第19話:眼鏡越しの誘拐劇 ―10億円の虚構―
みなさん、こんにちは。
今回は、“数学と眼鏡の街”鯖江を舞台に、天才同士の再会と知能戦を描きました。
かつて凛奈と数学の世界大会で火花を散らした岸奈緒美。
彼女からの突然のSOSは、“誘拐事件”と“企業内の闇”を孕んだ緊急の依頼でした。
数字の謎、割れたレンズ、そして密閉された工場の中で起こる異変。
小さな違和感を読み解きながら、かつてのライバルと共に挑む“探偵と天才少女”のタッグがここに復活します。
鯖江ならではのモチーフと、少しの“酸っぱ辛さ”を感じながら、本編をお楽しみください。
■Scene 1:福井・鯖江からの呼び出し
「凛奈さん…!お願い、力を貸して――!」
凛奈の事務所に届いた国際メールの差出人は、日本・福井県の女子高校生、岸奈緒美。
かつて、数学の世界大会で凛奈と決勝を争った宿命のライバルだった。
「え、あの計算お化けの岸さん……? 今さらなに?」
ヒョヌが驚くのも無理はない。
凛奈が苦戦した数少ない相手の一人――彼女からのSOSだった。
内容はこうだ。
「私の親友が誘拐されました。眼鏡メーカー“GLS光学”社長の一人娘で、
私の中学の先輩でもあるんです。家族ぐるみで仲良くしていて…これは“私の問題”なんです」
■Scene 2:消えた少女と、割れたレンズ
凛奈は福井県・鯖江市へと飛んだ。
GLS光学の社長宅は、眼鏡工場が併設されたクラシックな屋敷。
出迎えたのは、涙を拭いながら奈緒美に寄り添う社長夫婦だった。
「娘の**咲良**が学校から帰る途中で、突然姿を消したんです。
自転車は公園で倒れていて、そこに…これが」
渡されたのは、咲良が使っていた眼鏡の**“割れたレンズ”**。
その端に、油性ペンで書かれた数字があった。
【13.7-12.9】
「……これ、何?」
「こっちで調べても分からなかったの。でも、凛奈さんなら…!」
凛奈はレンズを見つめ、眉を寄せた。
「これ……物理座標のように見えるけど、違う。これは“距離”。
そして……視力矯正の“度数表記”にも似てる」
■Scene 3:天才少女たち、再びタッグを組む
その夜、凛奈と奈緒美は社長宅の一室で再会した。
「……久しぶりだね。前に会った時は、あんたがあたしに勝って、世界大会のトロフィー奪ってった」
「でもあなた、悔しくて数式ノート燃やしてたじゃん」
「それバラすな!」
2人は軽口を交わすが、目つきは真剣そのものだった。
「数字が示すのは、“13.7メートルから12.9メートルに移動”した、何かの位置。
これは工場の搬入口から、別の部屋へと“運ばれた距離”かもしれない」
「つまり……咲良ちゃんは、この建物の中に?」
■Scene 4:内部の罠と、監視の目
工場内を調べると、特別設計の密閉室があった。
しかしセキュリティは解除されておらず、誰も通った形跡はない。
「物理的に入れないはずなのに……でも、誰かが出入りした?」
そのとき凛奈は気づく。
「この警備システム……一部が、旧式に切り替わってる。
現社長じゃない。“元副社長”しか知らない設定が生きてる」
奈緒美が顔色を変える。
「まさか……前にクビになった副社長、沢村義典……!」
■Scene 5:キムチ、再び時空を越えて
凛奈は咲良の部屋にあった、お手製の“越前漬けキムチ”を口にする。
その瞬間、記憶が回転する。
凛奈は過去の咲良の視界に入り込む。
――ある日、彼女は父の代わりに会議資料を届けに、旧工場へと入っていく。
そこにいたのは、沢村。
「君の父は俺を追い出した……だから、代償を払ってもらうんだよ」
彼は、工場の旧搬入口の“床下空間”を使って、咲良を隠していた。
「……そうか。床下通気口。地図にない“半地下の空間”がある!」
■Scene 6:10億円の虚構と、少女の救出
脅迫メールには、こう書かれていた。
「10億円分のビットコインをこのウォレットに送れ。24時間以内に」
しかし、その裏には――
社長と沢村の間で進んでいた、知財権を巡る“経営スパイ”事件があった。
凛奈と奈緒美は、工場の床下へと向かう。
地下の空調口を外すと、そこにいたのは、かすかに呼吸する咲良だった。
「見つけた……!」
奈緒美の目に涙が浮かぶ。
「咲良、私、もう守られるばっかりじゃいられないと思ったんだ。
あの時の悔しさも、今日の怖さも、全部あんたに教えてもらったから――」
■エピローグ:メガネの向こうにあるもの
事件後、沢村は逮捕され、企業の不正取引も明るみに出た。
社長は会見でこう語った。
「娘の命を、数字の論理では測れないと知りました。守ってくれた少女たちに感謝します」
凛奈と奈緒美は、帰り際に眼鏡を交換して笑う。
「メガネかけるとさ、視界が変わるけど――
ほんとの“目の付けどころ”って、キムチ食べないと見えないのよね」
「……それ名言?」
「微妙かな?」
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
このエピソードでは、
・ライバルとの友情
・企業社会の裏側に潜む倫理の問題
・そして“見えるもの”と“見えないもの”の境界
――を、数字とキムチというユニークなツールで描いてみました。
事件そのものはシリアスでも、最後には凛奈と奈緒美の軽妙なやりとりで少しホッとしていただけたなら嬉しいです。
ちなみに、作中に登場した数値「13.7-12.9」の謎は、物理距離としてのヒントであると同時に、
“見えているようで見えていない小さなズレ”の象徴でもあります。
次回は、蜃気楼に浮かぶ殺意とうどん?ラーメンと大学教授についてです。
どうぞ引き続き、凛奈と“キムチの記憶”を追いかけてください。
それでは、また次の一口でお会いしましょう。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
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