第41話:青森・ねぶたの闇 ―灯籠に潜む殺意―
■Scene 1:ねぶたの国へ
宮崎から一転、私は北の地――青森県へ降り立った。
夏の始まり、ねぶた祭の準備で町全体が活気づいている。
青森駅を出ると、空気は澄んでいて、肌寒い。
私は目的地のひとつである青森ねぶた会館へ向かった。
そこには、私を待っていた人物がいた。
青森市役所文化課の職員であり、ねぶた保存会のメンバーでもある工藤みなとさん。
「凛奈さん……今年の祭の準備中に“事故”が起きたんです。
…でも、私はどうしても“事故”とは思えないんです」
その“事故”とは、ねぶた山車の組み立て作業中に起きた感電死事件。
犠牲者はベテランのねぶた師・高倉清志(65)。
その山車の灯りを調整していた最中、感電して絶命。
だが、彼の手袋には切り込みがあり、絶縁ゴムが意図的に剥がされていた形跡があった。
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■Scene 2:祭に潜むもう一つの影
私は工藤さんに案内され、制作中のねぶたを見学。
紙と針金と灯りで構成された巨大な山車の内部には、緊張感と静けさがあった。
その時、ふと隅で少年が話す声が耳に入った。
「おい、あのおじさん死んだのって……あの“呪いの面”のせいなんじゃ?」
「ばっか、お前……それ、ほんとに言うなって……!」
私はその“呪いの面”に反応し、工房の裏にある収納庫に案内してもらった。
そこには、使われなかった古い面がいくつもあった。
その中に、一つだけ異様に黒ずんだ、笑っていない鬼の面があった。
「それは……20年前にも問題になった“呪われた面”って言われてて…
清志さんは、それを“あえて使う”って言ってたんです」
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■Scene 3:青森山田高校付近での異常な事件
同時期、青森市内の別の場所――
青森山田高校近くで、奇妙な事件が相次いでいた。
夜道で男子サッカー部の学生が追いかけられたという証言が複数寄せられていたのだ。
被害はまだ軽微だが、不審者は“50代の男性”“帽子を目深にかぶり、足を引きずっている”という共通の特徴があった。
私はその報告を聞きつけて、青森県警の担当者に取材し、少しずつ裏を取り始めた。
「昔プロ選手目指してたって噂あるよ。でも、大けがしてダメだったって……」
調べると、その男は元Jユースの選手であり、高倉清志の実の息子であることが判明する。
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■Scene 4:キムチが照らす“父と息子の業”
私は夜、青森のホテルで自作のキムチ鍋を食べた。
一口目を口に入れた瞬間、時間が揺れる。
――20年前。
若き日の高倉清志が、息子の試合を見に来ていた。
「俺が伝統を背負ったせいで、お前の人生まで縛ってしまったんじゃ……」
泣きながら面を握りしめる姿と、
怒りで山車を蹴り飛ばす少年の姿が、同時に見えた。
そして、今――
父を“事故”に見せかけて殺したのは、息子だった。
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■Scene 5:ねぶたの夜、罪の灯り
息子――**高倉勇人(53)**は、父が自分の夢を奪ったと信じ込んでいた。
さらに父が“呪いの面”を使うと知り、
「ならば、ほんとうに呪われてしまえ」と絶縁手袋を細工したのだった。
私は勇人を追い詰め、涙を流す彼の胸にこう語った。
「呪いなんてものじゃない。
あなたが選んだのは、ただの“逃げ”だったんです。
父を憎んだあなた自身の弱さが、灯りを壊したんです」
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■Scene 6:山車に灯る新たな光
祭当日。
高倉清志の弟子たちが完成させた山車が、夜の街を練り歩く。
中には、かつて使われなかった“笑わない鬼の面”が、
ほんのわずかに笑っているように見えた。
私は工藤さんに握手を求められ、少し照れながらも応えた。
「凛奈さん……やっぱり、あなたは“真実の火”を灯す探偵ですね」
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