第62話:三味線が消えた日 ―津軽の旋律と風の声―
――伝統音楽の町で起きた“音の失踪”の謎を追え。
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■Scene 1:音が消えた駅、津軽鉄道にて
青森県五所川原市。津軽鉄道の津軽五所川原駅は、昔ながらの風情が残るローカル線の拠点。
その日は観光PRイベントの撮影で、凛奈は若手民謡歌手・成田志音と共に、津軽鉄道に乗り込んでいた。
「いよいよね、志音ちゃん。津軽三味線との共演」
志音は、今注目の若き津軽民謡の歌い手。
だが出発直前――三味線が忽然と消えた。
「……私の三味線がないんです。絶対、車内に持ち込んだのに」
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■Scene 2:芦野公園と“盗まれた音色”
車内をくまなく探しても見つからず、駅員や関係者も首を傾げる。
列車が終点の芦野公園駅に着く頃には、志音の目に涙が浮かんでいた。
「これは祖父が最後にくれた、形見なんです……ただの道具じゃないのに……」
(誰かが意図的に盗んだ? それとも……)
凛奈は静かにキムチを口に運んだ。
次の瞬間、車内で一瞬すれ違ったある男の姿が浮かび上がった。
――中年の男性、明らかに関係者ではない。
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■Scene 3:三味線工房、そして“似た音”
凛奈は青森市内にある老舗三味線工房「澤村工芸」を訪れる。
「うちにはその子の祖父さんから預かった“姉妹三味線”がある。似てはいるが……同じものじゃない」
そこで凛奈は知る。
志音の祖父・成田長市はかつて、ライバルの職人と音色を巡って激しく対立していた。
「まさか……その因縁が今に?」
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■Scene 4:駅へ戻れ、音を取り戻せ
戻った津軽五所川原駅で、防犯カメラを確認。すると、志音とすれ違った男が、あるロッカーに荷物を入れているのが映っていた。
開けると――そこにあったのは、志音の三味線。
「なんで……」
駅員の証言から、男はかつて長市に三味線職人として弟子入りを志願し、拒絶された過去を持つ“音を奪われた男”だったことが判明。
「彼はきっと、志音ちゃんの演奏が“自分より上だ”と認めたくなかったんだ」
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■Scene 5:再び、風の中の旋律
盗難事件の犯人は逮捕されたが、志音は気丈に舞台へ立った。
「津軽の風は冷たいけど、温かい音もある。それが私たちの音楽です」
列車の発車ベルと共に、凛奈の心には新たな余韻が残っていた。
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