第32話:加賀友禅 殺意の染め糸 ―涙の再会と二人の死―
■Scene 1:金沢の静けさに響く声
石川県・金沢市。
私はひがし茶屋街の近く、上荒屋にある寿司店「寿司龍」でのどぐろの握りを楽しんでいた。
──と、その時。
「凛奈ちゃん……! 凛奈ちゃんっ!」
振り向くと、着物姿の女性が駆け寄ってきた。
涙ぐんだその顔は、以前テルメ金沢で再会した
姉・信恵の旧友であり女優の――**志芳**だった。
「お願い……助けて……あいかが……のあが……!」
混乱する彼女の口から出たのは、**徳永薆佳と松本乃薆**の名前。
どちらも加賀友禅のコンテストで“ミス加賀友禅”に選ばれた有名な若手モデルだった。
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■Scene 2:二つの死と一枚の布
事件は昨日の早朝。
一人目、徳永薆佳は尾山神社の境内で発見された。
もう一人、松本乃薆は長町武家屋敷跡の裏手の小道で。
二人とも豪華な加賀友禅の着物を着たまま、
美しく化粧を施され、まるで“人形”のような姿だったという。
しかも、遺体のそばには“同じ染めの断片布”が落ちていた。
「まるで、意図的に並べられたような……」
地元警察は“美意識の暴走による犯行”の可能性を疑っていた。
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■Scene 3:志芳の記憶と“染められなかった女”
志芳は語る。
薆佳は、志芳の小・中学校時代の同級生であり、何でも話せる親友だった。
「のあちゃんとも三人でよく遊んでた。でも……あの人だけは……」
志芳が指差したのは、過去の写真に写るもうひとりの女性――
糀谷 美和。
同じコンテストに出場していたが、グランプリを逃した女性。
「選ばれなかった悔しさが、彼女を……?」
私は思った。
ただの嫉妬では説明がつかない、“異様な執着”を感じる。
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■Scene 4:キムチと色に込められた執念
私は金沢駅で購入した加賀野菜入りのキムチをひと口。
過去が染め上げられていく――
染色工房。
赤、藍、緑といった美しい加賀友禅の染料の中に、
糀谷美和は一人、悔しさをにじませながら染めていた。
《どうしてあの子たちだけ……》
《私の方が、もっと努力してきたのに……もっと“美”を知ってるのに……!》
その執念は狂気へと染まり、
彼女は二人を“自分の染め物”にするかのように、着物を選び、化粧を施し、
まるで展示品のように遺体を並べたのだった。
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■Scene 5:金沢の朝、解決と別れ
私は地元警察に糀谷美和の工房と、染料の残量データ、
そして犯行日と一致する染色予約記録を提示。
彼女はあっさりと観念した。
「彼女たちは、私の“色”を拒絶した……だから私が仕上げたのよ」
それは、悲しくも冷たい言葉だった。
その後、志芳と私は再び尾山神社を訪れ、
薆佳と乃薆の遺影に静かに手を合わせた。
「もう誰も……あんなふうに染まらないでほしいね」
「……うん」
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エピローグ:夜のバスに揺られて
その夜、私は金沢を発つために高速バスに乗った。
小さな紙袋の中には、志芳からもらった手作りの加賀友禅のハンカチがあった。
その端にはこう書かれていた。
“凛奈ちゃんへ。あなたは色を“見抜く人”。私の親友になってくれてありがとう。”
私はその布を握りしめて、次の行き先を思った。
(そろそろ、北海道かな……)
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