外伝:キムチに咲いた約束(火野洋佑と朴梵夜の出逢い)
■Scene1:事件の夜、渋谷のスクランブル
東京・渋谷。
人の波がぶつかり合うその中心で、日本映画の記念イベントが開催されていた。赤い絨毯の上に並ぶ女優たち。記者のフラッシュ。ざわめく観客。
その中に、韓国からやってきた若き女優――朴梵夜の姿があった。
長身で気品のある佇まい。日本での活動は始まったばかりだが、その存在感はすでに一部の注目を集めていた。だが同時に、それは敵意や偏見も招いた。
彼女が壇上に立ったその時だった――。
「帰れ!」「日本をナメるな!」
罵声。怒号。そして、飛んできた――生卵。
その瞬間、ひとりの男が前に出て、彼女の前に立ちはだかった。
彼のジャケットには白い黄身がべっとりと付着していた。
「大丈夫ですか、ここから離れましょう」
低く落ち着いた声。その背中は広く、冷静な目だけが静かに怒りを宿していた。
それが、火野洋佑(当時:警視庁警視)との最初の出会いだった。
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■Scene2:始まりの雨
その夜、イベントの裏口で傘もささず佇む梵夜に、洋佑はそっと傘を差し出した。
「さっきのは……私、慣れてるの」
「慣れる必要なんて、ありません。あんなのは間違ってる」
互いに言葉を選びながらも、自然と距離は近づいていた。
彼のスーツは濡れたまま、彼女の瞳は雨に濡れて揺れていた。
「君のことを、守れるのは警察だけじゃない。俺は一人の人間として、君を大事にしたいと思った」
その夜、梵夜は一目惚れだったと後に語っている。
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■Scene3:静かなる告白
数ヶ月後。撮影の合間の休み。ふたりは京都を旅していた。
東山の静かな石畳、苔むした庭園の縁側で、梵夜が尋ねた。
「どうして……私みたいな、他国の女優に」
「国も言葉も関係ない。君は、君だろう」
「私、あなたとなら――母になってもいいと思ったの」
それは、告白と誓いの言葉だった。
彼は答えた。
「じゃあ、俺が父になる。君を一生守る。俳優でも探偵でも、なんでも応援する」
その場で、ふたりは手を取り合い、形式も国籍も越えて、心で婚約を交わした。
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■Scene4:ふたりの家族、始まる
韓国と日本、行き来するような日々が始まった。
数年後――長女、朴信恵が誕生。
続いて、次女凛奈、長男の泰亨と三人の子供に恵まれる。
母・梵夜は韓国で女優としての地位を築き、
父・洋佑は警察官を辞めて、日本料理店と探偵事務所を開業。
互いに別の分野に進みながらも、支え合い、すれ違わずに歩んだ。
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■Scene5:小さな瞳が見ていたもの(凛奈視点)
祖母・夏栄は釜山の市場で、食材を扱いながら、
「キムチの香りには、人の記憶と真実が宿る」と語った。
母は、脚線美を活かしたモデルの仕事のかたわら、
「伝えたい演技とは、正しさではなく、人の心よ」と言った。
凛奈は、いつもそれを聞きながら育った。
小学生の頃には、祖母の市場で匂いを嗅ぎ、キムチの発酵度を当てて遊び、
中学生の頃には母の撮影現場で台詞の練習に付き合い、影で涙を流した。
そして高校生になった頃――
「女優なんて無理」「母親が有名だからって調子に乗ってる」
そんな罵声が飛び交う中、彼女は一人、母の名を隠してオーディションに挑み続けた。
同時に、祖母の手伝いをしては「推理の基本」を学んだ。
香りの微細な違い、言葉の裏にある感情の探り方、
それらすべてが、今の“キムチ探偵・朴凛奈”を形作っている。
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■Scene6:家族の今、そして未来へ
姉の信恵は、韓国のゲストハウスで新しい生活を始めた。
6人での共同生活のなか、自分の居場所を築こうとしている。
弟・泰亨は、韓国の大学に通いながら、アイドルとしてステージに立つ。
そして凛奈は――
女優として、そして探偵として、
「香りで真実を見抜く」という新たなスタイルで、数々の事件を解決していく。
それは、父と母の“守りたいという想い”から始まった物語。
香りと声、記憶と約束が、静かに彼女を未来へと導いていく。
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◇最後に
「父と母が守ってくれた世界で、私は誰かの真実を守りたい」
――朴 凛奈
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