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動機(ルーク・アーネスト)

「うーむ……」


 難しい顔をしたカレンが唸った。


「残念だったな。逆にこっちには四人全員とツーショットがある」


 こうなることを予想していたのか、カレンと違ってエドワードに落胆はほとんど見られない。カレンはアルバムを机に置くと、再び日記を手に取った。


「『薔薇の君が私の部屋の扉を叩く。こんなに胸躍ることはない』」

「ノックも……皆するよな」


 カレンの読み上げた文章にエドワードが言葉を返す。カレンは深くため息をついた。次の瞬間、カレンはハッとしてエドワードに詰め寄った。


「じゃあ動機は!? 4人の中で動機があった人!」


 カレンの瞳は容疑者が絞れるだろうという希望に満ちている。


「……それなんだがな」


 エドワードが決まり悪そうに唇を開いた。


「まさか」


 カレンの表情がみるみる翳っていく。


「まあ、そういうことだ。4人ともそれなりの動機がある」

「ええー」


 カレンの絶望的な落胆が、声に乗って部屋の中に満ちていった。




 エドワードが咳ばらいをする。カレンは静かにエドワードの言葉を待った。


「まずルークさん」

「カレンさんのお兄さん」


 告げられた名前に対して、前に教わった眠っているカレンとの関係をカレンは口にした。エドワードが頷く。


「正解。前にも言ったがカレンは養子だ。つまり二人は義理の兄妹ってことになる」


 カレンも頷いた。


「二人は本当の兄妹のように仲が良かった。だが人間を獣に変えてしまう要因なんていくらでもある。代表的なものが金だ」

「お金?」


 小首を傾げたカレンを見て、エドワードは腕を組んだ。


「そう。カレンはその優秀な研究で得た様々な金の管理をルークさんに任せていたんだ。彼から研究に集中できるようにと提案されてね」

「そう、だったんだ」


 カレンはポカンとする。


「そして最近、ルークさんの金回りが急に良くなったという話があるんだ」

「それって……」


 カレンの声音は不安げだった。エドワードが固い調子で答える。


「ルークさんは本当に良い人だ。だからこれはあくまで可能性の一つだが、もしも彼がカレンから預かった金に手をつけてしまったのだとしたら? バレる前にカレンを狙ったとしてもおかしくはない」

「……」


 カレンは難しい顔で口をつぐんだ。


「カレン」


 落ち着いたエドワードの声がカレンの鼓膜を揺らす。


「えっ?」


 驚いてエドワードを見たカレンに、エドワードが心配そうに言った。


「大丈夫か。今日はもうやめておくか?」

「ううん。平気……ありがとう」


 カレンの表情は依然として暗かったが、その声音は柔らかかった。


「そうか……この先もこういう話が続く。気分が悪くなったり眠くなったりしたらすぐに言うこと。いいな」

「はい! 了解です!」


 エドワードのきっちりとした指示に、カレンは完全にいつもの調子で返事をした。それを見てエドワードが微笑む。


「それに、さっきも言ったがこれから話すのは全て一つの可能性にすぎない。あまり重く受け止めすぎることはないさ」


 エドワードの優しい言葉に今度はカレンが微笑んだ。


「はいっ!」


 元気が良すぎるほどのカレンの返事が部屋に響く。エドワードは安心したように頷いた。


「さて、次はアーネストさんだな」

「カレンさんの……家庭教師」


 すぐにカレンは答えた。


「正解。彼はルークさんの友人で、その関係からカレンの家庭教師に入ることになったんだ」

「へー」


 カレンの声はどこか間が抜けていた。


「彼はカレンに負けず劣らずの秀才。研究者としてはカレンと分野がたびたび重なることもある」

「ほう」


 アーネストの説明に感心したカレンの口から、固さを持った相槌がもれる。


「そんな彼が最近肝いりにしていた研究で、カレンが画期的な理論で学会から表彰されてしまった」


 エドワードがカレンの方を真っ直ぐ見つめる。


「あー……」


 カレンの胸に起こった同情は、そのままカレンの声に乗っていた。エドワードが擁護するように話を続ける。


「今までだってなかったわけじゃないんだ。しかし、いやだからこそ今まで積み重なった黒い感情が噴出してしまったのではないか? 今回の彼の落ち込み方は相当なものだったとも聞いているしな」

「なんか切ないですね……」


 二人の秀才が秀才であるが故の悲劇は、カレンの声をしおれさせた。エドワードが明るく声をかける。


「アーネストさんは常々カレンを誇りだと言っていた。あくまでこれも可能性の一つだよ」

「そっか……そうですよね!」


 カレンはまた力なく微笑んだ。エドワードはカレンの様子を注視しつつ続けた。

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