第146話:声のない音楽室
■Scene1:釜山芸術音楽専門学校・午後1時
釜山湾の海風が吹き抜ける丘の上、音楽専門学校「プサン・アカデミー・オブ・アーツ」。
凛奈は、港で見つかった遺体のポケットにあった“録音テープ”の手がかりを追って、校内の録音スタジオを訪れていた。
「このマイク……ここで録られた音と一致してる」
校内設備に詳しい女子生徒が説明する。
「ここ、前に“実験録音”をしてた人がいて……でも、その人、去年辞めちゃって」
凛奈はメモを取る。
「その人、名前は?」
「イ・セファンさん。今は行方不明らしいです」
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■Scene2:“聞こえない”妹の証言
凛奈は校内の一室で、セファンの妹だという少女・イ・セリンと出会う。
中学3年生。耳が不自由で、筆談と手話で会話する。
>(筆談)「兄は“録音の裏に言葉がある”って言ってました」
>(筆談)「だから、言葉を信じなくなった。音を信じなくなった。……最後は、声も出さなくなって」
凛奈は手帳に書く。
>「じゃあ、あなたは兄の最後の録音を聞いてますか?」
セリンは頷き、スマホを取り出す。
再生されるその音は――
【録音音声】
「釜山の声を止めろ。……翻訳されるな」
「“あの人”が来る前に、伝えておく」
「もう“言葉”は裏切った」
その声は、確かにイ・セファンのものだった。
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■Scene3:事務所での解析、“翻訳”というキーワード
凛奈は音声を持ち帰り、ジウンとともに解析に入る。
「“翻訳されるな”……これって、“何かの文書”が変えられているという意味にも取れる」
「あるいは、“言葉の裏を読まれるな”という警告かも」
さらに音声データの中に、中国語・日本語・韓国語が断片的に混ざっていることが判明。
「……これは、“多言語による暗号”?」
凛奈は、ある一人の人物を思い出す。
(――愛媛で出会った、舞衣さん。翻訳家を目指していた彼女の“先生”。
確か……韓国に長期滞在しているって言ってた)
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■Scene4:夜の連絡、舞衣さんからの“応答”
その夜。
凛奈のスマホに、“舞衣”という名前のLINE通知が届く。
舞衣:
「凛奈ちゃん、久しぶり!
実は今、韓国に来てるんだ。先生に会いに……でも、連絡が取れなくなってて。
何か、変なことが起きてる気がする」
凛奈の手が、スマホを握りしめる。
(――これは、繋がった。次は、先生の身に……?)




