第35話:柏崎・中越編:原発の静寂と“蒼白の夜”
ご覧いただき、ありがとうございます!
今回の舞台は、新潟県柏崎市。
日本海と風車、そして巨大な原子力発電所が共存するこの街で、
静かな殺人事件が起きました。
・原発施設での不可解な死亡事故
・安全管理責任者の死と、若き職員の重体
・過去の“ある事故”と、消せない恩義
・海風亭のわっぱ飯と、人々の小さな優しさ
探偵・朴凛奈が、
冷たい鉄と温かい米に囲まれたこの街で、
人の心の闇と、支え合いの光を見つけていきます。
今回は少し社会派寄りのテーマで、
でも最後には“ごはんのぬくもり”が残るお話に仕上げました。
それでは、どうぞ――
日本海の風が吹く、柏崎へ。
■Scene 1:重い空気の街、柏崎へ
新潟駅から信越本線に揺られ、私は柏崎市へと向かった。
日本海がすぐそこに広がるこの街は、美しい海と同時に、原子力発電所という大きな“影”を抱えている。
「柏崎刈羽原発で……死亡事故が起きたんです」
私にそう告げたのは、地元新聞社の記者・梶原。
ただの事故ではない。
**“意図的に機器を操作された形跡”**があり、殺人事件の可能性があるという。
「亡くなったのは施設の安全管理責任者・三條聡志。
さらにもう一人の職員が現在も重体で……」
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■Scene 2:原発の静けさと緊張
私は関係者用の通行許可証をもらい、原発敷地内へ足を踏み入れた。
鉄製の扉、警備員、静まり返った制御室――
そこには、空気を切るような**“凍り付いた緊張”**が漂っていた。
重体となっている職員・**牧野優希**はまだ意識不明。
事故当日のログは“異常なし”。
だが唯一、不自然な記録があった。
《深夜0:48 バックアップ系統切替エラー》
その直後、施設内で機器に挟まれた三條が発見され、牧野は機械室の奥で倒れていた。
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■Scene 3:工場食堂でのわっぱ飯
私は原発関係者も多く訪れる食堂「海風亭」で昼食をとることにした。
選んだのは、魚沼産コシヒカリを使ったわっぱ飯御膳。
杉の香りがふんわりと立つ曲げわっぱの器に、
鮭、イクラ、鶏そぼろ、だし巻き卵、きのこなどが彩りよく盛られている。
一口食べた瞬間、炊きたてご飯と具材が混ざり合う旨味に、ふっと体が緩む。
「……この町にも、温かい味がある」
ふと、厨房から出てきた女性が私を見て声をかけた。
「あなた、凛奈ちゃんじゃない?……優希の友人なの」
彼女の名は斎藤真歩。牧野優希の高校時代からの友人だった。
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■Scene 4:過去の“ある事故”と今
真歩が語ったのは、ある過去の事故だった。
「5年前、別の施設で火災が起きたの。そのとき責任を問われたのが三條さんで……でも、真実は違った」
実際に操作ミスをしたのは、当時インターンだった牧野優希だった。
三條はそれをかばい、責任を一身に背負った。
「でも、三條さんはそれを許してくれた。
それ以来、牧野はずっと彼を“命の恩人”と呼んでいたのに……どうして?」
私はキムチをひと口――
すると、視界が一変した。
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■Scene 5:キムチが見せた蒼白の真実
制御室の薄暗い照明、うつむく牧野、
背中を向ける三條――
「もう一度、手順を確認してこい。……このままだと、君も誰かを殺すことになる」
その直後、機器に何者かが細工を――
私は息をのんだ。
そこに立っていたのは、整備課の主任・伊佐野正嗣。
彼は事故に見せかけて、三條を殺害し、牧野も消そうとしたのだ。
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■Scene 6:夜の取調室にて
逮捕された伊佐野は、静かに呟いた。
「三條のせいで、俺の昇進はいつも後回しだった。
あいつがいる限り、俺は“凡人のまま”だったんだ……」
嫉妬と野心、それが一人の命を奪い、
もう一人の命を揺るがせた――。
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エピローグ:海に沈む陽と、新たな出発
柏崎の海岸、夕暮れ。
私は浜辺に座り、海の香りに包まれながら、
わっぱ飯のおにぎりと、タレカツ丼の残りを挟んだサンドをかじった。
「炊きたてのコシヒカリ……ほんと、美味しいね」
遠くに見える風車がゆっくりと回る。
その先には、次の事件が待っている――上越・直江津へ
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
柏崎編では、
原発という重いテーマと、
わっぱ飯や海風の温かさを
どちらも描きたくて、この物語にしました。
現実の柏崎刈羽原発にもさまざまな問題がありますが、
そこに生きる人たちは、毎日を懸命に生きています。
私はそういう街の空気を、ほんの少しでも伝えたかったのかもしれません。
わっぱ飯、タレカツ丼、日本海の夕日……
旅先で出会った小さな味や風景が、
誰かの人生を少しでも温めてくれる――
そんな物語を、これからも描いていけたらと思っています。
次回は、上越市・直江津編。
港町に吹く冬の風と、
海を越えて届く“見えない脅威”がテーマです。
それではまた、次の旅先で――
直江津で、お会いしましょう。