第79話:金沢湯けむり殺人事件 ―女将と探偵、初めての共同捜査―
■Scene1:テルメ金沢、再び動く
金沢駅からタクシーに乗り込み、私が向かったのは老舗旅館「テルメ金沢」だった。
前回の事件で名前だけを聞いていた女将――白石美琴さんが出迎えてくれた。
「ようこそ、金沢へ。凛奈さん。お会いできて光栄です」
「こちらこそ……お噂は、祖母からずっと」
二人で頭を下げあったその瞬間、旅館の玄関先に緊急車両のサイレンが響いた。
「なんだ……?美琴さん?」
美琴は表情を変えず、すぐに玄関へと駆け寄る。そこには、石川県警の刑事――高橋悠真と、彼の相棒・片桐刑事がいた。
「美琴、例の件……起きたぞ。やっぱり、“あの部屋”だった」
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■Scene2:“呪われた客室”と密室の死体
問題の部屋は、旅館の中でも一番格式ある「椿の間」だった。
過去に著名な政治家や女優も泊まったという由緒ある部屋――だが、数年前から「泊まると体調を崩す」と噂され、今はほとんど使われていなかった。
今回は、都内から訪れた経済評論家・篠原誠(56)が宿泊していた。だが今朝、布団の中で冷たくなっているのを従業員が発見したという。
警察によると、室内は完全な密室。窓も鍵がかかっており、出入りした形跡はない。
「病死の可能性もあるが……問題はこれだ」
悠真が見せたのは、茶碗に残っていた白い粉と、部屋の床に書かれた謎の言葉だった。
――「ワカモノノヨウニ、イキタカッタ」
美琴が思わず口を押える。
「これは……」
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■Scene3:若女将と探偵の初捜査会議
旅館の一室で、私と美琴は警察の立ち会いの下、初めての捜査会議を開いた。
「篠原さんは、最近SNSで若者向けのビジネス指南をしていたわ。だけど、炎上もしていた」
「アンチもいたってこと?」
「ええ。特に、元部下に恨みを持たれていたって噂も」
私は祖母からもらったキムチ瓶を取り出す。
「私、ちょっと……時間、ください」
一口……視界が揺れる。
――薄暗い客室。男がスマホで何かの動画を見て笑っている。
“あんなに偉そうにしてたくせに。若ぶってるだけで中身は……クズだったじゃねえか”
映像の中には、篠原と別の男が言い争う姿が映っていた。
“俺をクビにした理由、忘れたのかよ。今さら取り入ろうとしても遅いんだよ、篠原”
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■Scene4:美琴の直感と凛奈の証拠
目を覚ました私は、隣の美琴に告げる。
「犯人は……元部下。しかも、旅館にまだいる。従業員のふりをして」
「まさか……」
私は犯人が篠原の荷物に盗聴器を仕掛けていた証拠を見つけ、現場に残された“粉”が睡眠薬と興奮剤を混ぜた違法成分であることを突き止める。
美琴が静かに言った。
「お客様を“もてなす場”で命を奪った。それだけは絶対に許せません」
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■Scene5:終わりと始まり、湯けむりの先に
犯人の男は、旅館内で警察により確保された。
動機は「自分を裏切った上司を許せなかった」という私怨によるもの。
事件が一段落した夜、美琴と私は、テルメ金沢の中庭で並んで月を見上げた。
「探偵って、大変ですね」
「女将も……大変ですよ」
「でも、どちらも“人の心”と向き合う仕事ですね」
そう言って微笑む美琴に、私は素直に答えた。
「また、一緒に事件を解決しましょう」
そして湯けむりの向こうに、新たな事件の気配が静かに立ち上っていた――
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