第55話:南山タワーの下で倒れた彼女 ―冷たい風と涙の記憶―
■Scene 1:高台の静寂、冷たい身体
その日、私はひとりで**ソウル・南山**を訪れていた。
南山タワーに向かう途中、ケーブルカーを降り、紅葉の残る石段を歩いていると――
「きゃっ…誰か!」
観光客の女性の叫び声に振り向く。
倒れていたのは、20代前半と思われる若い女性。
コートも手袋もなく、赤く染まった手が小さく震えていた。
警察と救急が駆けつけ、私は偶然その場にいたことから、事情聴取に協力することに。
「身元不明。ただ、携帯には“恋人”と思しき男性からの着信が何度も」
――だが、なぜ、こんな場所で?
私はふと、バッグに入れていたキムチに手を伸ばした。
⸻
■Scene 2:キムチが見せた記憶
ひとくち食べた瞬間、過去の記憶が流れ込んでくる。
夜の南山の小道。震える彼女がスマホで誰かに電話をかけている。
「……もういい。私が間違ってた。別れよう」
電話の向こうから怒鳴る男の声。そして彼女は泣きながら歩き出し、突然足を滑らせ――
(……事故? それとも……)
私は彼女のスマホの履歴から、直近でやりとりしていた恋人の名前:チャン・ドンウを調べた。
⸻
■Scene 3:浮かび上がる執着
ドンウは、かつて有名IT企業に勤めていたが、現在は無職。
彼女――名前は**キム・ジヘ(22)**とは同棲していた過去があった。
警察の事情聴取に対して、ドンウはこう答えた。
「彼女とは揉めていたけど……まさか、こんなことになるなんて」
だが、彼のSNSには奇妙な記録が残っていた。
「誰にも渡さない」
「タワーの上なら、誰も止められないだろ」
私は、南山タワーの展望室に向かった。
そこには、2人の記念写真と“鍵”が結ばれた柵が。
(この場所で別れ話をした……?)
⸻
■Scene 4:事実と“真実”の違い
ジヘが目を覚ましたのは事件から2日後だった。
「彼は、私のことを……愛してるって、ずっと言ってたのに。
でも私が自立したいって言ったら、“お前は俺なしじゃ生きられない”って」
その言葉が、すべてを物語っていた。
別れを告げられたドンウは、彼女を引き留めようとし、揉み合いの末にジヘは階段から転倒した。
だが、意図的ではなかった。
警察は傷害未遂として扱い、ドンウは正式に逮捕された。
⸻
■Scene 5:南山に吹く風の中で
ジヘは、事件後の取材を断っていたが、私にだけ短く話してくれた。
「……あの時、助けてくれたのが、凛奈さんだったんですね」
「私……誰かに頼ってもいいって、やっと思えました」
私は微笑んで言った。
「頼ることは、弱さじゃないよ。ちゃんと立ち直るための、一歩だから」
南山タワーの風が、静かに吹いていた。
私たちはしばらく、展望台からソウルの街を見下ろしていた。
夜景の光のひとつひとつが、誰かの涙のあとに灯る“希望”に思えた。
⸻
エピローグ
帰り道。
私は南山公園の屋台でトッポギとキンパを買い、温かさに包まれながら歩いた。
「今日も、キムチの力に救われた」
そう呟いた自分の声は、南山の静けさの中に、やさしく溶けていった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。