第81話:消えた朝市と漁師の遺言 ―能登・輪島の海に眠る真実―
■Scene1:輪島・朝市通りの異変
朝7時、石川県・輪島市。
私は、美琴さんの紹介で輪島の伝統ある朝市を訪れていた。だが――
「今日は……出てない店が多いな」
地元の女性がぽつりと漏らす。
名物の干物屋、漬物屋、そしていつも威勢のよい漁師の店までもが、シャッターを下ろしていた。
そして通りの端に、薄い布で覆われた“何か”が。
輪島署の刑事が静かに言った。
「昨夜、朝市の中心にいた漁師・沢田清吾さん(68)が……殺されました」
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■Scene2:漁師の遺言と、閉ざされた過去
沢田さんは地元の名士でもあった。朝市では後進の指導を熱心に行い、若手漁師たちの信頼も厚かった。
しかし、遺体のそばに残されていたのは――血で汚れた紙片。
『真実は海の底に。俺は……全部、知ってる』
「なにを知っていたの……?」
私は、海沿いの食堂で祖母のキムチをそっと口にした。
――すると、荒れる海原の中で若き日の沢田さんが網を引く光景が浮かび、同時にある“沈没した船”の姿が見えた。
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■Scene3:沈没船と封印された不正
過去に輪島港を拠点とした漁業会社が、国の補助金を不正に受け取り、旧型船を新品と偽って運用していた――
その事実を沢田さんは知っていた。しかも、その船の沈没により、当時3人の若者が命を落としていたのだ。
「もし口を開けば、港の名誉も、仲間も潰れる……だから黙っていた」
だが最近、その“補助金詐欺”の中心人物であった元役員が政界進出を狙っているという噂を聞き、彼は再び告発の決意を固めていたのだった。
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■Scene4:真犯人との対峙、そして“約束”
調査の結果、犯人は元役員の側近であり、現在も水産関連企業に籍を置く男・白井聡(42)。
彼は沢田さんの遺言を盗み見し、口封じのため犯行に及んだ。
「港を守るためだよ……あの人が話せば、全て終わってたんだ」
「でも、誰かの命で蓋をしていい真実なんて、ない」
私は彼を警察に突き出し、沢田さんが生前書き残していた“漁師手帳”を朝市の若者たちに託した。
「これからの朝市を……託すってことですね」
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■Scene5:海と、朝日の中で
その翌朝、輪島の朝市は活気を取り戻していた。
「干物どうだー!今朝のアジは絶品だよ!」
「凛奈さん、これお土産に持ってって!」
私は手いっぱいに荷物を抱えながら、笑顔で応えた。
“死者の言葉”を、海の記憶から掬い上げる――
それが、キムチ探偵としての役割だと、また強く思えた朝だった。
「さあ……次の依頼は、どこからくるのかな」
私の視線は、まだ雪の残る北の方角――青森へと向いていた。
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