第49話:遥かなる記憶 ―祖母・夏栄(ハヨン)の最後の事件―
■Scene 1:消えた祖母
釜山・南浦洞市場。
春の風が吹く昼下がり。キムチの香りが漂う市場の片隅で、祖母・夏栄は姿を消した。
「…おばあちゃんが消えた?」
兄・泰亨からの一本の電話が、私の胸をざわつかせた。
昨日まで市場で元気に働いていたはずの祖母が、突然誰にも告げずに姿を消したという。
「いつものキムチ樽と帳簿だけが残されてた」
「最後に見たのは?」
「近所のおばちゃんが言ってた。夕方、一人で港の方に歩いてたって…」
母・梵夜は女優の撮影で地方に。父・洋佑も店の開店準備中。
「これは、私が行くしかない」
私は愛用のリュックに、祖母お手製の“キムチ壺”を入れ、祖母の屋台があった市場へと向かった。
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■Scene 2:壺に残された“過去の記憶”
祖母のキムチ壺には、古い韓紙に包まれた小さな手紙が入っていた。
「――この壺が最後の鍵になる。凛奈へ。
夏栄」
私はその手紙を読みながら、祖母のキムチを一口食べた。
瞬間、視界が歪み、脳が焼けつくような衝撃――
私は、1959年の釜山へと飛ばされていた。
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■Scene 3:時を越えた真実
そこには、少女時代の祖母がいた。
10代の祖母・ハヨンは、同じように“キムチで過去を見られる力”を持ち、当時の警察の裏で“影の探偵”として暗躍していた。
「あなた……私の未来から来たのね」
「うん、凛奈っていうの。おばあちゃんの孫」
祖母は、当時の殺人事件を追っていた。
「漁師の連続失踪事件」が港で続いていたのだ。
そしてその裏には、政治家と裏社会の癒着、そして密輸という闇があった。
祖母は、その事件に巻き込まれ、命の危機に晒されながらも、最後には証拠を集め、警察へ託した。
「凛奈、キムチの力は“過去を見る力”じゃないわ。
“真実に立ち向かう覚悟”なのよ」
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■Scene 4:現在、祖母は…
私は目を覚ました。
南浦洞の海辺――そこに、祖母はいた。
「あんた、来たんだねぇ」
「……なんで、ここに?」
「最後の事件が夢に出たのよ。どうしても、もう一度思い出したくてね」
祖母はかつて命を懸けて救った漁師の息子が、今や市場の理事になっていることを話した。
「命って、繋がっていくのよ。あんたも、そうでしょ?」
私は、祖母の温かくしわくちゃな手を握った。
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エピローグ
その日、家族全員で食卓を囲んだ。
祖母の特製キムチと、父・洋佑の日本料理。
母も兄も姉・信恵も、皆が笑っていた。
私はひとくち、祖母のキムチを食べて思った。
“キムチがくれるのは、記憶じゃなくて、想い”。
凛奈の血に流れる探偵の系譜――それは、確かに祖母から始まった。
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