第59話:花の園に咲いた刃 ―栃木・10人連続刺傷事件―
ご覧いただきありがとうございます!
今回は、春の栃木・宇都宮&あしかがフラワーパークを舞台に、
「花と静寂を守りたい男」と「観光でにぎわう街」の衝突を描きます。
・世界的な藤の名所で突如起きた連続傷害事件
・紫の花粉、静かに消える犯人の影
・観光と自然保護、そのはざまで揺れる人の心
・そして凛奈の、大食い宇都宮餃子タイム
春の甘い香りと、事件の辛さ。
今回も、探偵・朴凛奈が「ピリ辛だけど優しい真実」を探しに走ります。
それではどうぞ――
藤の花咲く楽園へ。
■Scene 1:餃子と藤の楽園
新幹線で宇都宮に到着した私は、まず駅ビルの人気店で名物宇都宮餃子を 30 個平らげた。
「これでエネルギー満タン!」
──そう笑って車に乗り込み、向かったのは あしかがフラワーパーク。
世界的に有名な大藤が見頃を迎え、園内は観光客で膨れあがっていた。
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■Scene 2:突如――悲鳴
藤棚の下を歩き始めて 10 分。
「キャアアッ!」という悲鳴と同時に、人波が崩れた。
見ると、若い女性が腹を押さえ倒れている。
さらに数十メートル先──別の通路でも同じように人が崩れ、結局 10 人 が次々に腹部を刺されて倒れた。
園内マイクが非常放送を流し、出口は即座に封鎖。
だが監視カメラがない区画だったため、犯人像は皆目不明。
栃木県警・臨時対策本部の要請で、私は調査に参加した。
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■Scene 3:現場の違和感
•傷口は浅く、刃物は ごく細いアイスピック状
•10 人とも “藤棚の写真を撮ろうと立ち止まった瞬間” に刺されている
•全員の衣服に 紫色の花粉 が残存
「花粉……?」
園のスタッフによれば、園内には藤以外にも温室で育てる紫のルピナスがあるが、一般客は入れない。
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■Scene 4:キムチで俯瞰する“一望の視界”
私は芝生の端に腰を下ろし、持参した栃木産カブ入り赤キムチをひと口。
視界がひらき、上空 20 m ほどから園全体を俯瞰する映像が降りてきた。
そこには──
1.混雑を縫うように 緑色のベスト を着たガイド風の人物が移動
2.被害者の背後に近づくたび、わずかに肩が震える
3.刺すというより “軽く突く” 動作
4.そして必ず、温室の裏口に視線 を送ってから次の獲物へ
「緑のベスト……温室スタッフ?」
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■Scene 5:温室の裏、紫のルピナス
裏口を調べると靴跡が 3 つ。
その 1 つは土に沈んだ新品のスニーカー痕で、花粉が濃い。
温室管理簿を確認すると、本日勤務は 2 名だけ。
ところが 1 名──臨時雇いの園芸士・秋岡修二(26) は昼に ID を返却して退勤済みと書かれていた。
「緑のベスト……今日だけ臨時バッジで入園者案内も手伝った、と」
矛盾に気付いた警察が秋岡宅を家宅捜索すると、
・折り畳みアイスピック
・大量の藤とルピナスの花粉付き手袋
・“藤まつりは商業主義に堕した” と綴ったノート
が押収された。
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■Scene 6:動機──“壊された静寂”
取り調べ室。
秋岡は園芸専門学校時代、フラワーパークの静かな保全活動に憧れたが、現在の大規模観光化で花が踏み荒らされる様に絶望し
「客を怖がらせて入園者を減らしたかった。命までは奪いたくなかった」
と供述。
凶器を深く刺さず、動脈を外していたのは “警告” だったと判明した。
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■Scene 7:藤の下で
夕刻、騒ぎが収まった園内のベンチで、私は静かに藤を見上げた。
花房の隙間から、落ちる花粉が舞う。
「花を守るために人を傷つけたら、本末転倒だよね」
そう呟き、再びキムチをひとくち。
甘くも辛い発酵の香りが、事件の余韻を洗い流していく。
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エピローグ:次なる旅へ
宇都宮駅に戻り、再び餃子をテイクアウト。
車中で齧りながらスマホを見ると、母・梵夜からメッセージ。
「今度は新潟から“妙な依頼”が来てるわよ。雪国で待ってるって」
「雪景色のキムチも、悪くないかも」
私は微笑み、北へ向かう新幹線の時刻を検索した。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
宇都宮&足利編では、
春の観光地にひそむ「静かに壊れた心」を描きました。
花を愛した人が、人を傷つける。
その悲しみもまた、春の風に乗って消えていく――
そんな切なさを少しでも感じてもらえたら嬉しいです。
次は、新潟・雪国編へ。
キムチ探偵、北の大地でまた新たな謎に挑みます!
それではまた、旅の続きをお楽しみに。