第54話:祖父母と孫と血の家 ―水原郊外殺人事件の真実―
■Scene 1:静かな街の悲鳴
京畿道・水原市。
古い住宅街の一角で、悲鳴のようなサイレンが鳴り響いたのは、土曜の早朝だった。
私はドラマの撮影が休みになり、休日を利用して水原華城を訪ねた帰り、偶然事件に出くわした。
「現場はあちらです。60代の老夫婦が、血を流して倒れていました」
警察官の指示のもと、現場へと向かう。
そこには、崩れ落ちたように横たわる老夫婦と、取り囲む捜査員たちの姿。
「容疑者は20代の孫。本人は自首してきました」
あまりに“出来過ぎた事件”。
その裏に、私は何か違和感を覚えていた。
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■Scene 2:祖父母と暮らす、孤独な少年
孫の名前はカン・ヒョンス(姜賢洙)。24歳。
両親は幼少期に他界し、祖父母に育てられてきた。
だがその生活は、決して幸せなものではなかった。
「じいちゃん、ばあちゃん、毎日俺を責めた……“お前のせいで親は死んだ”って……」
警察署の取調室で、ヒョンスは虚ろな目でそう呟いた。
「じゃあなぜ今になって?」
「知らない。気づいたら包丁を握ってた」
彼の供述には矛盾も多く、動機にしてはあまりに希薄だった。
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■Scene 3:冷蔵庫の奥の“記憶”
私は自宅へ入り、祖父母の暮らしぶりを調べた。
食卓には腐った漬物、ガスが止まった台所。
そして冷蔵庫の奥に――手作りのキムチが、ひと壺。
私はそのキムチを取り出し、一口食べた。
……過去が走馬灯のように駆け抜ける。
――寒い冬。小さなヒョンスが震えながら玄関先で泣いている。
――祖母が小言を言いながらも、手作りのキムチを渡す。「これだけは食べなさい」
(……え? さっきの“祖母の虐待”と話が違う?)
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■Scene 4:壊れた心、壊された過去
再びヒョンスと面会する。
私は彼に、あのキムチを見せた。
「……覚えてる? ばあちゃんが冬になると作ってた、この味」
ヒョンスの表情が揺れた。
「……これ、俺が一番好きだったやつ」
「あなたの心の中で、祖父母は“悪”に変えられていた。でも本当は、愛されていたんじゃない?」
ヒョンスは、ぽつりと語り始めた。
「就職活動、全部落ちて……ついに声を荒げたんだ。
そしたらじいちゃんが『情けない』って。ばあちゃんが『昔のあんたは笑ってたのに』って……」
その言葉が、ヒョンスの心の何かを壊してしまったのだ。
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■Scene 5:それでも、家族だった
捜査の結果、祖父母の命に別状はなく、傷は軽度だった。
ヒョンスは泣き崩れ、何度も謝ったという。
後日、私は水原市内の小さな食堂で、祖母のキムチと同じ味を出す定食を見つけた。
「……誰かにとっての“味”って、記憶そのものなんだな」
帰り道。
ヒョンスから届いた手紙には、こう綴られていた。
「あのキムチの味、もう一度だけ、祖母と一緒に食べたいです」
「今度は、ちゃんとありがとうって言える気がします」
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エピローグ
静かな街に、夕日が落ちる。
キムチの香りは、遠く懐かしい記憶を呼び起こし、今日もまた誰かの“心”を救っている。
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