外伝:『香りでつながる、朴家の五つ星』
■Scene1:洋佑の想い──「父親の立ち位置」
……静かな厨房。朝の仕込みが終わった後、一人だけ残って包丁を拭きながら、洋佑は思う。
俺は、娘たちのヒーローだっただろうか。
いや、そうありたいとずっと思っていた。
信恵が泣きながら「大学には行かないで自分で生活したい」と言った時、
「いいんじゃないか」と背中を押した。親としては不安だった。でも、
あいつは自分の道をちゃんと探す子だ。いつか、俺よりも強くなると思っていた。
凛奈――
あの子が「キムチの匂いで事件を解決する」なんて言い始めた時はさすがに驚いたけど、
俺の血も、梵夜の血も、そして夏栄さんの血も、しっかりあの中に流れてる。
泰亨もな。
ステージの上でスポットライトを浴びる姿は、まるで違う世界に行ったようだ。
だけど、打ち上げの後に俺にだけこっそり送ってくる「家族へ」ってLINE、
それが一番嬉しいんだ。
家族はバラバラに見えて、香りのように、どこかで必ず繋がっている。
そう信じてる。
⸻
■Scene2:梵夜の独白──「初めて、母になった日」
……凛奈の初舞台を袖から見つめながら、ふと、出産の記憶が甦る。
痛みも、不安も、全部……あの時はただ、
「この子をちゃんと育てられるのか」って、そればかり考えてた。
信恵の時はただ夢中で、テヒョンの時はようやく余裕ができて。
でも、凛奈の時だけは違った。
あの子は、ずっと私のまなざしをまっすぐに受け止める瞳をしていた。
怖いくらいに。まるで、全部を見透かすみたいに。
だからこそ、私は女優としての名前を、あの子に預けなかった。
あの子にはあの子の人生がある。それでいて、きっと私以上に演じてみせると信じてた。
初めて舞台に立った凛奈を見た時、私は小さく呟いた。
「あなたは、私の誇りよ」と。
⸻
■Scene3:凛奈と祖母──「香りの修行」
……釜山の市場の裏路地。夕暮れ。祖母・夏栄が凛奈に言った。
「匂いを嗅ぎなさい。これはただのキムチじゃないわ。“記憶”が漬かってるのよ。そして――忘れちゃダメ、口に運びなさい。味も、真実も、あなたの中でひとつになるから」
凛奈は幼い頃、夏栄に何度も連れて行かれた。
白菜キムチ、大根キムチ、ポッサムキムチ……
同じ材料でも、誰が漬けるかで“匂い”が違う。それを当てるのが訓練だった。
「犯人は、キムチの中に必ず真実を残す。
発酵というのは、隠せない“時間”の記録なのよ」
祖母のその言葉が、凛奈にとっては刑法よりも、演技論よりも大切な“教本”だった。
「キムチをひと口食べただけで、過去の記憶が浮かぶあんたには――きっといつか、“香りで人を救う”探偵になれる日が来るよ」
その言葉を、凛奈はずっと胸にしまっている。
⸻
■Scene4:信恵の日常──「小さな居場所の中で」
……ソウルの小さなゲストハウス。信恵は洗濯物を畳みながら、同室のルームメイトと笑い合う。
毎日がぎこちないけど、楽しい。
6人で住む生活は、最初は息苦しかった。でも今は、誰かが風邪をひけばおかゆを作り、
お風呂が壊れれば順番に水を運び、喧嘩したら、謝るよりも先にコーヒーを差し出す。
「姉ちゃん、東京の大学行かないの?」
「うん。私は、ここで生き方を学ぶの」
信恵は、立派にならなくてもいいと思っている。
ただ、誰かの隣にいる。
それだけで、十分な“存在価値”があるってことを、誰かに伝えられる人間になりたい。
⸻
■Scene5:テヒョンのステージ──「光の中の家族」
……音楽が鳴り、ステージのライトがテヒョンを照らす。
彼はマイクを手に取る。
(姉ちゃん、姉ちゃん……今、見てる?)
心の中でそう問いかけながら、客席を見渡す。
彼女たちが口にしていた「夢」とか「表現」とか「香り」とか――
全部、今なら少しだけ分かる気がする。
(俺、あの時はちょっと照れてたけど……
凛奈のドラマ、めちゃくちゃ良かった。
姉ちゃんのゲストハウスでの詩集、泣いた。
父さんのだし巻き卵、やっぱり一番うまい。
母さんの、あのドレス姿……一生の憧れだよ)
曲が終わり、会場が沸く。
その中で、彼は静かに言った。
「ありがとう。俺の居場所は、家族です」
⸻
■エピローグ:香りが導く、未来へ
朴家の家族は、それぞれ違う道を歩んでいる。
でも、遠く離れていても――
キムチの香りがあれば、いつだって帰れる。
誰かが泣いていたら、香りで気づける。
誰かが悩んでいたら、言葉より早く、料理が答えをくれる。
「香りは、記憶と真実の案内人」
それを知っている家族だからこそ、
また明日も、どこかで“誰かの真実”を守り続けているのだ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。