第145話:スタジオ・ノワール
■Scene1:釜山・Sスタジオ、ドラマ撮影初日
午前7時、釜山湾に面した大型スタジオ「Sスタジオ」にて、ドラマ『釜山レクイエム』の撮影初日が始まった。
主演は――朴凛奈。
共演にはベテラン俳優と、最近話題の新人女優が並ぶ。
しかし、スタジオ内の空気はどこか、硬い緊張感に包まれていた。
監督がボソリとつぶやく。
「前作の撮影で……音響スタッフ、ひとり消えたんだよな」
凛奈の耳が、ピクリと動いた。
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■Scene2:音声ファイルの“ノイズ”
昼。
撮影後のチェックで、音響スタッフが凛奈に近づく。
「凛奈さん。念のため確認してほしいんですが……この音声、聞いてもらえます?」
再生されるのは、凛奈がセリフを発するシーン。
だが、凛奈のセリフのすぐ後ろに、こんな音が入っていた。
「……まだ、終わっていない」
女の声。明らかにスタジオの誰でもない声。
そして、その音は――マイクとは別経路から録音されていた。
「これ……混線ですか?」
「いいえ、録音経路はスタジオ内だけ。つまり、“この中にいた誰か”が話したことになります」
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■Scene3:暗号としての“声”
凛奈は音声データを持ち帰り、ジウンと共に事務所で解析を開始。
「声紋分析をしたら、“一致しない”って出ました。……つまり、今このスタジオに存在しない人間です」
「じゃあ、前作で失踪したスタッフ……?」
凛奈はふと、ノイズの中に“周波数のずれ”を発見する。
「この声……意図的に“編集”されてる。
つまり、伝えたい“何かのメッセージ”を含んでる可能性がある」
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■Scene4:夜の屋上と兄の気配
その夜。
事務所の屋上で、凛奈は一人、空を見上げる。
兄・泰亨がそっと現れる。
「お前……無理してないか?」
「兄さん……」
「主演とか、探偵とか、色んな顔して、でもな……お前の“怖い”って顔、たまには見てもいいんだぞ」
凛奈はわずかに目を伏せ、そして小さく笑った。
「ありがとう。でも、もう少しだけ――この“声”の主に近づきたい」
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■Scene5:“次の事件”の気配
翌朝。
Y SKYビルの制作会議室に、プロデューサーが駆け込んでくる。
「――釜山港で、死体が見つかった」
全員が息をのむ。
「身元は不明。でも、ポケットには“録音テープ”が入っていた。
そこに……“彼女が知ってはいけない”という音声が」
凛奈の手が、自然と胸ポケットのキムチパックに触れた。
(また、動き始めてる――)




