第16話:東京の夜に消えた罪 ~ 記憶の罪とキムチのぬくもり ~
ご覧いただき、ありがとうございます!
今回で、ひとまず「キムチ探偵・朴凛奈」シリーズ第1部は完結となります。
舞台は再び東京――
華やかな街の裏で静かに進行していた「記憶を巡る連続事件」。
そこには、過去の実験で心を失った青年と、
彼の罪を“抱えようとした”優しさが隠れていました。
・記憶を奪われた被害者たち
・“罪を盗む”ことで苦しみから救おうとした青年
・GLORY JAPANの違法実験の終焉
・そして、“人間らしさ”を守ろうとする少女探偵
探偵・朴凛奈が選ぶのは、
完璧な正義ではなく、
“ピリ辛でも、誰かを救う道”。
これまで日本・韓国各地を巡ってきた旅路の一区切りとして、
少しだけ静かな、でも温かいエピローグをお届けできたらと思います。
それでは、どうぞ――
最後の東京の夜へ。
■Scene 1:記憶のない犯人
東京・六本木。
夜の街を見下ろす、高層タワーマンション「レジデンスAZURE」の最上階で、またひとつ、不可解な窃盗事件が発生した。
だが――今回の事件は、ただの盗みとは、何かが違っていた。
被害者4名の証言は、奇妙なほど一致していた。
「顔は見ていませんでした」
「物音も、気配もなかった……でも“誰かがいた”って、そう感じたんです」
「目を覚ましたとき、心の奥がぽっかり空いていて……何かが抜け落ちたような、そんな感じがして」
そして、そのうちのひとりは――胸を刺され、重体となっていた。
さらに不気味なことに、4人のうち3人は、GLORY JAPANに多額の資金を提供していた有力な投資家だった。
「……またGLORYか」
釜山から再び東京へと戻った凛奈は、六本木署で柴田警部補と再会する。
「これ、普通の窃盗じゃない。たぶん、“記憶の一部を削る”ために行われた犯行よ」
「記憶を削る……?じゃあ、犯人は“盗んだ記憶”を持ってる可能性があるってこと?」
「うん。そして、きっと本人も……自分が何をしたか、覚えてないのかもしれない」
柴田の眉が、微かに動いた。
「記憶のない犯人、か……最悪のパターンね」
■Scene 2:現場に残された“忘却のメモ”
事件現場に残されていたのは、レシートの裏に鉛筆で殴り書きされた、たったひとつのメッセージだった。
「記憶が、また消えた。
それでも誰かが言った。“君は罪を背負っていない”と。
でも罪が消えないなら、私はそれを“盗むしかない”」
凛奈はその紙切れをそっと指先でなぞる。
「……罪を“盗む”?これは誰かに罪をなすりつけてるんじゃなくて、“代わりに背負おう”としてる?」
柴田が目を細めた。
「それが本当なら……犯人は、自分の意思で“罪を集めてる”ってこと?」
凛奈の脳裏に、ひとつの可能性が浮かぶ。
「……記憶を移すキムチ。あたしが知ってる、ある“発酵食品”が関係してるかもしれない」
柴田は即座に反応する。
「……また、キムチ?」
■Scene 3:元GLORY被験者、“記憶を背負う男”
捜査線上に浮かび上がった名前――芹澤直哉、28歳。
彼はかつて、GLORY JAPANが極秘で進めていた“記憶移植実験”の被験者だった。
事故によって自我が分裂し、それぞれの人格が異なる“記憶の断片”を持ったまま、仮想空間へと転送された――という記録が残っている。
実験後、彼は元に戻った“はず”だった。
だが唯一、“罪悪感”だけが、彼の中に深く残り続けたのだという。
凛奈は、彼に会いに行った。
廃ビルの一室で静かに暮らしていた直哉は、ぼそりと口を開いた。
「……俺は、誰を傷つけたのか覚えていない。
だけど、誰かが泣いた記憶だけが、ずっと頭から離れないんだ」
「だから“記憶を盗んで”、自分の中に抱えたの?」
「……ああ。俺だけが重くなれば……誰も、苦しまないで済むと思ったんだ」
その目に、まるで記憶の重さに押しつぶされるような陰が差していた。
■Scene 4:ラスト・キムチ
凛奈は、そっと手にしていた小瓶を差し出した。
「これ。釜山の祖母が漬けた“最終記憶キムチ”」
「……キムチ、か」
「これはね、誰かの記憶を“食べる”ためのものじゃない。“自分の記憶を見つめ直す”ための味なの」
直哉はその言葉に静かに頷き、小さな一口を口に運んだ。
次の瞬間――ぽろぽろと、涙がこぼれた。
「……これが、“人間の味”なのか。
ぬくもりって……こういうことなのか……」
凛奈は優しく、語りかけた。
「うん。だから、もう全部を抱えなくていい。
“誰かの代わり”じゃなくて、“自分の人生”をちゃんと生きて」
■Scene 5:罪のありか
数日後、芹澤直哉は自ら警察に出頭し、事件は静かに終わりを迎えた。
被害者たちの証言も少しずつ回復し、GLORY JAPANの違法実験に関する新たな記録が摘発され、組織は東京からの撤退を余儀なくされた。
柴田警部補は言った。
「あなたが来てくれて、本当に良かった。“人間らしさ”って、法だけじゃ裁けないものだから」
凛奈はふっと笑った。
「ピリ辛だけど、心にちゃんと残る“本当の正義”――あたし、それだけは失くさないようにしてるから」
■エピローグ:帰国と、その先
釜山に戻った凛奈は、祖母・夏栄の前に立った。
「ばあちゃん。あたし、日本でもちゃんと探偵やってきたよ」
「そうかえ……それなら、そろそろ“次の味”を試す頃やな」
夏栄は静かに笑いながら、春の風とともに、“春キムチ”を漬け直し始めた。
キムチの香りは、未来へと続く――
■最終章エピローグ
その夜。
釜山の小さな探偵事務所で、凛奈は窓を開けたまま、夜風を感じていた。
「ねえ、ヒョヌ……あたし、“罪”って何か、少しだけわかった気がする」
「でもね、やっぱりあたしが選ぶのは――」
「正義がちょっとピリ辛でも、“人を守る方”だから」
そのとき、風に乗って、どこかで――
ふわりと、桜の花びらが舞ったような音がした。
⸻
《完》
これで一旦、『キムチ探偵★凛奈!』全16話、完結となります。
ここまで読んでくださった皆さま――本当に、本当にありがとうございました!
『キムチ探偵』全員16話シリーズ最終章となる東京編では、「記憶犯罪」と「罪を背負う男」、そして“最後のキムチ”というテーマを通して、
少しでも「正義とはなにか」「人を守るってどういうことか」を感じていただけたなら、作者としてこれ以上の幸せはありません。
今後からは、釜山から始まり、長崎、熊本、佐賀、宮崎……そして東京へと舞台を巡りながら、
各地の観光地やグルメ、そして人間の“記憶”と“心”にまつわる謎を追っていく物語です。
凛奈という探偵を通じて描きたかったのは、単なる推理劇ではなく、
ちょっとピリ辛だけど、どこか“ぬくもり”のある――誰かの記憶に残るような物語が始まります。
最終話(第16話)で登場した芹澤直哉のように…
人は誰しも、忘れたい過去や、誰かの痛みを背負って生きているのかもしれません。
それでも。
誰かがそっと差し出した“キムチ”のような優しさが、
ほんの少しでも、人を救うことがある――私は、そう信じています。
またいつか、凛奈たちの新たな冒険が始まるかもしれません。
その日を、もし少しでも楽しみにしていただけたら……心から嬉しく思います。
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その一つひとつが、次の物語を書き進める大きな力になります。
皆さまの応援が、凛奈たちの未来をつくっていきます。
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正直なところ……まったく反応がないと、やっぱりちょっと心が折れそうになるんです。
なので、皆さまの温かい応援を、ほんの少しだけでも届けていただけたら、とても嬉しいです。
最後まで読んでくださったあなたへ――
心からの感謝と、これからの物語への期待をこめて。
本当に、ありがとうございました!
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そして――
次回からは、いよいよ 日本編 が開幕します!
(軽くだけ17話は北海道‼︎ 18話は秋田県… 19話は福井県。20話は富山、21話は金沢とこんな感じで47都道府県を巡るよ‼︎ )
北海道に秋田、京都、富山、愛媛、鹿児島、福岡に沖縄……
さまざまな街を巡りながら、地元の文化や絶品グルメ、そして新たな謎が、凛奈を待ち受けます。
どうぞ、お楽しみに!
それでは、またどこかで。
“ぬくもり”のある物語の中で、お会いしましょう。