第70話:釜山の球音と、アナウンサーの涙 ―生放送の裏で起きた殺意―【後編】
■Scene01:韓国の夜明け、静かな着信
釜山での長い一夜が明けた。
ホテルの一室で、私はまだ薄明かりの窓を見つめていた。
――プルルルル…
スマホが震える。画面に表示された名前は、成旼。
「…もしもし?」
『……リンナさん、ありがとう。あなたが居てくれなかったら、私、ずっと心に蓋をしたままだった』
成旼の声は、震えていたが、どこか張りつめていた糸がほどけたように柔らかくなっていた。
『彼がなぜ姿を現したのか。なぜあの映像を私に見せたのか……わかった気がする。止まっていた時間が、ようやく動き出したみたい』
「成旼さん、あなたが強かったから乗り越えられたんだよ」
私はそう伝えながら、胸の奥が熱くなった。
■Scene02:凛音からのありがとう
電話が切れて間もなく、今度は凛音からのビデオ通話が入った。
「リナちゃーん! 本当にありがとう!」
画面の向こうで、凛音が満面の笑顔でピースサインをしていた。
「お父さんもお母さんも、やっといつも通りになってきたよ。特にお母さん、笑えるようになったの」
「それは良かった…ほんとに」
「それに…お父さんね、リンナちゃんにどうしてもお礼言いたいって。代わってもいい?」
■Scene03:父・安川傑からの感謝
スマホの画面が切り替わり、現れたのは――
安川傑、元プロ野球選手で凛音の父。
険しく、そしてどこか不器用なその表情の奥に、深い感情が滲んでいた。
「……リンナさん。妻を、救ってくれて、ありがとう」
その一言に、私は言葉を失った。
「俺は…野球しかしてこなかった男で、妻の苦しみに寄り添えたか自信がなかった。でも、あんたが来てくれて…あの人、また“伝える顔”に戻ったよ」
「傑さん……」
「凛音も感謝してた。俺も…これからはもっと、家族に向き合おうと思う。ありがとうな」
■Scene04:母からの静かな報告
それから間もなく、私のスマホに母からのメッセージが届いた。
「成旼さん、今朝はちゃんと朝ごはんを食べたって。
心の中の“鎖”が、少し外れたみたいね。……リンナ、よく頑張ったわね」
私は画面を見つめながら、小さく息をついた。
静かな喜びと、満たされた安堵。
ひとつの事件が終わり、
私は、またひとつ、大切な人の想いに触れた。
■Scene05:夜空とキムチと、次の風
その夜、釜山の夜空を見上げながら、私はひとくちキムチを口に運んだ。
だが、それは能力を使うためではなく、ただの“味わい”として。
「うん、やっぱり辛い……」
でも、この辛さが、私の“真実”を見つける力になっている。
スマホに、次の依頼の通知が届いていた。
場所は――大阪(和泉市)へ 女優の鏡柚莉愛と鏡千帆姉妹
私は再び、探偵として、女優として――
“ふたつの顔”を持つ私へ、戻る準備を始めた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。