第52話:見えない階段 ―明洞駅・謎の転落事件―
■Scene 1:明洞駅、午前10時の悲鳴
それは、平日の静かな朝の出来事だった。
ソウル・明洞駅。
観光客でにぎわうこの駅のホーム階段で、突然一人の女性が転落した。
駅の通報で現場に駆けつけた私は、すでに張られた黄色い規制線の向こうで、うずくまる警察官たちとすれ違った。
「被害者は30代の女性、重傷。背中と足を骨折しています」
それだけなら事故と思われるだろう。
だが、監視カメラの映像に“誰も映っていなかった”ことが――この事件を、ただの事故から“謎”へと変えた。
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■Scene 2:不在の犯人と不自然な階段
現場となったB3出口の階段。
段差は明らかに急で、手すりはやや古びていたが、目立った破損や滑る原因はない。
「映像をご覧ください」
駅構内の警備担当が差し出したモニターには、確かに転落する瞬間の女性が映っていた。
だが、前後左右、誰もいない。
「誰もいないのに、押されたように――落ちた?」
奇妙な違和感が胸に残る。
私はその場に立ち、実際に階段をゆっくり下りてみた。
(……なんか変)
右側の壁に、わずかにへこんだ痕跡。
誰かがそこに立っていれば、確かにカメラの死角になる。
「つまり、“映らない位置”に犯人がいた可能性がある」
だが、それでも“押された瞬間”が映っていないのは不可解だった。
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■Scene 3:キムチが導く、透明な影
私はバッグから特製キムチを取り出す。
ひとくち――
視界が揺れ、過去の瞬間が再現される。
階段の前に立っていた女性。
その背後から――“何か”がすっと忍び寄る。
風のように、音もなく、影もない。
だが確かに、彼女の背中に、何かが触れた。
そしてもうひとつ――
その“何か”は手に、携帯を構えていた。
(撮影……?)
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■Scene 4:見えない犯人の正体
駅のWi-Fi記録を追跡すると、事件当時、B3出口付近である匿名のスマートフォンが異常なデータ送信を行っていた。
IP追跡から浮上したのは――
「ネット生配信のストーカー」だった。
犯人は“明洞の可愛い女性”を勝手に撮影し、生配信サイトに投稿して人気を得ていた。
だが、被害者はそれに気づき、「警察に通報する」と告げた。
その直後、彼は**“カメラに映らない場所”から、階段で背を押した**。
なぜ映らなかったのか?
それは彼が階段の天井裏の梁に設置されたカメラの死角を事前に調査していたからだった。
「……完全に計画的な犯行だったのね」
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■Scene 5:階段の底で拾った想い
犯人は後日、ネットカフェで身柄を確保された。
「配信で“注目されたい”だけだったんです……
まさか、あんなに大ケガするなんて」
彼は、涙ながらに語ったが――その言葉に真摯さはなかった。
階段の底に転がっていたのは、被害者の壊れたスマホ。
その中に、家族との写真と、未送信のメッセージがあった。
「今日は良い天気。明洞での仕事、頑張るね。帰ったら鍋しようね」
私はそっと画面を閉じた。
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■エピローグ
明洞の空は、いつもより静かだった。
私は階段の上から、通りゆく人々を見下ろした。
「見えない犯人――それは、誰にでもなれる。
でも見えない想いだって、私たちが見つけなきゃいけない」
私は今日も、キムチの力を借りて、
“真実”という名の階段を、登り続けている。
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