第30話:福岡女優失踪事件 ―博多に沈む微笑み―
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
今回は、福岡・博多を舞台にしたエピソード――
『消えた“福岡の微笑み”』をお届けします。
グルメの街、文化の街、そして人情の街――福岡。
そんな福岡の光と闇に、ひとりの女優の過去と現在が交錯します。
この物語では、主人公・朴凛奈が「キムチの力」で過去の真実を知り、
失われた“笑顔”を取り戻そうとする姿を描きました。
ほんのり辛く、けれど心に沁みる。
そんな「博多の味」と「人の想い」を、ぜひご堪能ください。
それでは、物語の幕が上がります――。
■Scene 1:消えた“福岡の微笑み”
福岡県・博多。
グルメと文化が溶け合うこの地に、あるひとりの女優がいた。
名前は――葵真澄、32歳。
地元・福岡で生まれ育ち、朝ドラの準主役や舞台などで脚光を浴びた“福岡の微笑み”。
しかし――
2日前、天神のイベントを最後に忽然と姿を消した。
「連絡がつかないんです。昨日のキャナルシティの舞台にも現れず……」
「誰かに誘拐された可能性は……?」
釜山にいた私は、彼女のマネージャーから直接依頼を受けた。
「福岡の皆が、彼女の無事を願ってます。どうか――力を貸してください」
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■Scene 2:中洲の闇と“もう一人の男”
博多に到着した私は、まず彼女が消えたキャナルシティ博多の控室へ。
そこには、真澄が書き残した1枚のメモが――
《私、もう戻れないかもしれない。でも最後に、“彼”と話させて》
《中洲・白椿ビルの302号室、あの場所で…》
「“彼”? 誰?」
私が中洲の雑居ビルを調べると、かつて真澄と交際していた**舞台演出家・神代 憲吾**の名前が浮かぶ。
元恋人であり、かつては同じ舞台に立った同志。
だが、神代には過去、ストーカー紛いの行動歴もあった。
「彼がまだ真澄さんに執着しているのなら……危険かもしれない」
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■Scene 3:キムチと“過去の稽古場”
私は、辛子明太子を刻んで漬けた博多キムチをひと口。
目の前が霞み、数年前の稽古場が浮かぶ。
《真澄、お前にはもっと“狂気”がいる》
《演じろよ! 俺のために、もっと、もっと……!》
神代は、演技と愛情を履き違え、彼女を“舞台の道具”としてしか見ていなかった。
真澄は泣きながら舞台袖に逃げた。
その背中が、今も焼きついて離れない。
「……やっぱり、神代憲吾が関係してる」
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■Scene 4:中洲・302号室の扉の前で
私は警察と連携を取りつつ、神代が滞在していた中洲のビルに踏み込んだ。
302号室のドアを開けたその瞬間――
「……凛奈?」
いた。
床に座り込み、ぼんやりと窓を見つめていたのは、葵真澄本人だった。
「彼に会いに来たの。だけど、彼……もういなかったの」
「ただの、空っぽの部屋だけ。私の過去と、同じだった」
神代は、すでに海外へ逃亡していた。
部屋には彼が最後に書いた言葉が残されていた。
《愛してた。でも、君の“光”は俺には強すぎた》
《君は、自由になれ》
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■Scene 5:福岡の朝にて
事件は“未遂”として処理された。
真澄は自ら姿を隠していたが、その理由は「過去と向き合う」ためだった。
私たちは中洲川端の朝の屋台で、ラーメンをすすった。
「……福岡って、あったかいね」
「辛いものの中に、優しさがある。あなたのキムチみたい」
「ふふ、キムチ探偵ですから」
私は微笑んで、明太子入りキムチを彼女に差し出した。
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■エピローグ:そして、東京へ
その翌日。
「東京で、再び事件?」
また別の依頼が届く。
“女優と教師――ふたつの顔を持つ女性が、何者かに狙われている”
差出人は、姉・信恵。
そしてその名には、見覚えがあった。
“椎名遥香”――一之瀬湊の妻で、教育支援センター勤務。
「これは……家族に関わる事件になるかもな」
私は新幹線のチケットを手に取り、東京へ向かう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
博多編、いかがでしたでしょうか?
今回は、“未遂事件”という形で、
過去の痛みと向き合い、未来へ進む人々の姿を描きました。
葵真澄さんの微笑みは、
ただの明るさではなく、苦しみを越えてこそ生まれる優しさ。
彼女もまた、キムチ探偵と同じく「過去」と「未来」の狭間で生きるひとりなのかもしれません。
そして物語は、再び東京へ――
新たな事件、新たな人間ドラマが、主人公を待っています。
次回もまた、温かさと辛さを胸に、
キムチ探偵・朴凛奈は走り続けます。
ぜひ、次の物語もお楽しみに。