた。
「眠くなってきました……」
張りのない声でカレンが告げる。薄く微笑み、エドワードは椅子から立ち上がった。
「そうか。話を詰め込んでしまってすまなかったな。ゆっくり休んでくれ」
「はい……」
もう半分眠っているような声音でカレンが答える。窓の外には月が昇っていた。
夜。N国S県、花怜の部屋。
昼寝から目覚めた花怜は、何か体に違和感を感じた。
「?」
違和感の正体が分からず首を傾げている花怜の耳に、突然ノックの音が届く。
「わっ、は、はーい!」
「花怜? 紅茶いれたんだけど飲まない?」
「飲む飲む!」
母の提案を受けた花怜の脳は、違和感を頭の外へと追いやってしまった。花怜は立ち上がり、パタパタと部屋を後にした。